日本型終身雇用における労働組合の考察
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※このnoteは、毎週土曜の夕方に投稿しています
11年目になりました。当時の人事制度においては「次世代リーダー研修」という選抜研修があり、この研修の受講資格を獲得するか否かが「出世の壁」となっており、私は無事に受講資格を得ることができました。
ここまでは順調な会社員人生だったと思います。しかし、数年後の人事制度改定により「やっぱり君は壁を超えていないランクで!」と、ちょっと意味の分からない認定を受けるのですが、詳細は13年目の回で記載したいと思います。
労働組合の「部会委員長」に就任
東京海上の労働組合においては、各部に「部会委員長」が存在します。私は財務企画部の代表として部会委員長に就任しました。そんなに偉くも何ともないのですが、労働組合関連のとりまとめ的な役割となります。この頃まで労働組合について深く考えたことは無かったのですが、労働組合に関与するうちに、日本型終身雇用の会社における労働組合の実態について、少しずつ違和感を持ち始めました。
当時、私の所属していた「東京第一分会」は以下の部から構成されていました。
東京エリアの企業営業部(多数)、本店損害サービス部、企業商品業務部、リスク管理部、投資運用部、コーポ運用部、財務企画部(←私の所属)など・・・
このように、多数を占める「東京エリアの企業営業部」のカタマリに、「その他」を付け足したような状態で、私はふと疑問に思います。
ぼく「同じ会社とはいえ、それぞれの部門は労働に関する利害が全然違うと思うんだけど、同じ東京第一分会として括られている意義は何?東京という場所が近いだけ?」
月に1回、私は財務企画部を代表して東京第一分会の会合に行くのですが、多数を占める企業営業部の議題ばかり。もちろん、他のカンパニーの話は興味があったのですが、これは組合の会合です。私個人の興味を満たすためのものではありませんので、「この会合は一体何なんだ、財務企画部が組合として出席する必要はあるのか?」と思っていました。
ぼく「会合の議事をフィードバックしろと言われても、ほとんどが財務企画部には全く関係の無い内容なんだよな。会社LOVE勢は『会社全体の問題を、財務企画部にもフィードバックしてください!good company!』とか言って、フィードバックすることの理由を後付けしてるだけだし。めんどくせーから、真面目に付き合うフリをしとくか・・・」
更に、東京第一分会の交渉先は「企業営業開発部と企業営業担当役員」に固定されており、仮に財務企画部に労働問題があったとして、それを企業営業の統括部と交渉しても意味がありませんので、「多数の企業営業部+その他」で構成される東京第一分会に、財務企画部などの「その他の部門」が所属をする意味が分かりませんでした。
このように「利害関係がバラバラな集団が一括りにされている労働組合」に違和感を覚えたことを契機として、徐々に日本企業固有の「企業別労働組合」についても疑問を持ち始めたのです。
日本型終身雇用における「企業別労働組合」とは
そもそもですが、労働組合は労働上の問題を企業と対等に交渉するため組織で、その起源は産業革命時代のイギリスにあると言われています。そして、この労働組合の考え方が日本にも輸入されたのですが、日本においては独自の変化を遂げており、世界的にも稀な「企業別労働組合」を形成しました。細かな話は省略しますが、欧米では企業横断型の「職業別組合」や「産業別組合」が一般的なようですね。
戦後から続く日本の高度経済成長期においては、終身雇用、年功序列、企業別労働組合が「日本的経営の三種の神器」と言われていました。これは、労働者が就職ではなく「就社」をする前提に成り立つ仕組みであり、企業別労働組合とは「職種」ではなく所属する「会社」毎に労働組合を形成する考え方です。
私達からすると、ごく一般的な形態だと思いますが、実は世界的には極めて稀な組合形式であるといえます。この日本固有の企業別労働組合が形成された戦後の高度経済成長期においては、企業内の職種間における利害対立が少なく、労働組合も会社毎で一括した方が合理的だったのかもしれません。
しかし、今日では産業の成熟化により仕事の分業化が進み、状況は大きく変化しています。損害保険会社においては、「損サ部門」と「営業部門」では働き方も全然違いますし、前述のように「企業営業」と「財務部門」でも同じ会社とはいえ、働き方や関連する労働問題も全く異なります。
更に直近では、「総合職」と「一般職」の給与に関する利害対立といった、職制に起因する問題も顕在化しているように見えます。このような状況において、「同じ会社」という所属のみで一括りになっている企業別労働組合は、どのような役割を果たすのでしょうか。
もちろん、利害調整です。
ぼく「あれ、それぞれの職制の利害調整って、会社側がやることじゃないの?」
企業別労働組合の限界
日本型終身雇用の企業別労働組合においては、利害の異なる職制の人々を「所属する会社」で一括りにしてしまっているため、実態としては労働組合が社員の利害調整役を担っています。
本来であれば、会社側(人事部)が利害関係の調整をすれば良いのですが、日本型終身雇用の会社における企業別労働組合においては、労働組合が全組合員の利害関係の調整を行っているのです。そうすると、全社員を対象とする会社側(人事部)と、管理職以外を対象とする労働組合で違いはあるものの、関係する利害関係者に大きな差異はありません。
その結果、労働組合として全組合員の利害関係を調整しても、それは結局、会社側(人事部)が全社員の利害関係を調整することと、似たようなものになってしまいます。悪く言えば、労働組合が会社側(人事部)の下請け作業をしているに過ぎないような状態とも言えます。
とはいえ、私も労働組合で頑張っている・頑張ってきた人を多数知っており、彼らを批判するつもりはありません。ただ、日本固有の企業別労働組合が「御用組合」と批判されることが多いのは、このような仕組み上の問題が浮き彫りになっているからではないでしょうか。
ここで、仮に「総合職労働組合」「一般職労働組合」のようなものがあればどうでしょうか。その場合は、各労働組合がそれぞれの利害に基づく主張を会社にぶつけることになり、会社側はその要求をどのように調整をするかが求められるので、「御用組合」といった批判は無くなるかもしれません。
※私自身が「総合職労働組合」「一般職労働組合」を推している訳ではなく、あくまで頭の体操として取り上げています。
崩壊しているのは終身雇用だけではない
近年は終身雇用の崩壊や、メンバーシップ型からジョブ型への移行等が話題になっていますが、実は日本的経営の三種の神器の1つである「企業別労働組合」も、今日的には前述のような制度疲労を起こしていると考えられます。
令和の現在において、昭和の高度経済成長期のように「所属する会社」で労働者を一括りにするのは、もはや限界を迎えつつあるのではないでしょうか。
(続く)
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