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北海道移住雑記

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記事一覧

ゆのみのはなし 2

ゆのみのはなし 2

いよいよ寒くなってきた。北海道に来てから、大きく風邪を引くことはめっきりなくなったけれど、毎年この秋から冬の、寒さがぐんと深まる時期に僕はいつも首を痛める。その原因は、寒くて肩に力が入ってしまうせいだと勝手に思っている。最初の年も、その次の年も、信じがたいほどの首の痛みは必ずやってきた。

首の痛みっていうのは、本当に生きる力を削いでいく。何をしていても常に首の痛みがそこにある。その間はほとんど人

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ゆのみのはなし 1

ゆのみのはなし 1

久しぶりの更新となりました。ご無沙汰しております。

夏至も過ぎ、夏本番といった暑さが連日続く今日この頃ですが、元気にお過ごしでしょうか。半年以上も更新が滞っている間にこちら、文章を書けなくなったり髪が伸びたり掌のマメがつぶれたり、付き合ったり別れたりしております。30代の正しい時間の使い方をまったく心得ていませんが、いい音楽を聴いていい酒を飲める夜に楽しく人と過ごせればそれでいいと思うようになり

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ケーキを買って車が止まって、火球が落ちた日

ケーキを買って車が止まって、火球が落ちた日

高速道路上で最後を迎えた黄色い車のなか、2022年12月25日 クリスマス

雪や道路凍結で相次ぐ事故の影響で街のレッカー車は出払っているらしい。待てど来ず、エンジンのかからなくなった車内の温度が徐々に冷え込んでいく、あまりに生々しい「終わり」を思わせる。すでに車が動かなくなってから1時間が過ぎている。

先月の末、鹿との衝突を機にフロントは大きく凹み、走行には問題のなかったもののフレームごと大き

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星が見えた日

星が見えた日

その夜も沢山の星が見えたらしい。海の上の月が眩しくて、そんな風に語った人のことを思い出していた。

僕はその日のことを知らないけれど、ずっとその前から続く生活と町の記憶に囲まれて、いまここにいる。

ごみ捨てに出た深夜の川沿いで、信号が点滅していた。いつもは暗く感じるこの町の夜を、今日は明るいと思った。僕が知らないあの日の夜を思い浮かべていた。

きっと言葉じゃ到底足りないけれど、僕の知らない記憶

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【移住雑記338日目】とんぼ捜索隊

先日、夏休みを迎えた子供たちの虫捕りイベントに参加した。午前中から重たい雲に覆われており、準備のためキャンプ場に先回りをして着いたスタッフの大人たちを迎えたのは、圧倒的な雨。こういう時、実は生粋の雨男であることを悟られないよう僕は基本的に黙るようにしている。

予定を変更して昼食を先に取り、午後から虫捕りを行うことにした。天気は回復、それどころか先ほどの豪雨の記憶を一瞬で塗り替えるような快晴に。そ

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【移住雑記329日目】晴れに向かう迷子たち

【移住雑記329日目】晴れに向かう迷子たち

「右ですか?左ですか?」

「ここは、左!わかんないけど」

雨のキャンプ場から一旦引き返す車の中、僕は目的地までの道のりを知らず。同乗者の一言に合わせてウィンカーを出してゆっくり左折する。バックミラーで遠ざかっていく、選ばれなかった景色の先は雨でよく見えなかった。他のスタッフが運転する後続の車も、僕たちに付いて左折した。天井を打ち付ける雨音が少しだけ弱くなった気がした。

しばらく道を進むものの

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【移住雑記307日目】あつ森、ビー玉、ハスカップ

【移住雑記307日目】あつ森、ビー玉、ハスカップ

先日メールフォルダを整理しているとき、1件のメールが目に留まった。ちょうど1年前、地域おこし協力隊の仕事の求人にエントリーする内容のものだった。

昨年の今ごろは仕事を辞めて、ぼんやりと自分の生き方を考えていた。時々人に誘われてご飯に行く以外は家の中で本を読み、夜になれば友人と朝が来るまで電話をしていた。あの時の自分が今となっては、少しだけ別の人の時間だったように感じることもある。1年はあっという

