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みすず書房の本は文庫にならない……そんなふうに考えていた時期が私にもありました

読書家の本棚には必ずといっていいほどある、みすず書房の本。

一冊の充実ぶりはもちろんのこと、思想・哲学、自然科学、文学、ノンフィクション、芸術、医学など分野も幅広いです。


なんかいい本を読みたいけど、何を読めばいいかわからない。

そんなときはみすず書房の本のタイトルを流し見していって、ピンときたものを手にとると、きっと満足できることでしょう。


でも、ひとつだけ困る点があります。

それは値の張ること。


ハードな専門書やマニアックな書籍を出す他の出版社と比べて特に高いというわけではないのですが、みすずの場合、私みたいな一般読者でも興味を持つ本や学生の必読書がたくさんあるので、価格設定が悪目立ちしやすいです。

みすず書房では文庫を出していないので、ロングセラーやベストセラー、たとえばフランクル『夜と霧』やピケティ『21世紀の資本』もずっと単行本のまま、お値段すえ置き。

品切や絶版になった良著も文庫として再刊されることはありません。


マリー・アントワネットはかつてこう言いました。

「みすず書房が文庫で出さないなら、他の出版社に文庫化してもらえばいいじゃない」


実際、みすず書房から刊行され、品切・絶版になった本が他社の文庫に入ることはそこまで珍しいことではありません。

これは意外と知られていないと思うので、実例をまとめてみました。


「この本必読書だけど絶版なんだよね。メッチャ高騰してるけど版元みすずだから文庫化もないしさぁ〜知ってる?みすずから出た本って文庫にならないんだよ」とか言ってる人にトドメを刺したいときにご活用ください。


【追記】ブクログの方が見やすいかもです↓

文庫になったみすず書房とパウル・クレーの装画たち

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1. みすず書房の本が他社で文庫化 (刊行年順)

アルテュール・ド・ゴビノー『ルネッサンス』(加茂儀一訳)

みすず書房(上巻のみ、1948) → 角川文庫(上下巻、1953)

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猪木正道『共産主義の系譜』

みすず書房(1949) → 角川文庫(1953) → 角川ソフィア文庫(増補版、2018)



バーバラ・W. タックマン『決定的瞬間 暗号が世界を変えた』 (町野武訳)

みすず書房(1968) → ちくま学芸文庫(2008)



ジョン・デューイ『現代政治の基礎 公衆とその諸問題』 (阿部齊訳)

みすず書房(1969) → ちくま学芸文庫(『公衆とその諸問題 現代政治の基礎』に改題、2014)



柴谷篤弘『反科学論 ひとつの知識・ひとつの学問をめざして』

みすず書房(1973) → ちくま学芸文庫(1998)



C. S. ルイス『愛はあまりにも若く』/『顔を持つまで』(中村妙子訳)

みすず書房(1976) → 平凡社ライブラリー(2006)



小川環樹編『荻生徂徠全集第3巻 経学一』&『荻生徂徠全集第4巻 経学二』

みすず書房(1977) →荻生徂徠『論語徴』東洋文庫(1994)



外山滋比古『異本論』

みすず書房(1978) → ちくま文庫(2010)



狩野直喜『漢文研究法』

みすず書房(1979) → 東洋文庫(2018)



朝永振一郎『量子力学と私』

みすず書房(1983) → 岩波文庫(1997)




ネルソン・グッドマン『世界制作の方法』 (菅野盾樹&中村雅之訳)

みすず書房(1987) → ちくま学芸文庫(菅野単独訳、2008)




チャールズ・ホーマー・ハスキンズ『十二世紀ルネサンス』 (別宮貞徳&朝倉文市訳)

みすず書房(1989) → 講談社学術文庫(『十二世紀のルネサンス ヨーロッパの目覚め』に改題、2017)




小沼丹『珈琲挽き』/『小さな手袋 珈琲挽き』

みすず書房(1994) → 講談社文芸文庫(2014) → みすず書房(2002, 2022)



