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親魏倭王、本を語る その27

【スペイン岬の謎】
『スペイン岬の謎』は、エラリー・クイーンの国名シリーズの掉尾を飾る1冊である。一般に、この後『二ホンかしどりの謎』が書かれているとされるが、これは『境界の扉』というタイトルで刊行されていて、雑誌連載時は“The Japanese Fan Mystery”というタイトルだったと言われているが、どうも誤りらしい。
この『スペイン岬の謎』が国名シリーズで最初に読んだ1冊なのだが、代表作である『オランダ靴の謎』『ギリシア棺の謎』『エジプト十字架の謎』などと比較すると、何となく違和感がある。ロジックは国名シリーズの他の作品に負けていないし、犯人はなぜ被害者の衣服を脱がせたのかという謎の設定もうまい。
それでいて、なぜ違和感があるかというと、他の作品に見られる上品さがないのである。中盤では被害者が強請りを働いていたことがわかり、その強請りの相手が被害者と組んでいたと思われる人物から再び強請られるようになる。このあたりがクイーンらしくない。クイーンも思うところがあったか、登場人物の一人に「小説家で言えばダシール・ハメットのタイプ」と言わせている。 それでもクイーン流の畳みかけるようなロジックは楽しめたのだが、おなじみのクイーン警視が登場しなかったのは少し寂しかった(マクリン判事が代理を務めている)。

【水晶の栓】
『水晶の栓』は『奇巌城』とともに怪盗ルパンシリーズの代表作として挙げられることが多い作品である。僕が初めて読んだルパンが、この『水晶の栓』のジュヴナイル版だった(版元は忘れた)。
物語はルパンがドーブレック代議士のコレクションを盗み出そうとしたことから始まる。この仕事は部下の発案だったが、その部下のボーシュレーとジルベールには単なる盗み以上の思惑があったらしい。ところが、ドーブレックの使用人のレオナールが在宅していたことで大きく計画が狂い、レオナールを殺害してしまったことでボーシュレーとジルベールは逮捕されてしまう。なぜ2人がドーブレック代議士にこだわったのか気になったルパンは、「水晶の栓」にたどり着く。その栓にはフランスを震撼させたある疑獄事件の秘密が隠されているらしい。しかし、ドーブレック代議士はルパンが想像する以上に強敵で、ルパンは実に半年にもわたって翻弄されることになる。
ミステリーとして読むと、疑獄事件の重要な手掛かりの隠し場所が焦点だが、この隠し場所が非常に秀逸で、ポーの「盗まれた手紙」以降に書かれた隠し場所ものの中では最も優れたものだと思っている。
ちなみに、作中の疑獄事件はパナマ運河疑獄事件がモデルといわれる。


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