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「ダンジョン飯」と関西「うどん定食」の歴史

アニメ「ダンジョン飯」を見た。
結構面白いね。
「なろう系」かと思いきやそうではなく、原作は「ハルタ」という角川系の雑誌に連載されていた漫画だという。
「ハルタ」って、聞いたことないんだけど?
こういうマイナー誌連載でありつつ、
・2015年度コミックナタリー大賞  第1位
・このマンガがすごい!2016オトコ編 第1位
・THE BEST MANGA 2016 このマンガを読め!第1位
・全国書店員が選んだおすすめコミック2016年度 第1位
・Amazon ランキング大賞2016 Kindle本コミック  第1位
めっちゃ評価されとるやん!
そうか~、いまどきは雑誌のメジャー・マイナーに関わらず、いいものはちゃんと読者に届く時代になってるのか。
しかし昔ならこういうのは考えられなかったわけで、おそらくはSNSによる拡散がこういう状況を可能にしてるんだろう。

まず、タイトルがシンプルでいいよね。
「なろう系」はタイトルが長くて覚えるのに苦労するが、「ダンジョン飯」は覚えやすいし、「ダンジョン」と「飯」という全くそぐわない語彙を組み合わせたところに作者のセンスの良さを感じる。
図書館+戦争=「図書館戦争」、暗殺+教室=「暗殺教室」などに近いものがあるよな。
聞けば、この作品はスタジオジブリがアニメ化の検討をしていたことあるという。
じゃ、映画になる可能性もあったんだ?
という流れもあり、このTVアニメ化は覇権を狙った大型企画なんだろう。
その期待度の高さは、OP曲がBUMP OF CHICKEN、ED曲が緑黄色社会というところで既に伺える。
いわゆる低予算系ではない。
ただ、物語そのものは低予算でも全然構わない内容なんだよな(笑)。
だって、グルメ企画だもん。
導入こそ、モンスターに妹が食われる凄惨なシーンだったので手に汗握ったが、その後は「消化されるまでにはまだ時間はある」といって兄も落ち着いており、ちょっとこのへんの世界観が分かりにくい。
作中、登場人物たちが自分が死んだエピソードを語る場面があるので、この世界では死んでも蘇生できるんだろう。
で、バトル展開よりもグルメ展開の方がだんだん多くなってくる。
こいつらがノンキに飯食ってる間も、妹はモンスターの胃の中にいると思うと複雑な心境になるけどね・・。

エルフの魔法使い・マルシル

私のお気に入りキャラは、やはり上の画のマルシルである。
多分、パーティの中で最も良識人なのは彼女だろう。
ただし、良識人だからこそ一番の振り回され役であり、そのリアクションが感情豊かでいちいち面白い。
ゲテモノ食いを非常に嫌う彼女だが、一口食べると案外チョロいのも特徴。
一転「おいしい!」といってゲテモノを大量に食うその姿は、非常に古典的な吉本新喜劇スタイルのテンプレ型ボケである。
いや、本人は全くボケてるつもりはないんだろうが、要は天然なんですよ。
かわいいわ~。

この顔芸には笑った!

それにしても、ダンジョン内でグルメというアイデアそのものが秀逸である。
そりゃモンスターとはいえ、生物である以上はタンパク質等で構成されてるんだろうし、毒の問題さえクリアすれば食えるでしょ。
ただし、美味しくない気がする。
私たちが普段口にする肉は、牛、豚、鶏が中心で、それ以外はほとんど口にしない。
世の中にはもっとたくさんの動物がいるのに、敢えて上記3種に絞ってるのは、先人たちが色々試食した結果だと思う。
たとえばカラスなどは非常に多く、農地等に被害を及ぼす厄介な存在なので食ってしまえば一石二鳥なのに、それを料理して食ってる話を聞いたことがない。
多分、まずかったんじゃないか?
ダンジョンのモンスターも、きっと同じことだと思う。
とはいえ、調理法の工夫によって、それを克服するのが「ダンジョン飯」である。
確か、ワニ肉を食ってる人って実際にいたよな?
現実世界でも爬虫類を食えるんだから、あるいは昆虫を食べてる民族だって実際にいるんだから、食の可能性はその心意気ひとつでもっと広げることも可能である。

主人公のライオス

我々日本人は、明治の文明開化まで獣肉食を禁じられていたという。
じゃ、タンパク源は魚だったんだな?と思うだろうけど、実は魚は高価で、庶民はなかなか口にできなかったらしい。
じゃ、庶民はどうやってタンパク質摂取をしてたのか?
豆である。
むしろ、それしかなかったんじゃないか?
だから、日本人はありとあらゆる形で豆を摂取するようになり、それが和食文化の基礎になったといっていいだろう。
味噌、醤油、納豆、枝豆、煮豆、豆腐、おから、油揚、がんもどき、湯葉、煎り豆、きなこ、もやし、餡子etc
日本人ほど、豆摂取に貪欲な民族もあるまい。
でも、植物性タンパクは動物性タンパクに比べると、アミノ酸としての吸収効率が悪いのも事実だ。
そのせいか、獣肉食禁止令が出されて以降、日本人の平均身長は下がり続けたという。

