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夜のお話です。 闇の中、布団の中、月に照らされた中で、昼とは違う一面を見せて大胆になったり、記憶を呼び起こして懐かしんだりするようです。
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スクリーン

スクリーン

 夜はだめだ、思い出は夜ばっかりだもの。全然だめだ。闇が映画館のスクリーンみたいになる。幸せだった頃の私たちが、大好きだった頃の彼が思い浮かんでは溶けていく。

 この道もだめだ。バイト先から駅までのでかい一本道、信号がいっぱいあって、運の悪いときは絶対全部赤信号で、毎回立ち止まって彼からのラインを確認して。途中の駅まで迎えに行くよの連絡が入っているときは、いつもスキップしちゃうくらい嬉しくて。彼

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シルバーカラー

シルバーカラー

 橙色の部屋。壁には小さなイラストと鏡がかかっている。コスモスみたいなかご編みのお花の、中心部分だけが小さな鏡になっている。なんだかお洒落な感じのする部屋だ。机にはお菓子とピザと缶のお酒たちが並んで、かわいらしい飲み会が開かれている。女の子たちの開いた飲み会。

「じゃあ自己紹介からいきまーす」

 三年前、僕たちの代はちょうど入学の年にコロナが始まって、学科の飲みなんてとてもじゃないができなかっ

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聖夜

聖夜

 マフラーを丸めて、首を傾げた。初めてつけたイヤリングがさらりと揺れる。

 彼の黒い車が、ようやく到着した。助手席に乗り込んで、腕を伸ばして後部座席に荷物を置く。白いマフラーも一緒に置いた。

「ごめん」

 彼が言った。

「寒かったよね。30分も遅れちゃった」

 私は不満だった。彼の一言目が、イヤリングかわいいねではなかったことが。髪型アップにしていてかわいいねでもよかった。別に、いつもと

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好きだったものもの

好きだったものもの

 名前を呼ばれるのが嫌いだった。ハル、と呼ばれるのはなんというかとても、良くて、ふわっとする感じで、だから嫌いだった。ずっと、嫌いだった。

「治也くん」

 ん、と顔を傾けるとすずかが寝ていた。可愛いな、と思う自分に安堵する。まだ平気だ。まだ壊れていない。

 すずかが怖がるせいで常夜灯で寝るのにも慣れた。ぼんやりと浮かぶ黄色い灯りはなんとも平和で、安心感があって、それで落ち着いた。ほんとうはこ

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酔狂

酔狂

 プーさんと目が合う。全然可愛くなかった。朋子さんの持ち物だと思ったら、ちょっと可愛いような気がするけれど、幼馴染の男がUFOキャッチャーで取ってくれたと話した声の高さを思い出すと、やっぱり全然可愛くなかった。

 正直ダメもとだった。サークルの中でも朋子さんは断トツで可愛かったし、みんな一度は好きになる存在で、だからこそ高嶺の花すぎて後輩の僕たちには朝の挨拶すら勇気のいることだった。

「ゆんく

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熱恋

熱恋

 どく、どく、と動いている。体の内側が熱を放って、皮膚で溶ける。冷感シーツの上で、触れたところだけひやっとして、この暑い夏より熱いあたしの体が泣く。

 熱を測ったら37.3だった、別にいつものことである。生活に支障が出るほどの熱は出ないし、他の人に伝染るような病気でもない。生理の前は体が熱を持つ。

 床に投げられていた眼鏡を腕を伸ばして拾って時計を見ると、16時を少し回ったところだった。眼鏡は

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役不足

役不足

 喋らなければ好みなのに。そう思うことが多々あった。脳内でしかかっこよくない男は案外そこら中に量産されていて、もはや「余計な一言」が巷で流行っているかのようである。