E. M. フォースター『インドへの道(E.M.フォースター著作集4)』(小野寺健訳)

みすず書房(1995) → 河出文庫(2022)




ホルヘ・ルイス・ボルヘス『七つの夜』 (野谷文昭訳)

みすず書房(1997) → 岩波文庫(2011)




徳永絢『ヴェニスのゲットーにて』

みすず書房(1997) → 講談社学術文庫(『 ヴェニスからアウシュヴィッツへ』に改題・再編集、2004)




イタロ・カルヴィーノ『なぜ古典を読むのか』 (須賀敦子訳)

みすず書房(1997) → 河出文庫(2012)




ジョルジュ・バタイユ『ランスの大聖堂』 (酒井健訳)

みすず書房(1998) → ちくま学芸文庫(2005)




リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』 (柴田元幸訳)

みすず書房(2000) → 河出文庫(2018)




長田弘『一日の終わりの詩集』

みすず書房(2000) → ハルキ文庫(2021)




森まゆみ『にんげんは夢を盛るうつわ』

みすず書房(2002) → 集英社文庫(『旅暮らし』に改題、2009)



荒川洋治『忘れられる過去』

みすず書房(2003) → 朝日文庫(2011)




長田弘『死者の贈り物』

みすず書房(2003) → ハルキ文庫(2022)




林芙美子著 森まゆみ解説『林芙美子 放浪記』

みすず書房(2004) → 集英社文庫(『森まゆみと読む林芙美子「放浪記」』に改題・加筆修正・再編集、2020)




森まゆみ『プライド・オブ・プレイス』

みすず書房(2005) →集英社文庫(『いで湯暮らし』に改題、2013)




石原千秋『『こころ』大人になれなかった先生』

みすず書房(2005) →朝日文庫( 『『こころ』で読みなおす漱石文学』に改題・増補版、2013)




青柳いづみこ『音楽と文学の対位法』

みすず書房(2006) → 中公文庫(2010)




ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン、リチャード・ドーキンス『これが見納め 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景』(安原和見訳)

みすず書房(2012) → 河出文庫(2022)



池内紀『消えた国 追われた人々』

みすず書房(2013) → ちくま文庫(2019)



鳥飼玖美子『戦後史の中の英語と私』

みすず書房(2013) → 新潮文庫(『通訳者たちの見た戦後史 月面着陸から大学入試まで』に改題・加筆修正, 2021)



レフ・マノヴィッチ『ニューメディアの言語  デジタル時代のアート、デザイン、映画』(堀潤之訳)

みすず書房(2013) → ちくま学芸文庫(2023)



R.D.レイン『好き? 好き? 大好き?』(村上光彦訳)

みすず書房(1978) → 河出文庫(2023)



E. M. フォースター『小説の諸相』(中野康司訳)

みすず書房(1994) → 中公文庫(2024)



2. 他社の絶版文庫がみすず書房から復刊 (刊行年順)


暉峻康隆『日本人の笑い』

光文社カッパブックス(1961) → 文春文庫(1984) → みすず書房(2002)




グスタフ・ヤノーホ『カフカとの対話』 (吉田仙太郎訳)

筑摩叢書(1967) → ちくま学芸文庫(改訳、1994) → みすず書房(2012)




石原吉郎『望郷と海』

筑摩書房(1972) → ちくま文庫(1990) → ちくま学芸文庫(1997) → みすず書房(2012)





ウラジミール・ナボコフ 『ベンドシニスター』 (加藤光也訳)

サンリオSF文庫(1986) → みすず書房(改訳、2001)




3. 訳者が異なる文庫 (著者名五十音順)

ハンナ・アーレント『革命について』/『革命論』

志水速雄訳(合同出版、1968 → 中央公論社、1975 → ちくま学芸文庫、1995)
森一郎訳(みすず書房、2022)




ヴァージニア・ウルフ『オーランドー』

織田正信訳(春陽堂、1931)
杉山洋子訳(国書刊行会、1983 → ちくま文庫、1998)
川本静子訳(みすず書房、2000)





