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「預言者」世界的ベストセラー詩集のアニメ化
今回はアニメ映画「預言者」について書いてみたい。
これは比較的マイナー作品に思えるかもしれんが、実は2015年の米アニー賞インディペンデント作品部門で、最終選考に残った4作品のうちのひとつがこれだったんだよね。
その時の4作品というのが、次の通り。
「父を探して」(ブラジル)
「バケモノの子」(日本)
「思い出のマーニー」(日本)
「預言者」(アメリカ/フランス/カナダ/カタール/レバノン)
結局、この中で最優秀をとったのはブラジルの「父を探して」でした。
で、この時の記憶として「預言者」というタイトルは何となく頭に残ってたし、たまたまU-NEXTで配信されてるのを見つけたし、じゃ見てみようかなと。
・・で、私はめっちゃ衝撃を受けたよ。
何コレ、とてつもない大傑作じゃん!
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まず私が率直に思ったのは「なぜ、この作品がアニー賞で『長編部門』ではなくて『インディペンデント部門』でのエントリーだったんだろうか?」ということである。
ちなみに、この「長編」と「インディペンデント」を分けるポイントは
・長編部門⇒全米公開された作品
・インディペンデント部門⇒全米で広く公開されなかった作品
だとされている。
・・あれ?と思うでしょ?
そう、この作品の製作は<アメリカ/フランス/カナダ/カタール/レバノン>しかも監督はディズニー映画「ライオンキング」の監督で知られるロジャーアラーズ。
つまり、立派に「アメリカ映画」だといえるのよ。
しかも、主演声優はあのオスカー俳優リーアム・ニーソンである。
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ここまでメジャー仕様のお膳立てがしっかり整いながらも、アニー賞では「インディペンデント」エントリー、つまり<マイナー作品>扱いされてるというのは一体どゆこと?
ちなみに、この作品の制作費は約18億円。
でもって、全米での興行収入は約1億だったという。
これ、トンデモない大赤字だわ・・。
というか、おそらくこれは上映館数の問題だろう。
制作費に18億をかけてることからして、もともとは全米規模での公開を予定してたのはほぼ間違いない。
ところが、それが「何らかの事情」でうまくコトが運ばなかった。
・・何らかの事情とは?
一番考えられるのは、これが中東(レバノン)を舞台にした物語ということの問題だろう。
この作品は決してイスラム色が強いものではないんだけど、それでもいまだ米国内では「中東アレルギー」のようなものが残ってるのかもしれない。
で、その結果、当初の予定通りに上映する映画館の確保をできなかった・・というのが私の読みだね。
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しかし、この映画の原作本って、実はめっちゃメジャーなのよ。
「預言者」という厨二っぽいタイトルで誤解をされがちかもしれないけど、これはレバノンの詩人・ハリールジブラーンのベストセラー詩集であって、その発行部数は累計2000万部以上とも。
実際アメリカでも、ジョンレノンやマイケルジャクソンなどの愛読書として知名度高いらしい。
日本でもまた、皇室/美智子妃殿下の愛読書として知られているとやら。
いやぁ~、文学に疎い私は、全然この詩集のことは知らなかったっすね。
そもそも、小説とかならまだ分かるけど、詩集を買う人の気持ちはいまいち理解できないというか・・。
私は今まで、詩集なんて高尚な書を買ったことがない。
・・あ、昔に1回だけあるわ。
たしか、ランボーの「地獄の季節」ってやつね。
でも読んでみたら、いつまで経ってもシルベスタースタローンが出てこないし、結局途中で挫折しちゃいましたけど。
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という冗談はさておき、そろそろ作品の内容に入ろう。
そもそも、詩集のアニメ化って可能なのか?と皆さん思うに違いない。
詩というものはかなり抽象的な表現なので、それを映像という具体性のあるビジュアルに変換するのはとても難しいものなんだ。
どのぐらい難しいか、実例を見てもらおうか↓↓
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・・ね?
難しいでしょ?
