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これ見ずにアニメマニアを自称するのはおこがましいという話

宮崎駿が、「トイストーリー」等を手掛けたジョンラセターのことを非常に可愛がってることは皆さんもきっとご存じのことだと思う。
これを皆さん普通に受け入れちゃってるけど、でもよく考えたら、手描きの神様みたいな宮崎さんが米国3DCGの権威を高く評価してるって、おかしな話なんだよ。
思えば、宮崎さんは息子・吾朗氏の3DCG作品を鑑賞後も、珍しくディスることなく、「面白かった」と言ったらしい。
意外だが、巨匠は3DCGのようなデジタル表現に寛容だということね。

なぜか、実の息子以上にラセターを可愛がっている宮崎駿

さて、もう一方のジブリの雄・高畑勲
彼には、<宮崎駿にとってのラセター>のような寵愛対象はいたのか?
これがね、実はいたんですわ。
それが誰かというと、シルヴァンショメというフランス人である。
正直、この名前を知ってるのはよっぽどのアニメ好きぐらいだし、ラセターより知名度は遥かに劣るだろう。

シルヴァンショメ

彼、日本での知名度は低いものの、国際アニメ界においてはかなりの大御所である。

・米国アカデミー賞最優秀長編アニメ賞ノミネート
・アヌシー国際アニメーション映画祭大賞受賞
・英国アカデミー賞最優秀短編アニメ賞受賞
・NY映画批評家協会賞アニメ映画賞受賞
・カンヌ国際映画祭特別賞受賞


上記の通り、国際映画祭では常連ともいえる存在。
ただ、作品のイメージが湧かない人も多いと思うので、代表作とされるものの予告編をどうぞ↓↓

ベルヴィルランデブー」と「イリュージョニスト」、この2作品はアニメファンを名乗る以上、マストで押さえておくべき名作だろう。
もし未見の方がいらしたら、「イリュージョニスト」は結構あちこちで配信されているし、「ベルヴィルランデブー」もGoogle等で「Les Triplettes de Belleville」と検索すれば普通に無料動画が見つかりますから。

で、ショメ作品の特徴は次の通り↓↓

①老人が主人公
②キャラがぬるぬるとよく動く手描きアニメ
③セリフがほとんどない


特にポイントが③だね。
実際、セリフがほとんどないんだわ。
いや、厳密にはないこともないんだが、それはほとんどサウンドのひとつで物語の説明には特に関与しないし、基本的に視聴者は

「画だけで物語の全てを読み取らなければならない」

という難作業を課されるんですよ。
これが、意外と難しい。
いかに我々が、普段アニメやドラマで<言葉>を介してでしか物語の理解をできなくなってしまっているか、そこを痛感すると思う。

いや、ホントに優れた映像作品って、<言葉>なんて必要ないんだよね。
<画>の中に情報の全てが詰まってるから。
おそらくそこを一番分かってるのはクリエイター側なんだが、なのに我々が普段接する作品の多くは、「説明的セリフ」や「登場人物の心の声」の多用によって作られてるんだよなぁ・・。
それは、なぜか?
うん、ぶっちゃけ言っちゃうと、

視聴者はバカだから、言葉で全部説明しないと物語を理解できないと最初からナメられてるのさ。

・・ムカつく話である。
しかし、実際そうしないと、伝えたいことが伝わらないのも事実だろう。
よく視聴者が作品を「駄作」とディスるケースを見かけるが、それらも的を射てるものがある一方、ただ単純にその人の理解力の低さゆえ、作家の意図を読み解けてないだけのマトハズレなバッシングもめちゃくちゃ多いんですよ。

①バカが作品をディスる
②作家は、バカにも理解できるように作品を再チューニングする
③作品がバカになる
④作品がバカだから、より多くの人にディスられる


こういう悪循環が、実際起きてるよね?
諸悪の根源は、いうまでもなく①である。
バカは自分が賢いと思って作品をディスってるんだろうが、実際は視聴者の方が作家より遥かにバカが多いですよ。
そんなバカな声は無視して作家はただ唯我独尊でいけばいいものを、なぜかそこで<お客様は神様です>的に媚びちゃうから話がややこしくなる。
我々は、<神様>なんかじゃねーってば・・。

「レッドタートル」(2016年)

で、作家にしては珍しく、ホント最後まで媚びない姿勢を貫いたのが高畑勲だと思う。
彼の遺作とでもいうべき、最後のプロデュース作品が「レッドタートル」なんだが、これはショメの影響か、全編セリフがほぼないんだよね。
このセリフなしというアイデアは監督マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットでなく、高畑さんの発案だったという。
高畑さん、思いっきりショメに感化されてるじゃん(笑)。
・・で、結果的に本作はジブリ史上ワーストの興行収入記録を作ったわけだが、高畑さんはむしろ満足気だったそうだ(笑)。
いやホント、媚びないな~。

さて、ショメに話を戻すけど、彼の作品は上の画の通り、「三鷹の森ジブリ美術館」の冠がついてるでしょ?
何で?と思うよね。
実は彼の映画、配給してるのもジブリ美術館なんだ。
妙な話である。
アカデミー賞の常連であるほどのビッグネームのショメの作品を、なぜ大手配給会社でなく、ジブリ美術館がやってるのか?

