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親魏倭王、本を語る その26

【すべてはポーから始まった?】
コナン・ドイルやH・G・ウェルズ、スティーヴンソンらが活躍した19世紀後半~末は大衆小説がミステリー・SF・ホラー・ファンタジーなどに分化してくる時代で、この時期にそのジャンルの開祖となる作家が大勢生まれている。ミステリーはドイル、SFはウェルズ、ファンタジーはジョージ・マクドナルドといった具合である。
ところが、そうした個々のジャンルが分化する以前に、それぞれのジャンルのほとんどをエドガー・アラン・ポーが小説化しているのである。これは何度読み返しても驚かされることである。ミステリーの父は、SFやファンタジーの父でもあったのだ。

【モーリス・ルブランとフランス史】
『奇巌城』を筆頭に、『棺桶島』や『カリオストロ伯爵夫人』など、ルパンシリーズにはフランスの歴史や伝承がよく取り上げられるが、作者ルブランがフランス史に関心を寄せていた事によるらしい。もともと純文学を志していたルブランは、フランスの歴史や伝承を絡めることで「世紀の大泥棒の一代記」として構想していたルパンシリーズに深みを与えることを思いついたようだ。
読んでみると、ルブランは資料操作が巧みで、内容はフィクションであるにも関わらず、歴史上の人物や事件がうまくシナリオに結びつけられていて、ルパンの実在も含めて事実かと錯覚させられるほどである。

【新書についての雑感】
教養書が好きで、新書は数多く読んできたが、内容が硬く読みごたえがあるのは岩波新書・中公新書・講談社現代新書・ちくま新書で、この辺りは執筆陣も内容も信頼がおける。光文社新書・集英社新書あたりがこれに次ぐ。新潮新書・文春新書は週刊誌連載記事を単行本化したものがあり、内容はピンキリな印象である。
総じて、新書の発刊が比較的早かった出版社ほど内容が硬派で(岩波新書は別格)、新規参入した出版社ほど内容が薄いものが見られるという感じか。中には雑学本のような内容の新書もあって、岩波新書などのイメージから新書=教養書というイメージがある僕には違和感がある。

【日本の「グラン・ギニョール」】
「グラン・ギニョール」はフランス語圏で「残酷劇」を指し、モーリス・ルヴェルやアンドレ・ド・ロルドの作品のように、ゾッとする結末が用意された短編がそう呼ばれる。犯罪小説の側面もあるが、枠にはまりきらない作品も多いようだ。
こうした作品は日本でも意図してか意図せずか書かれていて、探偵小説黎明~揺籃期の作家が多く残している。例えば江戸川乱歩の「白昼夢」「お勢登場」「目羅博士」なんかはグラン・ギニョール的な要素があると思う。他には小酒井不木の「痴人の復讐」「死体蠟燭」や、大下宇陀児の諸作品などはグラン・ギニョールの日本版と言っていいような気もする。

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