
2024年上半期の本ベスト約10冊
2024年の上半期もたくさんの本と出合えました。せっかくなので、2024年6月末までに読み終えた本(刊行年問わず)の中から、特に好きなものを選んでみました。
なお、2024年の読了・本関連ツイートはこちらにまとめています。あなたの積読拡充のお供にぜひどうぞ👇
※以下、全て敬称略&順不同。読了ツイートに感想を加筆しているものもあります。
※本のタイトル後に発行年を記載。
ピュウ(2023)
キャサリン・レイシー著/岩波書店
ピュウ
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) January 13, 2024
キャサリン・レイシー著/岩波書店
全てが謎のピュウを巡る物語。祭り間近な村、善意の色をしたグロテスクな感情、ピュウ自身も逃れられない自分という棺。ピュウの気持ちも周囲の不安もわかるのに、自分ならどうするかはわからなかった。2時間くらいの淡々とした映画で見たい空気感。#読了 pic.twitter.com/5WUhqVpy4z
本作については、こちらのエッセイで取り上げています👇
七十四秒の旋律と孤独(2020)
久永実木彦 著/東京創元社
七十四秒の旋律と孤独
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) January 18, 2024
久永実木彦 著/東京創元社
ワープの最中でも絶望的な雪の中でも、とにかく景色が美しいSF小説。人工知性のマ・フが“巡る”物語は、"何が醜いか"だけではなく"何が美しいのか"に思いを馳せることが出来て、物悲しく壮大ながらも心地よかった。https://t.co/KzdPs3Z33o#読了
ヒトもマ・フも(方向性は違うけど)どちらも愚かでグロテスクなのがリアルで好き。創造は出来るが奪わずにはいられないヒト、維持や任務遂行は得意だけど新しいものを生み出せないマ・フ。だからこそ最後の物語のそれぞれの結末は“美しさ”に光が当たっているような気がして、とても優しく感じた。#読了
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) January 18, 2024
2023年にpixivで開催されたSF短編コンテスト「さなコン3」にて、拙作『天の牛蒡』が二次選考を通過し、その際に著者の方がフィードバックコメントを下さったご縁があって知った作品です。知れてよかった……!
地下図書館の海(2019)
エリン・モーゲンスターン著/東京創元社
地下図書館の海
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) February 10, 2024
エリン・モーゲンスターン著/東京創元社
“解説 川野芽生”という布陣が身悶えるほどしっくりくる!美しくて心が躍る、捉え所がないのに想像力を膨らませる程はっきり景色が見える物語。子どもの頃にドアノブから手を離した扉は、ある日突然現れるのかも。大好きなお話が増えた。#読了 pic.twitter.com/gX88wIkk0V
この世界からは出ていくけれど(2023)
キム・チョヨプ著/早川書房
この世界からは出ていくけれど
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) February 12, 2024
キム・チョヨプ著/早川書房
著者の本を読むのはこれで三冊目。なぜだか、自分の中で一番しっくり馴染んだ気がした。ノスタルジックで澄み切っていて物悲しく、SFの理屈とヒトの感覚・感情が混ざり合った短編集。世界を優しく因数分解したような雰囲気だった。#読了 pic.twitter.com/Pw8H8l2iKh
マチルド・ローランの調香術―香水を感じるための13章(2023)
マルチド・ローラン著/白水社
マチルド・ローランの調香術―香水を感じるための13章
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) February 13, 2024
マルチド・ローラン著/白水社
対立しがちな数多の要素を飛び越え、真の“喜び”のために香水を生み出すエレガンスと大胆さ。視座の高さと軽やかさが素敵。香水は人に振りかざすものではなく、“自分の純粋な喜び”の為に有るなぁと改めて。#読了 pic.twitter.com/y8pPxSUkrH
どんなジャンルにも、自分の信念が故に相手の好きなものを見下す・批判する言動をするファンは居ます。それは残念なことに香水でも同じこと。
でも、実際に最前線で奮闘している一流の人は違うなと、この本で実感しました。著者が重要視するのは他者を蹴落とす愚かな優越感ではなく、“実現したい世界観(エレガンス)の実現”、“香水業界の発展”、“香りで得る純粋な喜び”。それでいて経営感覚は損なわず、且つ妙にツンツンした意識高い系ではなく自然体で香りと向き合う姿勢がとても素敵でした。
特に、「我々はおおよそどんな香りでも、自分に納得のいく価格で見つけることができます」(三七頁)という考え方は、私が物を買う際の指標の一つになりました。他人がどう言おう・感じようと、自分が納得できる買い物こそが一番心地いい。物と自分という一対一の関係で得られる喜びと納得感を大事にしたい。香水だって何だって、そうやって選んでいけたら素敵ですね。
過去を売る男(2023)
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 著/白水社
