You are what you eat - あなたはあなたが食べたものでできている -
以前のnoteでも記させていただいた通り、コロナ第7波やウクライナ危機を発端に、多くの食品メーカーや小売業、外食産業が揃って価格高騰をおこなっています(原料費高騰に伴う食材や食料品の高騰を理由として挙げています)。
こんな状況下、農と食の従来とは異なる"繋ぎ方"が、極めて大切になっていると私は思っています。換言すれば従来までのマスマーケット型や中央集権的手法では、生産者と顧客を繋きにくくなってきたからです。
環境や価値観の変化、顧客のメディア活用とデジタル化。このような様々な変化によって自身の見定めたことによる新しい"繋がり"を人は強く求めている。そしてその変化が、顧客における"よい食品"、"美味い食品"の概念を変えてしまった。今や「"美味しい"、"安い"から売れる」のではないのです。
農と食の歴史
まずは人類における歴史から、食についてふれてみます。
①古代:農耕のはじまり
古代農耕はネアンデルタールが滅んだ後、12,000年前頃ホモ・サピエンスの時代に始まったと言われています。そしてこの農耕が、経済の概念を引き起こしたと経済学者ヤニス・バルファキスが著書「Talking to My Daughter About the Economy」(ダイヤモンド社;2013年)にて指摘しています。
この名著は、実は以前にもご紹介した「100分de名著 for ティーンズ」で紹介されていました(8月15日放送)。次回再放送が22日に予定されているので是非ご覧になってみてください。
②中世:嗜好性意識と国家アイデンティティ
大航海時代となり、大規模な交易によって香辛料獲得戦争などから"嗜好性"に対する意識が高まりました。他国への侵略、貨幣の銀の獲得など資本主義をさらに一歩進めて、産業革命や支配と被支配の関係をより強化していった時代と言えるでしょう。
③近代:産業革命以降
食の工業化や大量生産体制が確立されていきます。今まで自らの暮らしに必要なものを自らで作っていた慣習が、市場にて生産されるようになっていきました。農奴は解放され"自由"の概念が生まれた時代でもあります。そして、この自由の概念が競争社会を生み出したのです。
食の観点からこの動きを捉えてみると、
・職住分離による加工・調理の集約化
・家族という共食単位の成立
・共同食スタイルが大衆化
などが挙げられるかもしれません。1950年代のアメリカでは、複数の家族が交代で料理を作る共同体的なものから、家族単位で食をする動きがありました。またこれら共同食スタイルが大衆化路線になり、マクドナルドなどの外食産業に進展したと言えるかもしれません。これによって同じ均質化したものを安く大量に食べる食文化を生み出したのです。
つまり大量生産型になったのは1950〜60年以降という非常に最近の出来事であると確認できます。また時代の流れに合わせて、食のあり方やスタイル自体も変化を遂げていることもわかります。食というのは、生きることに繋がる大事な視点を考えるテーマであると言えるでしょう。
令和の時代
では歴史を確認できたので、次は我々が生きる「令和」で起きている事象についてみてみましょう。
①人口の変化
世界人口は2019年に77億人、2050年には26%増加見込みで99億人。一方の日本人口は、2017年1億2700万人から、2050年には約2割減で1億200万人なる予想がたてられています(*1)。
また国内消費量は、2050年には2017年対比で33.6%減少予想されていますここで特に注力すべきはこの2050年まで総人口に対する65歳以上の高齢者比率37.7%上昇しているという点です。当然ながら加齢によっての食・ライフスタイルの変化もあるでしょう。
②Z世代の台頭への対応
2020年、Z世代の世界人口比は既に35%と言われ、彼らの購買力は2030年にはミレニアル世代を上回ると予測されています(*2).
