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親魏倭王、本を語る その25

【ミス・マープルについて】
アガサ・クリスティーは何人かのシリーズ探偵を持っていたが、メインはやはりエルキュール・ポアロである。その彼に準ずる地位を獲得したといえるのはやはりミス・マープルであろう。
『予告殺人』旧版の田村隆一氏の解説だったと思うが、当時、クリスティーには多くのファンレターが届いていたが、「ポアロをもっと活躍させてほしい」という要望とともに、「ミス・マープルものをもっと書いてくれ」という要望もあったという。
ミス・マープルはクリスティーの祖母がモデルになっていると言われ、クリスティー自身はポアロよりミス・マープルのほうに心を寄せていたようである。

【推理小説の2つのパターン】
推理小説を読んでいると、2つのパターンがあることに気づかされる。
ひとつは冒頭で事件が起きているもので、エラリー・クイーンの国名シリーズはこれに当たる。もう一つは殺人事件が発生するまでに長いときは100ページ近くかかるもので、アガサ・クリスティーらの作品によくみられる。前者はアメリカやフランスに多く、後者はイギリスや日本(特に現代の新本格派)に多いので、僕は前者を「アメリカ・フランス型」、後者を「イギリス・日本型」と呼んでいる。
例外的に、ジョン・ディクスン・カーはアメリカ人だが、イギリス在住が長いためか、作風は「イギリス・日本型」である。

【モーリス・ルブランのSF小説】
モーリス・ルブランといえば怪盗ルパンシリーズ以外の作品が話題になることがないのだが、実はSFも書いている。ひとつは『三つの目』で、歴史上の様々なできごとを映し出す目のような物体の出現が、金星人とのファーストコンタクトにつながる。もうひとつは『ノー・マンズ・ランド』で、『驚天動地』という訳題もあったが、突然、陸地化した英仏海峡を巡って争奪戦が繰り広げられるという話。
他に、毛色の違う作品としてはファース色が強い『バルタザールの風変わりな生活』がある。この作品は、保篠龍緒が翻訳時に、勝手に『バーネット探偵社』の続編に変えてしまったことで知られている。

【アガサ・クリスティーとオリエント考古学】
アガサ・クリスティーは最初の夫アーチボルドとの離婚後、傷心をいやすため中東を旅行する。そこで考古学者マックス・マローワンと出会い、再婚するのだが、これを機にオリエント史に関心を持ったようである。
『メソポタミアの殺人』や『ナイルに死す』などで中東を取り上げ、また『アクナーテン』のようなエジプト史に取材した歴史劇を発表するなどしているが、これらは夫マックスの影響もあったと思われる。
クリスティー自身も発掘調査に従事したようで、その経験があってこそ、『メソポタミアの殺人』の発掘現場のリアルな描写ができたのだと思う。


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