過去を売る男
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) February 15, 2024
ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ 著/白水社
『忘却についての一般論』が大好きなので、本作も読めて嬉しかった!過去を売る男を元人間のヤモリの視点で進むファンタジーだけど、人間模様や世の中の描写がリアルで不思議な雰囲気。クッツェーの名前が出てきて驚いた。#読了 pic.twitter.com/8PMS0nDJDY
2022年に『「その他の外国文学」の翻訳者』を読んで以来、ポルトガル・アンゴラ文学に興味を持つようになりまして、「木下眞穂 訳」の文字を見ると反射的に読みたくなります。
なんでまたポルトガル……? というと、以前私はポルトガルに出かけたことがあり、CD屋さんでいい音楽を色々教えてもらった思い出があるからです。(当時の様子はこちらのエッセイにて👇)
また、たくさんの人におすすめしたい本『「その他の外国文学」の翻訳者』については、以下のエッセイで詳しく取り上げています👇
木曜殺人クラブ 逸れた銃弾(2023)
リチャード・オスマン著/早川書房
木曜殺人クラブ 逸れた銃弾
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) February 22, 2024
リチャード・オスマン著/早川書房
大好きなシリーズの第三弾。今回はクラブの周りの人たちも物語に関わってきて賑やかな印象。十年前のジャーナリストの死、脅迫されるエリザベス…複雑な諸々が絡み合い解け行くエンタメっぷりが最高。#読了https://t.co/Rnfl3zbbBB
シリーズ第一弾『木曜殺人クラブ』については、こちらのエッセイで取り上げています👇
マーリ・アルメイダの七つの月(2023)
シェハン・カルナティラカ著/河出書房新社
マーリ・アルメイダの七つの月
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) April 17, 2024
シェハン・カルナティラカ著/河出書房新社
内戦中のスリランカの砂埃や血生臭さが恐ろしい程目に浮かぶ。だけどマーリの人柄のお陰か、冒険譚やミステリのハラハラ、人の暖かさも感じられた。読みながら心拍数が上がる一冊。“何もなかったわけじゃないんだ”。#読了 pic.twitter.com/kYROw5VyYW
過去を受けて現在の自分が奮闘し、結果として(その先に自分が居るかどうかはわからないけれど)未来に何かを託す……という主人公の姿がとても好きです。その“何か”がどれだけささやかなものであったとしても、これまでの行動一つ一つが積み上げた大切な何か。全部無駄だったわけではない、「何もなかったわけじゃない」と思えるのは、本当に美しいなあと感じました。ヒリヒリする題材だけど、メッセージはとても優しい物語。
ある晴れたXデイに: カシュニッツ短編傑作選(2024)
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ著/東京創元社
ある晴れたXデイに: カシュニッツ短編傑作選
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) May 29, 2024
マリー・ルイーゼ・カシュニッツ著/東京創元社
第一弾が大好きだったので本作も読めてとても嬉しかった。シュールさ、不穏さが日常にぬるりと現れる。お気に入りは「チューリップ男」。朽ちるサーカスの物悲しさと、その中に灯る光が美しい。#読了 pic.twitter.com/ofV41i8HbG
第一弾『その昔、N市では: カシュニッツ短編傑作選』については、こちらのエッセイで取り上げています👇
第一弾も第二弾も、表紙の雰囲気がかなり大好き。
関心領域(2024)
マーティン・エイミス著/早川書房
関心領域
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) June 4, 2024
マーティン・エイミス著/早川書房
同名映画の原作だけどほぼ別作品。とは言え映画で感じた距離感や不気味さ、日常に蔓延る歴史的蛮行の悍ましさは健在。ごく個人的な感情と同じトーンで語られる愚行に背筋が凍るし、文字媒体だからこそ気を抜くと“異常さ”に気付きにくいという怖さ#読了 pic.twitter.com/8l7NsD5fMM
映画についてはこちらのエッセイで取り上げています👇
私は一般公開より数か月前に映画を観たのですが、公開のタイミングになってもまだ『関心領域』を鑑賞した時の感覚が残っていました。本当に忘れられない作品に出合ってしまったな……感じています。
月とコーヒー(2019)
吉田篤弘 著/徳間書店
月とコーヒー
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) June 8, 2024
吉田篤弘 著/徳間書店
ずっと読みたかった短編集。静かでどこか夢みたいな日常を、ぽたりぽたりと落ちるコーヒーを飲むように味わいたい。特に好きなのは、ジョーカーとサンドイッチ、青いインク三部作、鳴らないオルゴール、美しい星に還る人、三人の年老いた泥棒。#読了 pic.twitter.com/AXTwSZ5HAy