上の図を見ての通り、古代以降は江戸末期まで身長縮みまくりである。
天武天皇が肉食禁止令を出したのが675年。
上のグラフの推移とぴったり合致する。
ただ、誤解しないでほしいことがひとつ。
日本人の身長が縮んだ=日本人の健康状態が悪化した、ではないんだ。

このグラフを見ての通り、世界水準と比較して、昔から日本人の平均寿命がとりたてて短いという傾向は見られないんだから。
まあ、平均的といったところか。
つまり、人間の体というものをナメちゃいかん、ということだと私は思う。
ようするにこれ、人の体は仮にタンパク質不足になろうが、それならそれで体を小型化する形でその時の最適化をしたということでしょ?
あと、ビタミン・ミネラルを考えてみてくれ。
そもそも日本には、緑黄色野菜とかあまりなかったんだよ。
キャベツ、ピーマン、タマネギ、トマト、レタス、ブロッコリー、こういう現代の私たちが普段口にしてる野菜のほとんどは、明治以降に入ってきたものばかりである。
じゃ、それまで日本人は何を食っていたのかというと、大根、葱、ゴボウ、蓮根、里芋、山菜といったところだろう。
根菜が中心。
これはこれでヘルシーだが、栄養価としては微妙だね。
その分、日本人は海藻を食うことでミネラル摂取をしてきた。
昆布、ワカメ、海苔、ヒジキなど、日本人ほど海藻を食う民族もあるまい。
お陰様で、日本人は世界で唯一、「海藻を消化できる内臓機能」を持ってるんだそうだ。
そう、人間の体というものをナメちゃいかんのよ。

第4話に出てきたパンとオカズ

「ダンジョン飯」第4話では、遂にパン作りまでしていた。
食事として、完璧じゃないか。
やはり、炭水化物があると食事はワンランク上になるね。
特に日本人は、オカズは控えめでもお米はたくさん食べてきた民族だ。
ちなみに私は関西在住なんだが、よく関西以外の人から「やっぱり関西の人って、お好み焼きをオカズにご飯食べるんでしょww」と言われる。
うん、常にそういう食べ方をするわけじゃないが、店で「お好み焼き定食」を頼んだら白いご飯がついてくることはあるさ。
あと付け加えると、「うどん定食」「そば定食」でも白いご飯が付いてくることがある。
炭水化物+炭水化物は変だろ、と言いたい気持ちも分かるよ。
私が聞いた話によると、この特殊な食べ方は安土桃山時代あたりをルーツにするという。
当時から関西は流通卸売の拠点だった為、昼間の商人は非常に忙しく、昼食に時間をかけられなかったんだそうだ。
そこで編み出されたのが、うどんとご飯を一緒に食べること。
やはり炭水化物は最も消化に良く、エネルギー効率が良い。
特に関西のうどんは江戸と違って薄口醤油のダシゆえ、ご飯と組み合わせると主食+お吸い物として成立するのよ。
素早く食べられて、ご飯があるから腹持ちよくて、しかもカロリーは十分。
これを発案した商人は、極めて合理的な思考の持ち主である。
おそらく発想はここからスタートし、関西に炭水化物+炭水化物カルチャーが普及したんだと思う。
多分、江戸の美意識からすれば「粋じゃない」食文化ということになるんだろうが、関西はそういうのより合理性をとったということ。
あ、言っとくけど、たこ焼きをオカズにご飯は食べないからね。

関西の「うどん定食」

つまり私が何を言わんとしてるかというと、食文化というものは地域ごとにその成立の歴史があり、そこを馬鹿にしてほしくないということだ。
「ダンジョン飯」にはセンシというドワーフが出てきて、彼はダンジョンのモンスターを狩って食べる生活を10年以上続けているという。
それゆえ完全に変人扱いされてるんだが、いやむしろ、あの食事を見る限り逆にリスペクトされるべきだろ。
ダンジョンという過酷な状況下で文化的な食事水準を維持してること自体、どれほど素晴らしいことだろう。
センシは、もっと高く評価されるべき人物だ。
このアニメ、根底で食とは何か?を考えさせてくれて、なんか意外と深いよね。
ただの飯テロアニメ、ただの異世界コメディじゃないと思う。
たまにこういう良作に出会うから、私もいまだ異世界アニメを見ちゃうんだよなぁ・・。


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