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2023

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2023年6月の記事一覧

空想の敵(エッセイ)

空想の敵(エッセイ)

『射精責任』という言葉にもいつのまにか慣れてしまった。本はまだ発売日前というのだから驚くほかない。その担当編集者は日々タイムラインに顔を出し、「アンチフェミ」とやり合っている。この間は、その編集者のnoteまで読んでしまった。(悔しいかな面白かった)。

ところで、『射精責任』という言葉が想定するような、無責任に性交渉に及びまくる「男性」というのは、現実にはどのくらい存在するのだろうか。少なくとも

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コンセプトとは(エッセイ)

コンセプトとは(エッセイ)

天王洲で開催中のユージーン・スタジオ展のレビューが公開されて、ネット上で話題になっている。一言でいえば、「とにかくコンセプトが薄く、それが現代的である」という最大限の皮肉だった。当初その評には賛同の声が多かったが、次第にレビュー自体への疑問も散見されつつある。

私がユージーン・スタジオを見たのは去年の1月で、付き合いたてだった今の彼女に連れて行ってもらった。当時から展覧会は賛否両論で、会場内には

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芋けんぴ(エッセイ)

芋けんぴ(エッセイ)

杉並区から忽然と芋けんぴが消えた。西荻窪の西友は以前は置いていたはずなのに、棚をくまなく探しても見つからない。彼女宅近くの阿佐ヶ谷店にも置いていなかった。生活圏のどのセブンイレブンからも姿を消している。駅構内のKINOKUNIYAも、当然のように他の商品で埋まっていた。

前クールの花火師のドラマ(とても良かった!)で高橋一生が芋けんぴを食べるシーンを見てから、身体が芋けんぴを欲している。芋けんぴ

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想定外(エッセイ)

想定外(エッセイ)

いまあるリュックに飽きてしまい、毎日ZOZOばかり見ている。人気商品とされるリュックは高くてピンとこない。やっと気になる商品を見つけたが、もう自分には似合わないかもしれない。商品ページを見て時間が溶けていく地獄。

午前中、展覧会場でお茶に誘われ、付いて行ったらランチだった。サラダの付いていないメニューを選び、胃痛を我慢してハンバーグを食べた。最近は野菜嫌いで困ることが増えた。赤の他人と食事をとる

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恨みを晴らす(エッセイ)

恨みを晴らす(エッセイ)

節目の日には筆が進まない。心の奥底でどこか期待していたのだろう。平凡で、なんなら後味の悪いくらいの日だった。前向きに30代の目標でも書けば共感でも集まるのだろうか。優しくしてもらえるのだろうか。

30歳を迎える瞬間は一人で居たくないと言って、昨日は彼女に泊まってもらった。炎天下で坂道を歩いたらしく、家に到着した時点で疲れ切っていた。零時を跨ぎ、すぐに狭いベッドに並んで寝た。寒くてあまり眠れず、今

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特別でない日(エッセイ)

特別でない日(エッセイ)

20代最後の日だからといって、何か特別なことがあるわけではない。むしろ睡眠不足と疲労からくる胃痛で、今朝は12時過ぎまで布団から出られなかった。出掛けていた彼女が買ってきてくれたヨーグルトを空腹のままに食べた。

今日はアナログフィッシュのライブの当日で、今はビルの陰で整理番号が呼ばれるのを待っている。だから厳密にいえば特別なことが無い日でもないかもしれない。梅雨の真っ只中だというのに暑い日で、マ

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卵(エッセイ)

卵(エッセイ)

昨日は結局11時ごろまで飲みに出掛けていて、就寝は2時だった。今日は午前中にカウンセリングと歯医者を済ませ、喫茶店で用事を処理し、夕方から美容室に行ってきた。寝不足だったのに仮眠を挟まず夜を迎えている。

昨日飲んだ友だちは、一人は脚本家の、もう一人は落語家の卵だった。現在進行形の下積み生活の話を、どこか他人事のように聞く。最近の私はお金を稼ぐことばかり考えている。ときどき思い浮かぶ漫才のネタの、