実はこの本は喫茶店で読んだので、更に思い出深い読書になりました。
Blue(2024)
川野芽生 著/集英社
Blue
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) June 14, 2024
川野芽生 著/集英社
終わらないと思った。物語も苦悩も人生も。"自分"が消える感覚、消費される関係性。自分の気持ちがどうなるかわからなくて、現代日本が舞台の川野作品を読むのは怖かったけど読めてよかった。浮遊感ある言葉で表現される、真綿で首を締めるような現実という不思議。#読了 pic.twitter.com/4GYVq3VZHv
読み終えた直後に「Blue」の感想文を書こうとしたのだけれど、感情を上手く整理できそうにないのと、この本で私が感じたものはこのまま整理なんかしないで私だけが知っていればいいか…という2つの気持ちが合わさって、書きかけのものをそっと引き出しに仕舞ってある状態…
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) June 14, 2024
※感想文、書けていません……。
同著者の作品『奇病庭園』については、以下のエッセイで取り上げています👇
カフカ断片集:海辺の貝殻のようにうつろで、ひと足でふみつぶされそうだ(2024)
カフカ著/新潮社
カフカ断片集
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) June 15, 2024
カフカ著/新潮社
詩集を読んでいる感覚になる超短編集。未完結なメモ書きのようなものまで「まさにカフカ」な雰囲気なのが面白い。特に好きなのは『橋』と『使者』で、なんだか落語みたい。読む時によって好きなお話が変わるだろう、長い付き合いが出来そうな一冊。#読了 pic.twitter.com/XxgBPhJBZC
カフカの言葉はTwitterに向いてそうだけど、カフカ自身はTwitterに向いてなさそう……。同じタイミングで『決定版カフカ短編集』も入手しまして、のんびり読んでいるところです。
黒の服飾史 新装版(2024)
徳井淑子著/河出書房新社
黒の服飾史
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) June 18, 2024
徳井淑子著/河出書房新社
“黒”に焦点を当てて西洋の服飾史を中世〜現代にかけて辿る本。(絵画の中ではなく)日常の服に対する色彩倫理とキリスト教や女性/異文化蔑視思想の繋がりを深く考えたことがなかったから興味深かった。シャネルがいかに突破口だったのかをしみじみ感じる。#読了 pic.twitter.com/RSbmjJZLf0
「黒」という色だけでこんなに深堀りした本が読めるだなんて! 私は服飾にも世界史にも明るくないのですが、読めば読むほど興味が湧いて面白くて一気に読みしました。
薄っすらと、西洋絵画の中では色がどのような意味を持つのか知っていることもありましたが、日常の洋服にもキリスト教由来の色彩倫理があるだとか(この辺りは聖職者の服装を想像すればわかりよいですね)、男性の服が黒になった根幹に女性蔑視の思想(夫の経済力に合った洋服を着ろ)や、西洋以外の地域に対する蔑視の視線(文明人は黒を着る、非文明人はカラフルな服を着る)があったとか、自分の中で結びつきもしなかったことがするする繋がっていく面白味を感じた本です。当然、そこにある蔑視思想は大嫌いですが……。
そうした話題をたくさん読んで行った先、現代にシャネルが登場した時は、「彼女の存在は長年続いた蔑視によって創造されて来た歴史の突破口だったんだな……」と清々しい気持ちにさえなりました。
あと、前々から心の中の積読にあったユイスマンスの『さかしま』が何度か話題に出て来たので、いよいよ読まなくちゃいけないな……と感じた次第です。(👇読みました)
さかしま
— 矢向 亜紀 / やむかい あき (@AkiYamukai) June 21, 2024
J・K・ユイスマンス著/河出書房新社
神経症を患う主人公が自室の色に拘り文学や絵画を集め調香し旅行し…。好みや解釈を語り続け、己の世界を作り上げても満足感が長続きしない主人公が痛々しい。私自身も好きな物が色々出てきたのに、主人公とは全く気が合わなそうで面白かった#読了 pic.twitter.com/YkrUnXMbqb
約10冊だから14作品あってもいいよね! と開き直って選んだベスト本たち。どの本もとても好きですし、ここに挙げていない本も含め好きな本を見つけられるよい2024年上半期でした。
後半戦でも、自分にとって良い本との出会いがありますように。
【おまけ】2023年の約10冊記事はこちら
noteにログイン中の方はもちろん、ログインしていなくてもこの記事に「スキ(♡)」を送れます。「スキ」を押して頂くと、あなたにおすすめの音楽が表示されますので、お気軽にクリックしてみて下さいね。
他の読書感想文は、こちらのマガジンからどうぞ。
矢向の色んなベストはこちら。
許可なくコンテンツまたはその一部を転載することを禁じます。(オリジナル版、翻訳版共に)
Reproducing all or any part of the contents is prohibited without the author's permission. (Both original ed. and translated ed.)
© 2024 Aki Yamukai
いいなと思ったら応援しよう!