いや、早い話が

こういう真にレベルが高いアニメは、一般大衆に受け入れられにくい(興行的には稼げない)んだよ。

実際、そうでしょ。
うわっ、シルヴァンショメの新作が公開されるんだ!見にいかなきゃ!」というような人が、皆さんの中にどれだけいますか?
多分、アニメマニアを自称する人は世に何百万人もいるだろうけど、そんな人ですら<世界で最も優れたアニメ>を敢えて見ようとしない、ヘタすりゃその存在を知りもしないのが現実なんですよ。

じゃ彼らは何を見てるのかって、大手から供給されたものを「それが世界」だと思って見てるんです。
そりゃ、前述①~④の悪循環も起きて当然だわな・・。

日本のアニメは世界一!


というマスコミの煽動をまんま鵜呑みにし、疑いもしない人がどれほど多いことか・・。

でも、実際に妙なネジレ現象は起きてるわけで、ショメのお膝元、フランスでは日本の漫画/アニメが圧倒的に人気なんだわ。
ショメのアニメよりもね。
おかしな話である。
彼らが夢中になってる日本アニメの最高権威(高畑勲や大友克洋)がショメを絶賛してるのに、肝心のフランス人がそこを分かってない。

というか、もうショメはフランスにいないし。

「ベルヴィルランデブー」

フランス人なのにフランス国外を拠点にしてるという、もう完全な才能流出状態。
なぜ、こんなことになったのか?

それはね、純粋におカネの話なんだわ。
フランス国内でアニメ制作をすれば「1分間70万円」かかるのに対し、日本からアニメを輸入すれば「1話20万円」で済むのだという。
よって、コスト効率として自分たちで作るより、日本のTVアニメを輸入した方が断然イイ。
安くて、値段の割にはおいしいし。

つまり日本のアニメは、マクドナルドや吉野家みたいなもんかと。


ちゃんとした、高級なフランス料理ではない。
だけどフランスでも若い子たちは

「てか、吉野家で十分じゃね?」
「てか、ショメとかダサくね?」

というスタンスのようで、なんかそのへんがどう言っていいかよく分からんものがあるよな・・。

私はね、フランスのカルチャーってめっちゃリスペクトしてるのよ。
特に映画って凄くね?

「アメリ」(2001年)

オドレイトトゥの、3次元の人でありながら2次元のオーラを纏ってる存在感。

「ロストチルドレン」(1996年)

実写なのに、常に漫画みたいなジャンピエールジュネの世界観。

とても日本人にマネできるワザではない。
やっぱアイツらの美意識って、ちょっと独特だよなぁ・・。

「ぼくの名前はズッキーニ」(2016年)

さて、いくらフランスに疎くとも、さすがにこれは見たことある人多いかと。
アヌシー国際映画祭最優秀、セザール賞、ヨーロッパ映画賞、ルミエール賞、スイス映画賞、東京アニメアワード、世界の各映画祭で受賞をした名作である。
日本では片渕須直さんが最大級の絶賛をしてたっけ。

これ、ぶっちゃけ「トイストーリー」の数倍はスゴイですよ!

不慮に母親を殺してしまった少年が主人公という重い物語なんだけど、興味深いのは、この作品の監督がもともとは3DCGのアニメ作家なのに、ここでは「ストップモーションアニメ」というアナログな手法をとってることなんだよ。
でもこれが、実にいい。
未見の方には、ぜひご覧いただきたい。

というかね、今回挙げた

・ベルヴィルランデブー
・イリュージョニスト
・レッドタートル
・ぼくの名前はズッキーニ


は、たとえ興味ない人にでも、<アニメのテキスト>、必須課題として見てもらいたいとさえ思う。
たまたま、全てがフランス資本の入った作品なんだけどね。
いわばフランス料理さ。
普段ファーストフードばっかり食ってる我々だからこそ、たまにはちゃんとした食事を摂り、舌をチューニングする必要があるから。
いやホント、<たまに>でいいんですよ。
誤解ないように。
私はファーストフードを絶対に否定しませんから。

じゃ最後に、「お茶漬け」といえる和食をご紹介して締めましょうか。

ホーホケキョ!となりの山田くん

1999年制作/監督・高畑勲

はい、ジブリにおいて記録的な赤字を出した、未曽有の問題作ですね(笑)。
でも、その影響力は予想外に大きかったとされている。
というのも、「トイストーリー3」や「リトルミスサンシャイン」等の脚本を手掛けたマイケルアーントは、高畑さんに

「もしあなたが『となりの山田くん』を作っていなかったら、僕は脚本家になることを諦めていました」

と語ったらしいんだわ。
どうやら名作「リトルミスサンシャイン」は、「山田くん」が元ネタだったらしい。
私はこの映画、マイフェイバリットなんですよねぇ。
・・そうか、確かに言われてみれば、これ「山田くん」だわ。

そして「山田くん」は、とにかく開始10分間を見てくれ。
この10分間は、確かに今見ても鳥肌が立つレベルの映像である。


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