絵を買うのは嫌な金持ちばかり(エッセイ)
会期中に作品が二点も売れた。買っていったのは二人とも変な奴だった。ひとりは見下した態度の40代で会社経営者、もうひとりは地方在住の会社役員で、訛り言葉で延々と自慢話を聞かされた。そして二点とも買うほどの作品でもなかった。作品が売れてもインセンティブが得られるわけでもなく、むしろ個人的には業務が増えて面倒なだけなのだったが、それは表面には出さなかった。
少し前、ギャラリーとアーティストの分配比率が話題になっていた。0から1を生み出す労力を考えれば、ギャラリーが利益の半分を得るのは搾取だという主張だった。実際、インターネットを駆使して自ら販路を見出す作家が増えたのは事実だ。ギャラリーや画商の役割が問われ直されているのも間違いない。
けれど、そんな甘い話はないように感じる。むしろ現実に絵を買うのは嫌な金持ちばかりで、作品を十全に理解してくれてなおかつ金払いを惜しまないコレクターなど、空想の中にしか存在しないように思う。現実に職業が存在しているということは、その職業が存在する理由が必ずあるわけで、その職業の者にしかわからないストレスも絶対にあるのだろう。