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言葉の宝箱0866【先がないかもしれない、という思いが過去のすべてに蓋をしている可能性もある】


『向日葵のある台所』秋川滝美(角川書店2018/8/30)


46歳の麻有子は美術館に勤める学芸員。シングルマザーで中学二年の娘葵がいる。東京の郊外で親子二人、平和に暮らしている。そんな折、麻有子の姉・鈴子から「母が倒れた」と電話が掛かってきた。そもそも麻有子自身は母とも姉とも折り合いが悪く、どうしても避けられない冠婚葬祭以外は極力関わらないようにしてきた。帰省などしたくないが、一向に聴く耳を持たない姉は「とにかく来て」の一点張りで、麻有子に退院した母の世話を押しつけようとしている。電話ではらちが明かなくなり、お見舞いに行くことから、麻有子の「家族」という檻に捕らわれるようになっていく。

・何もかも否定して、なかったことにしたいほど元夫を憎んではいない。
そもそも、それほどの執着がなかった。
憎悪は愛情の裏返しと言うが、結婚はすべきだし、
この人ならなんとなく気が合いそう、などという理由で
結婚を決めた麻有子は、
元夫に対してそれほど強い感情を持つことができなかったのだ P31

・先がないかもしれない、
という思いが過去のすべてに蓋をしている可能性もある。
だが、それならそれでいいと思ってしまう自分がいた(略)
母や姉と絶縁できなかったのもそのせいだ。
自分の気持ちを無理やり押し込めてでも、
人の道に外れるまいと頑張ってきたのである。
それならいっそ、最後の最後まで、
あるべき姿をまっとうすべきではないか P291

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