ヴァージニア・ウルフ『三ギニー』

出淵敬子訳(みすず書房、2006)
片山亜紀訳(平凡社ライブラリー、2017)




ヴァージニア・ウルフ『自分だけの部屋』/『自分ひとりの部屋』

西川正身安藤一郎訳(新潮文庫、1952)
村松加代子訳(松香堂書店、1984)
川本静子訳(みすず書房、1988)
片山亜紀訳(平凡社ライブラリー、2015)



ヴァージニア・ウルフ『波』

大沢実訳(市民文庫、1953 → 三笠書房、1954)
鈴木幸夫訳(角川文庫、1954)
川本静子訳(みすず書房、1976)
森山恵訳(早川書房、2021)



ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』

大沢実訳(三笠書房、1954 → 講談社、1969)
富田彬訳(角川文庫、1955)
安藤一郎訳(河出書房、1956 → 新潮文庫、1958)
大沢章訳(講談社、1974)
近藤いね子訳(みすず書房、1980)
丹治愛訳(集英社、1998 → 集英社文庫、2007)
土屋政雄訳(光文社古典新訳文庫、2010)




ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』

大沢実訳(雄鶏社、1949 → 三笠文庫、1953)
中村佐喜子訳(新潮文庫、1956)
伊東只正訳(開明書院、1977)
伊吹知勢訳(みすず書房、1976)
御輿哲也訳(岩波文庫、2004)
鴻巣友季子訳(河出書房新社、2009 → 新潮文庫、2024)



エーリッヒ・ケストナー『ファビアン』

小松太郎訳(改造文庫、1938 → 文藝春秋新社、1948 → 新潮文庫、1951 → 東邦出版社、1973 → 学習研究社、1979 → ちくま文庫、1990)
丘沢静也訳(みすず書房、2014)

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アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』/『小さな王子さま』/『プチ・プランス』/『小さな王子』/『小さな星の王子さま』/『ちいさな王子』/『小さい王子』/『星と砂漠と王子さまと』/『星から来た王子』

内藤濯訳(岩波少年文庫、1953 → 岩波文庫、2017)
三野博司訳( 論創社、2005 )
小島俊明訳( 中公文庫、2005 )
倉橋由美子訳(宝島社文庫、2005 → 文春文庫、2019)
山崎庸一郎訳( みすず書房、2005 )
池澤夏樹訳(集英社文庫、2005 )
川上勉&廿樂美登利訳( グラフ社、2005 )
藤田尊潮訳( 八坂書房、2005 )
辛酸なめ子訳(コアマガジン、2005)
石井洋二郎訳( ちくま文庫、2005 )
稲垣直樹訳( 平凡社ライブラリー、2006 )
河野万里子訳( 新潮文庫、2006 )
河原泰則訳( 春秋社、2006 )
谷川かおる訳(ポプラポケット文庫、2006)
野崎歓訳(光文社古典新訳文庫、2006)
三田誠広訳(講談社青い鳥文庫、2006)
石原理道訳(石原書店、2006)
奥本大三郎訳(白泉社、2007)
飯島勉訳(文芸社、2007)
浅岡夢二訳(ゴマブックス、2008)
芹生一訳(海苑社、2009)
管啓次郎訳(角川文庫、2011)
内藤あいさ訳(文芸社文庫、2013)
田久保麻理&加藤かおり(飛鳥新社、2015)




カール・シュミット『現代議会主義の精神史的地位』/『現代議会主義の精神史的状況』

稲葉素之訳(みすず書房、1972)
服部平治宮本盛太郎訳(社会思想社、1972)
樋口陽一訳(慈学社出版、2007 → 岩波文庫、2015)



