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ふわふわのラグ

 櫛を通すたびに髪の毛が抜ける。はらはらと落ちたり、櫛に絡まったりする。自慢の長い黒髪が確実に減っていく。また三本、ふわふわと舞って着地。

 軽く腰を曲げて拾おうとする。爪が引っかかってうまく取れない。仕方がないので掃除機を持ってきて吸い取る。

 鏡に映る自分はそこそこ可愛らしかった。ふわふわのパーカにお揃いの短パン、わざとらしいぶりっこパジャマを来て、髪の毛はまっすぐおろして、パックを終えたばかりの肌はつやつやで。眉ティントと色付きリップで盛ってはいるけどほぼすっぴんにしては可愛いほうだろう。自分でも思う。あたしってすごい。

「もう我慢できない、会いたい」

 想楽そらくんはいつも急だ。なんで我慢しているのか全然わからないけれど月に二回くらいはこのラインが飛んできて、その度にあたしは夜までに急いで「可愛いを更新」しなくちゃならない。

 強く抱きしめないとわからないくらい微かに、うなじに香水を振る。杏仁豆腐みたいななめらかな香りにする。白い肌に赤い跡がつくところを想像する。思い浮かべた光景が想像なのか回想なのかはわからなかった。想楽くんの独占欲をあたしはあたしなりにちゃんと受け止めているつもりだ。

「あと20」

 乗り換えのエスカレーターの上で打つといういつも通りの短い報告。自然と口角があがる。ソファの下に敷いたふわふわのラグにぺたんと座る。

 ここで頭を撫でてもらう時間が好き。

 男のひとはあたしとは違う香りがするから。

 目を瞑って思い浮かべる。まずドアが開いて、想楽くんはあたしの目をまっすぐ見ながら後ろ手で鍵を閉める。左腕はあたしの肩を強めに掴んで抱き寄せる。玄関を裸足で踏んで、足裏の冷たい感触と唇の熱であたしは酔う。想楽くんは右肩にかけた鞄を廊下に放ってあたしを強く抱きしめる、そして香水に気がつく。そうしたら首筋に唇を這わせて跡をつけるだろう。その間、あたしも想楽くんの香りを感じる。涙が滲む。

 これが想楽くんだ、と思い出すんだわ。

 笑えてくる。

 マンションのインターホンが鳴って立ちあがる。ふと見ると頭を乗せていたソファにまた、髪の毛。黒い長い髪の毛が二本と、茶色い短いのが一本。摘んで捨てる。

 想楽くんがモニター越しにはにかんでいる。愛しいひと。

 遅いよ。

 足音が聞こえる。思い浮かべたとおりに、彼はあたしを抱くだろう。そうしたらあたしは涙をこぼすだろう。涙が出るほど好きなのは未だにあなたしか見つけられないよ。

 ドアが開いた。あたしに負けないくらいさらさらの黒髪から香りを振りまく想楽くんが、あたしの目をまっすぐに見つめた。

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