まぁ、この「預言者」は詩集といいつつ物語っぽい構成になってるらしく、舞台は多分オスマン帝国支配下にある中東のとある島。
そこに「政治犯」として軟禁されてる詩人が主人公なわけね。
いや、政治犯といっても政治思想の強いタイプというわけでもなくて、純粋なアーティスト系である。
それゆえ、「自由」「解放」をテーマにしたリベラル系の詩を作るタイプ。
そういうのが、為政者側にとっては都合が悪いんだろうなぁ・・。
彼の詩に触れることによって市民が「個人」として目覚めちゃうし、自分の頭で自律して物事を考えるようになってしまう。
為政者にとっては、市民は思考停止してただお上の言いなりになってる存在でなければ困るのさ。
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この詩人は、7年間この部屋に軟禁されっぱなしだという。
しかし島民たちは彼の詩をとても崇拝してて、彼は一種のカリスマなんだよね。
この主人公は、おそらく著者ジブラーン自身の投影だろう。
ちなみにだが、レバノンというのはイスラム教とキリスト教が混在してる国なわけよ。
そしてジブラーンは、キリスト教側の立ち位置の人だったらしい。
彼は生まれ故郷のレバノンにあまり長くいなかったようで、主に国外で創作活動をしていたとやら。
この「預言者」の中の詩人は為政者より島からの退去を命じられ、船のある港まで歩いていく道すがら、彼を慕い、別れを惜しむ島民たちに向けて数々の詩を贈る、という感じのプロット構成である。
主軸のドラマパートとオムニバス型の詩パートに分割されていて、詩パートでは複数のアニメーターで分担してるのか、詩ごとに画のテイストが大きく異なっている。
ざっと、トレーラーでその雰囲気を掴んでください。
アニメーションは美麗だし、リーアム・ニーソンの声はシブいし、ホントにクオリティ高いアニメである。
特にヒロインのオンナノコの目ヂカラがいいよなぁ・・。
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じゃ、今度は具体的に詩の一節の部分を見ていただこう。
やっぱ、難解だよね。
文学ゆえ全てがメタファーであって、その解釈はある程度文学慣れしてる人じゃないとキツイと思う。
私なんかは、とても歯が立たないわ~。
とはいえ、ふわっとだが何か伝わってくるものがあるんですよ。
それこそ、聖書の言葉っぽいニュアンスでね。
多分これ、一回見たぐらいじゃ絶対凡人には理解できませんって。
一応私、今後10回ぐらい見る覚悟はしていますけど・・。
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さて、これの舞台は19世紀後期のレバノンであり、詩人は少女に「言葉」を託して「未来」に希望を託したオチだったが、じゃ、その後レバノンはどうなったのか・・ということを考えると、マジできついっすよね。
この「預言者」の数十年後のレバノンの惨状を描いたのが、有名なこの作品である↓↓
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これ、きっつい映画だったよなぁ・・。
それこそ、キリスト教vsイスラム教のドロ沼の悲劇を描いた内容だったし、さすがのジブラーンですら、ここまで悲惨なレバノンの未来は想定してなかったんじゃないだろうか?
ある意味、「預言者」⇒「戦場でワルツを」というリレーで見たら<歴史>というものが一層クリアに見えてくるかも?
・・ちょっと悪趣味な視聴スタイルかな(笑)。
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さて、欧米と比較するとどうしても我々には「遠い」と感じてしまう中東の存在だが、実は近年、あちらさんが日本のサブカルにかなりアプローチしてきてることを皆さんは知ってる?
たとえば、昨年制作された「グレンダイザーU」。
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令和にグレンダイザーって誰得?と皆さん思っただろうけど、どうもこれ、製作に絡んでたのが中東(具体的にはサウジ)だったらしいね。
もはや、日本市場のニーズとか度外視で制作されたものらしい。
あと、あの国は「ドラゴンボール」のテーマパーク建設にも動いてるらしいし、今後ますます彼らのパトロンとしての存在感は増していくかも。
おそらく我々としても、今後は中東という資金提供者を無視して生きていくのは難しいのでは?
・・こんな時代であるからこそ、まずは、この「預言者」視聴をお薦めしておきたい。
じゃ、続けて<上級者編>、「ムハンマド 最後の預言者」という映画も最後にご紹介しておこうか。
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これはね、怖いモノ見たさでアプローチする感覚でも別にいいと思う(笑)。
本作はタイトル通り、イスラム教の祖・ムハンマドの伝記映画なんだけど、皆さんもご存じの通り、イスラム圏ではムハンマドをビジュアルで表現することは禁じられてるわけね。
よって、この映画は
「ムハンマドが主役だというのに、彼の姿形が一切映らない」
という特殊なスタイルになってます(笑)。
具体的にはどういう感じになのかというと、ムハンマド登場シーンになると突如「ムハンマド主観カメラ」映像に切り替わる感じ?
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だからね、めちゃくちゃ状況が把握しにくいのよ(笑)。
とはいえ、ストーリーはそこそこ面白い。
ある意味、話の流れとしてはイエスキリストの伝記にも近いんだが(守旧派から迫害される展開はほぼ同じ)、ただイエスの場合は無抵抗に処刑されたのに対し、ムハンマドの場合は、ちゃんと武力をもってそれに抵抗するわけさ。
そして、最後は血みどろの戦争である。
この展開の良し悪しはともかくとしても、映画のエンタメ度としては確実に
イエスキリスト<<ムハンマド
である。
「イエスみたいにやられっぱなしじゃなくて、ちゃんと暴力には暴力で対抗しなくちゃ!」
というのがイスラム流らしい。
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興味ある人は(ほぼおらんと思うがw)YouTubeで「muhammad last prophet」と検索してみてください。
映画としての面白さ以前に、主役が可視化されないアニメとはどういうものかを理解できるのがいいぞ。
なお、日本語字幕は自動翻訳ゆえ把握困難なのはご了承ください。
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