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言葉の宝箱1273【一般的に作家は文章を書くのが仕事だと思われているが、それだけではない。作家にとって一番の仕事は、人の本質を見極めることなのだ。小説は「人」を書くものであり、故に人を書く作家は、人と会ったとき相手の心の在りようを読もうとする習性がある。意図するとしないとに拘わらず、作家にはそういう技術が求められている】


『ハヤブサ消防団』池井戸潤(集英社:2022年9月10日)


・人を殺すのは、悪人ばかりじゃない。
善人だって、返しきれない借金に苛まれ、
いつ終わるとも知れない妻の介護が続けば、
それを終わりにしたいと思うかもしれない P60

・一見穏やかな山村にも、複雑な人間関係や事情があり、
それに翻弄される人たちがいる。
人が集まるところに様々な軋轢が生まれるのは、
畢竟、都会も田舎もさしたる違いはないということなのだろう P75

・事情なんかさ、知らん方がええこともある。
もしあいつが犯人なら P80

・ずっと田舎に住んどる人は、
田舎の本当の良さがわかってないところもあるでね P105

・普段から物語を作りつけない者が簡単にできるほど、
創作は単純ではない。
人が作ったものをあれこれ言うのと、
自分が作るのとでは大違いなのだ P113

・「ほう。逐一、挨拶するんですね(略)
知ってる人なんですか」
「いや(略)
ただ、相手はぼくのことを知ってるかも知れないし、
これぐらいの田舎町だと、
知らん顔して通り過ぎるってのはないんですよ」 P153

・形あるものに実体はなく、実体のないものに形があるのだとしても、
この世の中には悟りを開けぬ愚かな人間たちが確実に存在する(略)
形あるからこそ実体であり、その実体は形であり、
そして我々にとってかけがえのない存在である。
そのひとつが失われ、
燃え尽き、雨に打たれて足下でがれきと化している P183

・一般的に作家は文章を書くのが仕事だと思われているが、
それだけではない。
作家にとって一番の仕事は、人の本質を見極めることなのだ。
小説は「人」を書くものであり、故に人を書く作家は、
人と会ったとき相手の心の在りようを読もうとする習性がある。
意図するとしないとに拘わらず、
作家にはそういう技術が求められている P288

*御魂抜きとは、処分する仏壇から魂を抜く儀式だ。
僧侶に頼んで経を上げてもらうのである P304

・彼らの信条をひと言で表現すると、“自己正当化“なんです(略)
辛いこと、嫌なことがあったら、それは自分じゃなく
そういう目に遭わせる相手、ひいては世の中に問題がある。
その問題を排除することで、自分は常に正しく、平穏でいられる(略)
言い換えれば、全ては他人のせいってことですね P431

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