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犬のエッセー集

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2020年6月。我が家に盲導犬・エヴァンがやってきました。大阪生まれの♂。やんちゃながらも健気に生きるガイド・ドッグの毎日を、エッセー風に綴ります。
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熱中症警戒アラート

熱中症警戒アラート


 ◆犬の発汗

 犬には人間以上に暑さが応えるようだ。
 人間は全身で汗をかき、気化熱によって体温を下げている。ところが、犬は足裏の肉球でしか汗をかかない。熱中症の危険性は人間の比ではない。

 地面が熱いと、肉球をやけどすることがあると聞いた。
 我が家の盲導犬・エヴァンに靴下を買ってやったところ、歩いていて脱ぎ捨ててしまった。裸族に靴を無理強いしたようなものだ。以来、素足で出かけることにして

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春雪

春雪


 ◇起き上がり小法師

 いつになく、盲導犬のエヴァンが鳴いた。
 一声だけだった。何かを要求しているか、何かを知らせている鳴き方だ。

 寒くても、起きるのが辛いと感じたことは、あまりなかった。
「トイレ、我慢しているだろうな」
 と思い、跳ね起きることにしていた。

 関東に住んでいたころ、健康のために合気道教室に通ったことがある。ほとんど身に付かなかった。ただ、受け身を応用し、起き上がり小

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マイホーム

マイホーム


 ◆くつろぎ

 人にも動物にも、居場所があることは重要だ。
 どうやら、我が家の盲導犬・エヴァンはダイニングのテーブルの下が、最も居心地がいいらしい。

 エヴァンの夕食は六時前後と早い。家族がゆっくり食べたり吞んだりするのを、ケージのそばで忙しく尻尾を振りながら、見ている。そのうち就寝前のワン・ツー(トイレ)。庭で済ませて戻ると、リードを外され、指定席でくつろぐことができる。

 日課になっ

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はまり役

はまり役


 ◆『動物王国捕物控』事情

 私が初めて書いた小説『動物王国捕物控』(文芸社刊)は、盲導犬ユーザーの山谷鍼灸師が主人公だった.。過疎化で消滅した村の跡に、土着の動物たちが王国を建国する、などという荒唐無稽な話である。
 当然のことながら、動物がたくさん登場する。人間社会同様、トラブルも起きる。一種の推理小説で、どんな推理、方法によって解決していくかが見どころである。主役をどの動物にしようか考え

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伸びしろ

伸びしろ

 

 ◆無関心

 雪印の6Pチーズは、酒のつまみにも好適だ。食べてしまったので、空き箱をエヴァンに投げてやった。喜んで遊んでいる。やがて、噛んでボロボロにしてしまう。

 ふと、思いついて、ネットでフリスビーを買ってやった。愛犬家なら、フリスビーを投げてやり、犬が空中でキャッチするシーンに憧れる。勇んで、近くの広場に行った。
 ところが、エヴァンは興味を示さなかった。我々と共に、円盤の行方を見

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なくて七癖

なくて七癖

 

 ◆癖の観察

 人間、癖がないようで、あるものである。動物の場合はどうかと気になったので、エヴァンを観察してみた。

 これというものが見当たらない。
「犬はどれもみんな同じなのかな」
 と思っていると、治療を受けていた患者さんがエヴァンを見て笑った。
「あの恰好みて。面白い寝かたするんですね」 

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デビュー

デビュー

  

 ◆散歩かエサか

 エヴァンが我が家の仲間入りした当初、ある方から「犬はエサをくれる人よりも、散歩に連れて行ってくれる人になつく」と言われた。
 真偽のほどは分からないが、犬はどちらも楽しみにしているのではないか。散歩の足取り、ドッグフードを食む勢いには、甲乙つけがたいものがある。いずれにしても、幸いにして、私は二役を兼ねているので、ひと先ず安心してよいだろう。

 毎朝、夏季は六時過ぎ

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雷神

雷神

 

 ◆招かれざる客

 雷神が我が家の上空に、長逗留(ながとうりゅう)した夜があった。
 ミニチュアダックスフンドのシモンは、しきりに吠える。
 盲導犬・エヴァンは訓練されているので、吠えることはしない。しかし、シッポを股の間に巻き込み、怯えている。リードを外してやり、抱きしめて落ち着かせる。
 二匹とも、招かれざる客が去った後も、しばらくは不安そうな様子だった。

 思えば、二〇二〇年の夏、

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コマンド

コマンド


 

 ◆予行演習

 家族から、鍼治療を依頼する電話があった。状態がかなり悪く、通院は無理らしい。
「一度診せていただき、何でしたら、定期的に往診しますよ」
 とは言ったものの、無事到着できるか心配だった。

 患者さん宅は散歩コースにはある。しかし、うまく相棒のエヴァンに、家の前で止まるよう指示が出せるかどうかだ。妻に付き添ってもらい、予行演習をした。その後、散歩のたびに確認しておいた。

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キャリア・チェンジ

キャリア・チェンジ


 ◆気配り

 エヴァンは外を歩く時、一心に前方を見て、ぐいぐいと前進する。これが室内になると、歩きながらしきりに私を振り返る。毎日のことなので、気にはしていなかった。
 この春、盲導犬チャリティの詩吟リサイタルが徳島市内で開かれた。そこで、エヴァンが私と歩く様子が愛らしいと、話題になった。どうやら、エヴァンの歩き方に特徴があるようだ。

 朝食が終わると、ふだんは治療院で過ごす。移動する時の様

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空腹は最高のソース

空腹は最高のソース

 

 ◆健康は食事管理から

 我が家の飼い犬、ミニチュアダックスフンドのシモンは、好きな時間に食事をしているようである。だらだらと食べ、ドッグフードがいつまでも食器に残っていることがある。

 盲導犬の場合、食事管理も厳しい。朝夕の二食である。太りすぎるとフットワークが悪くなる。また、種々の病気にもかかりやすくなるからだ。
 当初、毎回120グラムと、訓練士から指示されていた。それをきちんと守

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一言もの申す

一言もの申す

 

 ◆ある猫の失踪

 我が家は2015年、埼玉県I市からUターンした。妻と次女、それにミニチュアダックスフンドのシモンが一緒だった。
 私は埼玉の治療院で仕事を続けているというのに、妻たちは二泊三日かけて四国に戻った。シモンは長旅に疲れ果てたことだろう。

 シモンは2009年、山梨県生まれのメスだ。
 先に飼っていたメスの三毛猫、ミケ太が失踪した。事故にでも遭ったのではと、妻が保健所にも問

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盲導犬ユーザーに

盲導犬ユーザーに

 

 ◆顔合わせ

 数多くの候補犬の中から、訓練士が選んだのがエヴァンだった。
 犬と人間にも、当然のことながら、相性がある。訓練士の洞察力、鑑識眼が問われるところだ。

 訓練士とエヴァンが、私の治療院に入ってきた。その大きさにまず驚かされた。半ば口を開け、息遣い荒く私を見ている。訓練士がリードを緩めると、エヴァンは私に寄ってきた。私も頭を撫でてやる。
 まるで、新入社員の初出勤だった。それ

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