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【移住雑記297日目】大きく息を吸い込んで

【移住雑記297日目】大きく息を吸い込んで

すっかり五月のアレからは復活しましたおかげさまです。

襟裳岬の記事をあげてから、いろんな方にご飯や飲みに誘っていただけて、すごく嬉しかったです。

「もう1襟裳行っとく?」

そんな風に笑ってくれる人が近くにいるというのはとても有難いもので、例えばそんな人の些細な一言のおかげで最近変わったことと言えば、気張らずにお酒を飲めるようになったことでしょうか。

それにしてもまあ、日々はうまくいかないこ

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【移住雑記241日目】オレンジに揺られろ

【移住雑記241日目】オレンジに揺られろ

冗談のような話に聞こえるけれど、本当の話だから仕方がない。
北海道に移住して、サーフィンを始めた。

いよいよ冬も明けてきたような、温かい日の差す北海道。ついこの前まで当たり前にあった雪の塊が、今では日陰でひっそりと申し訳なさそうな顔をしている。

厚真町は浜厚真。広々とした浜の景色の先に車が並び、その奥で波が幾層も揺れている。北国にサーフィンのイメージはあまりないけれど、ここ浜厚真は北海道でも屈

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【移住雑記 半年】僕とコアラと雪の重み

【移住雑記 半年】僕とコアラと雪の重み

春、と呼ぶにはまだ早い。

長い冬が終わる前の、雪融けの季節。何十年に一度と言われた大雪の重みのせいで、久しぶりの再会だというのに、すっかりくたびれた道路沿いの仲間たち。あと少しあと少しだけ、猫背のガードレールは呼吸を整えている。

お疲れ様、春が来るまで休んでおくれ。

更新をさぼっていたというよりも、言葉にしたくないことが多い。形を持たない時間そのものの重みが生々しく、嬉しかったり落ち込んだり

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【移住雑記149日目】大雪と消える境界線

【移住雑記149日目】大雪と消える境界線

雪が降った。厚真では何十年に一度の大雪らしい。

あたり一面は雪で覆われ、車道や駐車場の白線も見えない。いつも通っているはずの道が、なぜか全く違って見える。街に出ると、それぞれの家の前で雪かきをしている人たちがいる。中には白い息を吐きながら空を仰ぎ、延々と降り続ける雪にやれやれだといった表情を浮かべている人もいる。

「大変でしょ、厚真はこんなに降ることほとんどないんだけどね」

歓迎してくれてい

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【移住雑記111日目】スマホを落としただけなのに、ね

【移住雑記111日目】スマホを落としただけなのに、ね

――そうだ、自分はこういうタイプだった。

カヌーの上から澄み渡った水面に反射する自分の顔を見てそう思った。それはたいていの場合、浮かれている時に起こすのだ。数分前まで小学生たちと雪玉を投げ合って遊んでいた、齢29にして完全に浮かれていた。

スマートフォンを無くした。

昔から楽しいイベントの終わりに「事件」を起こすことで有名だった。

中1の頃、親戚たちと海に遊びに行った時の話。海を上がって、

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【移住雑記100日目】卵かけご飯を自炊と呼ばせて

【移住雑記100日目】卵かけご飯を自炊と呼ばせて

卵が当たった。

東京から北海道に引っ越してくるとき、どうやら自炊意欲を部屋に置いてきてしまったらしい。移住して約4カ月、同僚がたまに作ってくれる美味しい料理以外はほとんど外食で済ましている。「北海道に来て美味しいものがたくさんあるから太ったでしょ?」と関東の友人に聞かれるたびに、「うん、ほんとにね」と苦笑いしている私の主食は、夜になると値引きシールが貼られるセイコーマートのカツ丼とコアラのマーチ

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【移住雑記3カ月目】禅問答とコアラのマーチ

【移住雑記3カ月目】禅問答とコアラのマーチ

厚真に来て3ヶ月が経つ。夏の終わりから秋になり、ひたすら怖いと言っていた冬になった。暮らしや仕事のなかでの出会いも季節も、1ヶ月ごとに全く違う景色を写している。

15時にははっきりと夕方が始まるこの季節の北海道は、西日が苦手な僕にとってどうも過ごしにくいと思っていた。先日、同僚に早起きを命じられ4時半ごろに起きた時、薄いピンク色に染まる東の空を見て驚いた。こんなに早い時間から明るくなる空に、また

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