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親魏倭王の小話集(小説編)

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本、主に小説についての小話集。Twitterに投稿した中でツリーを形成する長文ツイートを転載。
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2025年2月の記事一覧

親魏倭王、本を語る その29

【三毛猫ホームズの先輩】 赤川次郎氏が『三毛猫ホームズの推理』を刊行するのに約10年先行して、アメリカでリリアン・J・ブラウン氏が猫を探偵役にした『猫は手がかりを読む』を刊行している。僕の記憶が正しければ1966年の刊行だったと思うが、売れ行きが良くなかったらしく、10年以上続編が出せなかったという。 『三毛猫ホームズの推理』に先行する作品だが、日本で訳出されたのは1988年で、赤川氏はこれを参考にすることはできず、全くのオリジナルとして猫探偵ホームズを生み出したことになる。

親魏倭王、本を語る その28

【ポンペイ夜話】 『死霊の恋・ポンペイ夜話』はテオフィル・ゴーティエの代表的な怪奇幻想小説5篇を収録した作品集である。「死霊の恋」は吸血鬼ものの古典として広く知られているが、「ポンペイ夜話」もなかなかおもしろくて好きな作品。ポンペイの廃墟で見つかった「女性の胸の押し型」を見て心惹かれる男の前に夢か幻想か、古代ローマの麗人が現れ逢瀬を楽しむ。ファンタジーの傑作である。 同時期にプロスペル・メリメが「ヴィーナスの殺人」を書いているが、この時期のフランスに一種の骨董ブームがあったよ

親魏倭王、本を語る その27

【スペイン岬の謎】 『スペイン岬の謎』は、エラリー・クイーンの国名シリーズの掉尾を飾る1冊である。一般に、この後『二ホンかしどりの謎』が書かれているとされるが、これは『境界の扉』というタイトルで刊行されていて、雑誌連載時は“The Japanese Fan Mystery”というタイトルだったと言われているが、どうも誤りらしい。 この『スペイン岬の謎』が国名シリーズで最初に読んだ1冊なのだが、代表作である『オランダ靴の謎』『ギリシア棺の謎』『エジプト十字架の謎』などと比較する

親魏倭王、本を語る その26

【すべてはポーから始まった?】 コナン・ドイルやH・G・ウェルズ、スティーヴンソンらが活躍した19世紀後半~末は大衆小説がミステリー・SF・ホラー・ファンタジーなどに分化してくる時代で、この時期にそのジャンルの開祖となる作家が大勢生まれている。ミステリーはドイル、SFはウェルズ、ファンタジーはジョージ・マクドナルドといった具合である。 ところが、そうした個々のジャンルが分化する以前に、それぞれのジャンルのほとんどをエドガー・アラン・ポーが小説化しているのである。これは何度読み

親魏倭王、本を語る その25

【ミス・マープルについて】 アガサ・クリスティーは何人かのシリーズ探偵を持っていたが、メインはやはりエルキュール・ポアロである。その彼に準ずる地位を獲得したといえるのはやはりミス・マープルであろう。 『予告殺人』旧版の田村隆一氏の解説だったと思うが、当時、クリスティーには多くのファンレターが届いていたが、「ポアロをもっと活躍させてほしい」という要望とともに、「ミス・マープルものをもっと書いてくれ」という要望もあったという。 ミス・マープルはクリスティーの祖母がモデルになってい

親魏倭王、本を語る その24

【本格vs.社会派という不自然な対立】 「社会派推理小説」の先駆となった松本清張は、推理小説に社会小説の要素を取り入れたが、『点と線』で時刻表トリックを使っていることからわかる通り、比較的トリックを多用する作家だった。 よく「本格vs社会派」という対立構図を目にするが、これは変な対置のしかたで、本格は推理小説の形式、社会派は推理小説の内容に基づく呼び方だ(と自分は認識している)から、対立関係にはなり得ないと思うのである。松本清張の推理小説(特に『点と線』)を形式で分類するなら