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張り込みにはパンと牛乳を

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ベテラン刑事・木下和宏と若手刑事・丸山聖也の2人の現場には、いつも差し入れが届くのだが…
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2022年4月の記事一覧

「張り込みにはパンと牛乳をSecond④」

「張り込みにはパンと牛乳をSecond④」

「和宏のこと、玲子はどう思っている?私はね、今は一緒にいなくてもいいから、お互い好きなことをして、良い経験も苦い思いもたくさんして、歳をとって、お互い時間ができた頃にゆっくり一緒に過ごせたらいいなって思っているの。
きっと、これからお互い知らない間に何かを背負ってしまうと思うし、お互いのその責任のような重荷のようなものが、相手を縛ってしまうこともあるでしょ。
和宏の意志の強さやバランス感覚は、きっ

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「張り込みにはパンと牛乳をSecond ③」

「張り込みにはパンと牛乳をSecond ③」

「おい、何で居るんだ、何しているんだこんなところで!?」

東京駅で降りる人たちの、疲労感と安堵感が広がる車両の中で、息子の『丸山聖也』が緊張感を生み出した。
 

 
一瞬の緊張感によって、静止した世界とも感じられる思考停止の間(はざま)が生み出された。
人はその思考停止の間の中で、膨大な選択肢から何を選ぶべきか判断に迷い、その選択を人に委ねてしまう事がある。この間に言葉を発したり沈黙を破る行動

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「張り込みにはパンと牛乳をSecond②」 

「張り込みにはパンと牛乳をSecond②」 

「お2人に会えで良かったッス!色々と話を聞いでくれで、ありがとうございました!!」

エスカレーターで上がったホームの方から、聞いたことのある仙台訛り若い男性の声がする。

その先には息子の「丸山聖也」と「和さんこと木下和宏」らしき男性が2人、新幹線の車両の中から手を振っている。

「あら〜、このタイミングだったのね。ちょっとまずいから、あなたは向こう側から乗ってくれない。しばらく東京に居るんでし

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「張り込みにはパンと牛乳をSecond①」

「張り込みにはパンと牛乳をSecond①」

「やあ、遅れてしまってすまないね」

待ち合わせの時刻より、少し遅れてあの人は現れた。久しぶりに足を踏み入れたこの土地は、あの人にとっても嫌な思い出ばかりのように思う。それでも、この日にここを訪れることは、私たち2人にとって必要な時間であり、これからもこの鎖のような縁が切れることはないと思う。

「ええ、いいの。あなたが遅れるのはいつもことだから」

再会を喜ぶこともなく、私たちはタクシーに乗って

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「張り込みにはパンと牛乳を⑩」

「張り込みにはパンと牛乳を⑩」

仙台駅午後8時20分東京行きの新幹線車内。

「お、加藤君、一体どうしたんだい?」

ベテラン刑事の和さんが、眉間に皺を寄せ、少しかすれた声でそう言った。

話は数分前に遡る。

新幹線を待つ仙台駅のホームにて、乗車しようと待っていた和さんと私の前に、母・丸山玲子からの差し入れを持って現れた仙台県警所属の加藤小次郎警部補は、巻き添えを喰ったような形で新幹線に乗車してしまった。

「いや〜、丸山警部

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