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たはーっ(エッセイ)

たはーっ(エッセイ)

朝起きると少し寝坊していて、諦めて1本遅い各駅停車に乗った。職場の最寄駅で電話をかけ、トイレに寄るから遅れますと上司に報告し、本当にトイレに立ち寄って出勤した。

今日は大した仕事もなく、Yahoo!ニュースを見ているうちに時間が経ち、結局すこし残業した。集中力がなく、それが集中力が無いせいだったのかも考えられなかった。「たはーっ」と溜め息を吐き、大きな横断歩道を渡って帰った。

ホストの哲学(エッセイ)

ホストの哲学(エッセイ)

偶然、ホストクラブのドキュメンタリーを見た。テレビタレントとしても活躍するローランドが経営するクラブに潜入したビデオだった。キャストたちが厳格な規律の下で競争する姿は見応えがあった。

No.1の男はオラオラ系で、指名客に対しても乱暴にものを言う。普通なら嫌な感じに取られる言動が、彼の場合は特別感という魅力になり、指名客は彼に大金を注ぎ込んでいく。横柄な言動も実は緻密に計算されていて、そのスマート

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声(エッセイ)

声(エッセイ)

今日は10日ぶりの休みで、10時過ぎまで泥のように眠っていた。朝食にスナック菓子をむさぼり、溜まっていたドラマを少し見て、また寝て起きたら2時だった。足が張っていて、肩が重い。

ずっとやろうと思っていた動画編集に着手しようと、PCを持って喫茶店に行こうとしたら、途中でイヤホンを忘れたことに気づいた。少し遠い100均でイヤホンを買ったら、店内をふらふら彷徨ってしまった。なんとか心を律して会計を済ま

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絵を買うのは嫌な金持ちばかり(エッセイ)

絵を買うのは嫌な金持ちばかり(エッセイ)

会期中に作品が二点も売れた。買っていったのは二人とも変な奴だった。ひとりは見下した態度の40代で会社経営者、もうひとりは地方在住の会社役員で、訛り言葉で延々と自慢話を聞かされた。そして二点とも買うほどの作品でもなかった。作品が売れてもインセンティブが得られるわけでもなく、むしろ個人的には業務が増えて面倒なだけなのだったが、それは表面には出さなかった。

少し前、ギャラリーとアーティストの分配比率が

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消化(エッセイ)

消化(エッセイ)

仕事終わり、放置にしていた案件について上司から確認が来ていて、お腹が痛くなった。厄介で、うやむやに先延ばしにしていた案件だった。心の片隅では、このまま自然に忘れ去られていくことを期待していたのだが、甘かった。着地点を探らなければならない。

最近は連勤に簿記試験も重なり、疲れが溜まっている。疲れは胃に顕れ、じんじんと痛み食事がままならない。精神は味の濃い物を欲しているが、胃が受け付けられそうにない

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責任の余白(エッセイ)

責任の余白(エッセイ)

朝の開場前、ギャラリーに蛾が迷い込んできた。ギャラリーの白く静謐な空間に蛾は不似合いだったが、新宿だし、と思った。場内には私のほかに新人2人しかいなくて、私が殺すしかないと直感的に判断した。

想定外の出来事は突然起こる。蛾は私たちの責任の余白をフワフワと縫って飛ぶ。その余白を埋めるのは私の役回りだった。何故かはわからないが、でも絶対にそうだ。

展覧会は週末特に暇で、今回は失敗の企画だった。昔な

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20代の時間も(エッセイ)

20代の時間も(エッセイ)

展覧会3日目。土曜なので多くの客が来場すると思ったら、今日は終日ガラガラだった。社員全員で当番に入っていたのに、完全に人余りだった。受付に人が収まりきらず、会場内をふらふら歩いて時間が経つのを待つ。身体をもてあましながら、足だけが疲れていく。退屈で生産性のない一日だった。

ギャラリーに備え付けられた美術誌をめくりながら、業界の最前線との距離を考える。0から1を創り上げるクリエイターのことを考える

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