ウィンストン・チャーチル『第二次世界大戦』

毎日新聞社翻訳委員会訳、1949-1955、完訳 → 中公文庫、2001、抄訳)
佐藤亮一訳(河出文庫、1983-1984、抄訳)
伏見威蕃訳(みすず書房、2023- 、完訳)

https://yomitaya.co.jp/?p=85709



シュテファン・ツヴァイク『マリー・アントワネット』

高野弥一郎訳(大観堂、1943)
高橋禎二秋山英夫訳(青磁社、1948 → 三笠書房、1950-1951 → 岩波文庫、1952-1953)
山下肇訳(角川文庫、1958-1959)
藤本淳雄森川俊夫訳(みすず書房、1962)
関楠生訳(河出書房、1967 → 河出文庫、1989)
中野京子訳(角川書店、2007)





H.L.A.ハート『法の概念』

矢崎光圀監訳(みすず書房、1976)
長谷部恭男訳(ちくま学芸文庫、2014)




ロラン・バルト『表徴の帝国』/『記号の国』

宗左近訳(新潮社、1974 → ちくま学芸文庫、1996)
石川美子訳(みすず書房、2004)




ロラン・バルト『零度のエクリチュール』/『エクリチュールの零度』

森本和夫訳(現代思潮社、1965)
渡辺淳沢村昂一訳(みすず書房、1971)
森本和夫林好雄訳註(ちくま学芸文庫、1999)
石川美子訳(みすず書房、2008)




E.M.フォースター『小説の諸相』

田中西二郎訳(新潮文庫、1958)
中野康司訳(みすず書房、1994 → 中公文庫、2024)



E.M.フォースター『眺めのいい部屋』

北條文緒訳(みすず書房、1993)
西崎憲中島朋子訳(ちくま文庫、2001)



エドムント・フッサール『イデーンI 純粋現象学と現象学的哲学のための諸構想』/『純粋現象学及現象学的哲学考案』

池上鎌三訳(岩波文庫、1942)
渡辺二郎訳(みすず書房、1979-1984)




エドムント・フッサール『内的時間意識の現象学』

立松弘孝訳(みすず書房、1967)
谷徹訳(ちくま学芸文庫、2000)




アラン・フルニエ『グラン・モーヌ』

長谷川四郎訳(みすず書房、1952 → 2005)
田辺保訳(旺文社文庫、1972)
天沢退二郎訳(岩波文庫、1998)





エリック・ホブズボーム『匪賊の社会史』

斎藤三郎訳(みすず書房、1972)
船山榮一訳(ちくま学芸文庫、2011)




チャールズ・ラム『エリア随筆』

平田禿木訳(国民文庫刊行会、1927-1929 → 新潮文庫、1952)
幡谷正雄訳(健文社、1929-1934)
戸川秋骨訳(岩波文庫、1940)
石田憲次訳(新月社、1948)
山内義雄訳(角川文庫、1953 → みすず書房、2002)
荒牧鉄雄訳(大学書林語学文庫、1959)
岡倉由三郎訳(帖面舎、1965)
平井正穂訳(八潮出版社、1978)
船木裕訳(平凡社ライブラリー、1994)
南條竹則訳(国書刊行会、完訳、2014-2017 → 岩波文庫、抄訳、2022)


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R.D.レイン『引き裂かれた自己』

阪本健二志貴春彦笠原嘉訳(みすず書房、1971)
天野衛訳(せりか書房、1971 → ちくま学芸文庫、2017)




ロマン・ロラン『ピエールとリュース』

宮本正清訳(養徳社、1946 → みすず書房、1965)
渡辺淳訳(角川文庫、1958 → 鉄筆文庫、2015)



4. 他社の絶版本をみすず書房が復刊し、その再絶版後に他社から文庫化(著者名五十音順)

小野川秀美『清末政治思想研究』

(京都大學東洋史研究會、1960 → みすず書房、1969 → 東洋文庫、増訂版・二分冊、2010)



庄野潤三『ザボンの花』

(近代生活社、1956 → あかね書房、1968 → 角川文庫、1972 → 講談社、1973 → 福武文庫、1991 → みすず書房、2006 → 講談社文芸文庫、2014)

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野呂邦暢『愛についてのデッサン 佐古啓介の旅』

角川書店(1979) → みすず書房(2006) → ちくま文庫(増補版、2021)


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