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言葉の宝箱 0408【自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい。聖書にこんなメッセージが出てきますが、悲しいことに、今の社会では、隣人を愛せよ、なんて言葉より、隣人には気をつけよ、と注意を呼びかけて回ったほうが、世の中のためになるでしょうね】

『ターニング・ポイント』渡辺容子(講談社文庫2012/5/15)


人気絶頂アイドル・グループのリーダーが殺害された。もう一人の主要メンバーを警護する八木はアイドルの命取りともなりうる思いもよらない人間関係を目の当たりにする。乱歩賞受賞作『左手に告げるなかれ』のヒロインが人間たちの哀しい性に寄り添い業と向き合う出色の連作ミステリ。
<文庫オリジナル>

・自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい。
聖書にこんなメッセージが出てきますが、
悲しいことに、
今の社会では、隣人を愛せよ、なんて言葉より、隣人には気をつけよ、と注意を呼びかけて回ったほうが、世の中のためになるでしょうね。
賃貸であれ、購買物件であれ、引っ越しをするとき、
日照や立地条件、交通の便と一緒に、隣にどんな人が住んでいるかを、
我々は忘れずに調査しないといけないようです(略)
互いに思いやり、配慮する精神は、希薄になるばかりで、
隣人愛という言葉そのものが、死語になりつつあるのかもしれない(略)
私は同じキリストの言葉でも「罪なき者、まずこの女に石を投げよ」との
メッセージを、心の中で噛みしめていた。
自分の行いを省みて、
自分には石を投げる資格がないと気づいたときに初めて、
人は他人に対して寛大になり、優しく振る舞えるようになるものだ。
キリストの言葉を、私はこうした意味に解釈している。
しかし、現代にキリストが蘇り、
同じメッセージを群衆に向かって告げたら、どうだろう?
恥ずかしそうに顔を赤らめて去っていく人も、もちろんいるには違いない。だが、「うるさい」といってキリストに向かって石を投げつける輩は、
それよりも遥かに多いのではないだろうか(略)
今の社会には、自分の罪を棚に上げ、
石をぶつけるかのごとく他人を攻撃する、
自己中心的な人々が蠢いているように思えてならない P449

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