 にこりと笑う。斜め前で孝仁が「あーあ」という顔をする。それからちょっと笑う。

「朋子ちゃんもやってみたらいいよ、意外と難しいから」

「漢検をですか? あたし、一昨年1級取りましたけど」

 にっこり笑えば、きっぱりとサヨナラで

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好きなところ

好きなところ

 どこが好きか、と問われて、まともな返答をする自信がなかった。だからたくさん考えてきたつもりだったのに、口が滑って、やはり変な返しをしてしまった。孝仁くんが目を丸くしている。

「えっと、腕?」

 あたしはちょっぴり肩をすくめて、隣にいる治也の腕をとった。こうなったら、ちゃんと説明しよう。

「そう。例えばこの二の腕のところのカーブと硬さがね、すごくいい感じなの。頭を乗せても、頬を押し付けても気

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ふわふわのラグ

ふわふわのラグ

 櫛を通すたびに髪の毛が抜ける。はらはらと落ちたり、櫛に絡まったりする。自慢の長い黒髪が確実に減っていく。また三本、ふわふわと舞って着地。

 軽く腰を曲げて拾おうとする。爪が引っかかってうまく取れない。仕方がないので掃除機を持ってきて吸い取る。

 鏡に映る自分はそこそこ可愛らしかった。ふわふわのパーカにお揃いの短パン、わざとらしいぶりっこパジャマを来て、髪の毛はまっすぐおろして、パックを終えた

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両想い

両想い

 洗濯機がガラガラとうるさい。シャワーの音もうるさい。シャワーが終わってドライヤーになったら、もっとうるさい。平日の夜はうるさい。一番うるさいこの時間が好きだ。愛おしいな、と思っている。

「そういえばりっちゃんさ」

 聖人は裸で、バスタオルだけ腰に巻いて出てきた。乾かしたての頭がふんわりしていて、どきっとする。

「俺の緑の靴下知らない?」

「それ洗濯出してたから一緒に回してるよ」

 洗濯

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抱擁

抱擁

 ぎゅうしなさい、とむくれる。

 湊はふふっと笑った。楽しそうに。

 なんでぎゅうしてくれないの。あたしはだんだん涙目になる。なんで、なんで。いじわる。はやく、はやくぎゅうしなさい。

 湊が腕を広げる。本当は湊から強い力で抱きしめてほしいのに、我慢できずに飛び込む。少し背伸びをして首にすがりつく。涙がこぼれ落ちる。好きだから。

 湊は大きく息を吸い込んだ。それから、耳元で言う。

「いいに

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情景描写

情景描写

 声を上げて泣く、でも、雨の音にかき消される。冷たい指。暗い駅、たくさんの人が通る、私は、そっと、しゃがみ込む。ぐしょぐしょになったズボンの裾にお尻が当たって、湿っていく。

 畳んだ傘を少し震わせた。膝に水がはねた。ふ、と笑った。涙は止まらない。

 連絡先をスクロールして、彼を選ぶ。私のことを知り尽くした彼。

「もしもし?」

 聞こえてきた声は想像と違った。私は鼻をすする。向こうからも、雨

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ギルティ

ギルティ

 シートベルトに頬を押し付ける。運転席から顔が見えないように。少しむくれた様子が伝わるように。

「なあに、どしたの」

 甘えた声を出して、修哉は腕を伸ばしてくる。あたしの首筋を撫でる。髪の毛をくすぐる。襟からすっと指を入れて、下着の紐を引っ張る。

「いや、やめて」

 あたしはその手を避けようとする。運転しながらなのに修哉は全く引かない。だからあたしは、そのいやらしい指を仕方なく自分の手と絡

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冷たい手

冷たい手

 幹事が大声をあげたので注目すると、いつの間にか幹事のすぐ隣に小山さんが座っていた。椅子の上に体育座りで。みんなは次に、俺に注目する。俺は、やべ、と思う。

「小山さん…」

 小山さんは、んー? と音を伸ばしながら、ふふっと軽やかに笑った。

「なあにー?」

 えっと。いつもと全然違う声と表情に戸惑う。さっきまで俺が延々と語っていた、よく通る強い声や凛とした表情やピンと伸びた背筋やまっすぐ射抜

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