つまりZ世代の総収入が上回るのです。これは①でも指摘しましたが、これらのメイン層が台頭することによって大きな変化を起こすことは想像に難くありません。
③環境課題への対応
気候変動への対処や海や陸の豊かさを守るという所謂SDGs対応、CO2の排出量削減問題。日々これら環境課題に纏わる話を聞かない日はないでしょう。今後ビジネスを進めていかねばならない私たちにとっては、避けることができない課題なのです。
現在、日系企業や地域創生を謳う地域公共事業の数多くが、農と食を繋ぐことを標榜しながらも流通・販売などのマーケティング手法は、従来型のバリューチェーン型生産・消費モデルを活用していると見受けられます。
わかりやすく言い換えると、GMS、スーパーマーケット、農協や生協、食メーカーなど食に纏わる企業ののマーケティングの考え方の多くは、「農業」は消費者から遠く離れた田畑で大量生産するものと考えているケースが多いのではないでしょうか。
しかし、これでは約40%が現地で廃棄され、流通過程ではその内の約25%が食品ロスになっているという時代。つまり、上記①-③を勘案はすれども、まだまだ改善するべきことは多々あるのではないかと思います。その為には視点を変えることが必要です。
バックキャスティングの重要性
このnoteでも何度かお伝えさせていただいておりますが、私が携わっている食品関連企業の多くが捉えていらっしゃる DXは、単なる手段としてのデジタル化を目的としており、Xのトランスフォーメーションによって変革をするところに至っていないのが、悲しいながらの現状です。
今ある課題や事象について、本来の目的である未来像をバックキャスティングされていない。既に自社でできるプロダクトやサービスの延長のものを対策として考えるフォーキャスティングから抜け出せていないのでは、そんな姿を見ながら私はいつも危惧するのです。
言わずもがな、バックギャスティングとは現在から未来を考えるのではなく「未来のあるべき姿」から「未来を起点」に解決策を見つける思考法を意味します。1970年代に環境問題がきっかけで生まれた言葉ではありますが、これからの地球環境をどうしていったらサステナブルにできるかといった誰も答えを持っていない「未来」に焦点を当てアプローチするという手法がビジネスでも活用されるようになってきました。
変化が激しく、先が見えない今だからこそ敢えてこのバックキャスティング発想で食を捉えるべきではないかと考えます。従来型からの培ってきたマスマーケットアプローチの見直しで変えること。とても難しいけれど挑戦しうる余白があると私は信じているのです。
D2Cモデル
もちろん嘆くばかりではなく新しい変化の兆しもみえてきています。
皆さんもご存知食べチョクのような D2Cモデルが登場し、現在50万人の会員まで成長しています。
これは、生産者から消費者への直接の配送に加え、生産者への8割バックなど生産者サイドに立ったモデルですが、新しい顧客の作り方については、まだまだ進化途上、開発の可能性がありそうです。
こうした食べチョクの D2Cモデルと従来型バリューチェーン(生産→流通→消費)モデルから次にどのようなモデルに変化していくのか。注目していきたいところですね。
次の一手 -手がかり-
能楽師である安田登氏が、NHK番組「100分de名著」で南北朝時代の公と武士の闘いを"あわいの時代"として、変化していく現代の時代が交わるのが今の時代と似ていると、斬新な考えを提案されて興味深かったです(どんだけその番組が好きなんだ、とご指摘うけそうです…)。
この言葉に準えて食について当てはめてみると、
生産者のこだわりが正当に評価される仕組みづくりが、食べチョクの50万人の会員に成長しているのです。
弱者が次の時代を作るとすれば次は生産者と並行して生活者の変化を合わせた新しいモデルが、時代の主力になるかもしれません。
つまり、こんな感じでしょうか。
「生産者→X←生活者」
まとめの代わりに
今回は「食」について色々考えてきました。あまりに広いテーマの為に伝わりにくかったことがあれば、ご容赦ください。
食べることの喜びやワクワク感を生み出す力、それは人間による体験価値、身体知に関わります。それは食べる喜びを届ける本質を考えること、食は偉大であるということの再認に繋がることでしょう。
仲間と食べる、家族と食べる、誰かと食べるシーンをたとえ孤食が増えていったとしても、配信するサービスなどがコミュニティ化していくのかもしれません。農家の方の作ったものが健康維持できるデバイスなど重要になってくるかもしれません。個人だけではなく企業にとっても食を捉える環境全てに対する概念が変化する時なのです。
生産者と生活者が中心の世界がもう既に始まってきています。デジタル業界的に言えば、web3.0の時代です。そしてまた次世代の農と食の"繋ぎ方"は変化しています。
次の時代を担う世代と日本独自の特性を考察しながら、インサイトを考察し、新しい食の価値観を提示していかねばなりません。それが農と食を"繋ぐ"方法であり、"食と健康"というような曖昧な言葉ではないものを探索していくことも必要です。それは従来リサーチでは、把握出来なかった暗黙知の解明作業であることでしょう。
(弊社が提唱するセンスメイキング理論を最大限活用したら、それが叶いますよ。笑)
(*1) World population prospects(2020)
(*2) Bank of America Research(2020)
(完)