アニメ好きの視点で「まんが日本昔ばなし」を見る
今回は、名作「まんが日本昔ばなし」について書こうと思う。
これは1975年から始まったという歴史あるアニメシリーズであり、全部で1470話ほどあるというんだから、それを全部見ようといってもさすがに無理である。
見たいと思ったタイトルを、個々にネットで検索して見る。
それしかないと思う。
幸い、今の時代はかなりのエピソード数がアーカイブされてて、ほとんどを無料視聴できるのはラッキー。
そういや、何年か前に伊集院光さんがラジオで「日本昔ばなし」ネタを取り上げてて、それが「飯降山」という話だったんだ。
これは、ちょっと怖い系のやつだね。
「日本昔ばなし」は割と怖い系の話が多くて、この「飯降山」というのは昔から「怖い系ランキング」上位にランキングされてるやつさ。
私の知る限り、そのてのランキング上位でよく見かけるタイトルは
・飯降山
・吉作落とし
・十六人谷
・亡者道
・三本枝のカミソリ狐
という5本で、このへんが怖い系TOP5なんじゃないかなぁ?
あと、後味悪い系では「キジも鳴かずば」が、かなり有名かと・・。
で、「飯降山」に話を戻すが、これ、よく見たら演出(監督)が有名漫画家のいがらしみきお先生なんだよ。
何故いがらし先生が「日本昔ばなし」の演出に関わったのかは謎なんだが、どうやら関わったのは、これ1回きりらしい。
色々な意味で、伝説回だねぇ・・。
実は「日本昔ばなし」って、案外色々な人が演出を務めてるんだ。
これだけの長期シリーズとなるとレギュラースタッフだけじゃ回せなかったのか、おそらくあちこちに応援を依頼したんだろう。
で、たまに入る臨時の人というのがまた驚くほどの大物だったりするわけで、ざっと名前を挙げると
・出崎統(「あしたのジョー」「エースをねらえ」etc)
・りんたろう(「銀河鉄道999」「幻魔大戦」etc)
・杉井ギサブロー(「タッチ」「銀河鉄道の夜」etc)
といったレジェンド級ですよ。
杉井先生は「昔ばなし」を気に入ったのか、途中から準レギュラー化してたけど。
で、今回は上記の3名が作った「日本昔ばなし」をご紹介しようかと。
これがね、結構凄いのよ。
個々に、ちゃんと各々の個性が出てるんだよね。
出崎統監督作品「赤鬼からもらった力」
この物語は、少女・おのぶが赤鬼に気に入られ、「鬼のチカラ」を授けられたことによって怪力自慢のオンナノコになる、というお話。
ストーリーとしてはたったそれだけのシンプルなものなんだが、怪力系の話ゆえ、劇中にはおのぶvs山賊一味などのアクションシーンがあるわけね。
そこは「アクション演出の出崎統」の真骨頂である。
あと、出崎さん特有の太陽光の照明演出等も各所に見られて、らしさ満点である。
で、最初はコドモだったおのぶもやがて成長し、これがまた結構いい感じに成熟するんですよ↓↓
最終的に、おのぶはオリジナルの鬼よりも強くなります。
いまどきの俺Tueee!系が好きな人にはタマらん展開だと思う。
りんたろう監督作品「雪女」
これは日本で最も有名な怪談のひとつ、「雪女」だね。
物語の内容は今さら説明の必要もないだろうが、私がこれをいいなと思ったのは、雪女の造形である。
雪女スイッチが入ると、こういうビジュアルになるんだよね。
このへんはさすがりんたろうというべきか、やはり「銀河鉄道999」を彷彿とさせるものがある。
雪女=プロメシューム、という解釈でOK?
なぜか、メーテルが出てこなかったのは残念。
杉井ギサブロー監督作品「赤と青の天狗さん」
これは、純粋に杉井ギサブロー先生の画力を堪能していただきたい逸品。
杉井先生の描く天狗が可愛いんですよ!
物語としては、超アホっぽいコメディである。
青の天狗が、遠くにあるお城(10km以上離れてるんじゃないかと)に鼻をにょきにょき伸ばしたら、お城の女官たちがそれを物干竿と間違えて着物をたくさんそこに掛けたもんで、天狗はたくさん美しい着物をゲットすることができました、と。
赤の天狗はそれを真似て、彼もお城に向けて鼻をにょきにょき伸ばしたら、今度はお城のサムライたちが刀で切りつけたり、矢で射ってきたりしたので、天狗は鼻をケガしちゃいました、というお話(笑)。
とにかくこれは、杉井先生の描いた天狗をひたすら愛でる作品ですね。
癒されます。
あと他にも「アニマトリックス」の川尻善昭、「STEINS;GATE」の佐藤卓哉「シンエヴァンゲリオン劇場版」の前田真宏らが手掛けた作品もあります。
川尻善昭監督作品「大蛇の塔」
佐藤卓哉監督作品「デッカンブー」
前田真宏監督作品「子を呼ぶフア鳥」
この3作品は、いずれもダークファンタジー。
少なくとも佐藤卓哉、前田真宏両名は当時としてまだ経験の浅い若手だっただろうに、まさか「日本昔ばなし」の演出をやってるとは思わなかった。
でも、やっぱ若いだけあって演出が斬新なんですよ。
非常に面白い。
そして川尻善昭はさすが「伝奇のレジェンド」だけあって、もともと蛇などを扱わせたらピカイチの人である。
改めて思うが、やっぱ川尻さんは画力が凄い!
さて、こうして「日本昔ばなし」を見てつくづく思うことは、やっぱり日本は「物語」の国なんだな~ということ。
「源氏物語」が世界最古の恋愛小説だとか、「竹取物語」が世界最古のSFだとかを昔から言われてるわけで(実際そうなのかは知らんけど)、日本人というのは話を面白おかしく盛って、それを皆で共有することが大好きな人種だと思うのよ。
いわば、根っからの文系の国である。
そして、これほど数多くの物語が伝承されてるってことは、昔から我が国の識字率が異様なほど高かったということの証明だろう。
私は、日本人というのは文系としてなかなか優秀な民族だと自負している。
そして、その日本人を優秀に仕立ててる一番のファクターは、「日本語」だよ。
皆さんは、こういうことを聞いたことがないか?
日本語は、世界で最も難しい言語である、と。
もちろん我々からすれば「はぁ?」という感じだけど、割と外国人の方々は真顔でそういうことを言ってたりするわけよね。
実際、アメリカ国務省が世界の言語を難易度別のカテゴリーに分けたらしいんだが、その中でなぜか日本語だけが最難易度のカテゴリー5に入れられてしまったらしい・・。
どうやら、ひらがな/カタカナ/漢字の3種類を混ぜて文章を作るあたりが相当キツいらしいのよ。
漢字も音読み/訓読みがあるし。
あと、語彙の量も他国語に比べるとかなり多いらしい。
だけどさ、我々日本人は率直にこう思ってるんだよね。
日本語、そんなに難しいか?と。
実際、我々は日本語で苦労した経験がないじゃん?
そりゃ、学校の「国語の授業」のテストで悪い点をとったことはあるけど、そもそも我々は、小学校に入る前(学校教育を受ける前)から日本語をほぼマスターしてたわけだし・・。
・・ん?
一体、どうやって日本語マスターしたんだろ?
私、幼少期に文法とか学んだ記憶はないぞ。
私「これは、何ですか?」
母「それは、ペンです」
私「これは、ペンですか?」
母「はい、そうです」
私「あなたは、ペンですか?」
母「いいえ、私は、ペンではありません」
ひょっとしたら記憶が薄れてるだけで、幼少期の私は上記のやり取りを母親としてたのか?
・・いや、そうじゃない。
いつの間にか耳で覚えてたというやつで、これは専門用語で「言語獲得」という幼児期特有の特殊スキルらしい。
これは俗にいう「学習」とは違う次元の話で、人間が一生のうち乳幼児期の一度しか発動できない特別なものだ。
その貴重なチャンスを、「世界で最も難しい言語」習得に費やせた我々日本人は何とラッキーな民族だろう。
あと、字の習得に関しては絵本だね。
それこそ、「日本昔ばなし」的なやつを読んでたんじゃないだろうか?
日本人は誰しも、「桃太郎」を読んで桃を切る時は細心の注意を払うことを学び、「かぐや姫」を読んで竹を切る時も細心の注意を払うことを学ぶ。
おそらく、「飯降山」は読んでないと思う。
あんなの読んでたら、私はサイコパスに育ってたはずだし。
しかし、「世界で最も難しい言語」を物語を通して学ぶという、そんな高度なことを我々日本人は誰しも幼少期に経験してきてるんだ。
よく考えたら、これって凄いアドバンテージだよな。
おそらく日本人は、幼少期から日本語という 世界で最も難しい言語に触れることによって、英才的に文系脳をめちゃくちゃ鍛えられてきている。
そりゃ、日本の文系が強くなるのは当然ですよ。
いまや全世界で「ワンピース」やら「ドラゴンボール」やらが絶賛されてること自体、ある意味当然という気さえしないか?
日本人にはああいうものを作れる土壌がきちんとあるわけで、おそらく尾田栄一郎先生も鳥山明先生も、幼少期には「昔ばなし」で育ったクチだと思うぞ。
思えば「ワンピース」なんて、どう見ても「桃太郎」がベースだもん。
皆さんも、改めて「日本昔ばなし」を再視聴してみて下さい。
今回タイトルを挙げたものは、いずれもおススメです。
・飯降山(サイコホラー系)
・吉作落とし(スリラー系)
・十六人谷(どんでん返し系)
・亡者道(正統ホラー系)
・三本枝のカミソリ狐(正統ホラー系)
・キジも鳴かずば(鬱系)
・赤鬼からもらった力(俺Tueee!系)
・雪女(正統怪談系)
・赤と青の天狗さん(ほのぼのコメディ系)
・大蛇の塔(ダークファンタジー系)
・デッカンブー(ダークファンタジー系)
・子を呼ぶフア鳥(ダークファンタジー系)
いずれも10分程度のショート作品だし、ちょっとした空き時間で見るぐらいにはちょうどいい。