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「張り込みにはパンと牛乳をSecond②」 



「お2人に会えで良かったッス!色々と話を聞いでくれで、ありがとうございました!!」


エスカレーターで上がったホームの方から、聞いたことのある仙台訛り若い男性の声がする。



その先には息子の「丸山聖也」と「和さんこと木下和宏」らしき男性が2人、新幹線の車両の中から手を振っている。


「あら〜、このタイミングだったのね。ちょっとまずいから、あなたは向こう側から乗ってくれない。しばらく東京に居るんでしょ。また連絡して」


「明後日の夕方の便で帰る予定だが、また連絡するよ。僕は聖也に会っても良いのだが」


「あなたが良くても私は困るの。あなたと一緒にいるところを聖也に知られたりしたら、あの子に父親と距離を置くようにしてきた私の立場がなくなるわ。分かるでしょ?それくらい」


「それはもちろんさ。でも、この機会に君と聖也との関係を良好なものにしたいし、出来れば和宏にも会いたいから」


「だめ。何があったってダメなものはダメよ。和さんとは直接連絡を取り合って、目立たないように会いなさい。分かった?」


「OK、仕方がない。僕は別の車両に乗るよ。では、また、玲子」




私には密かな楽しみがある。

それは「丸山聖也」という刑事の息子と、その上司であり私の大学の同級生であもある「和さんこと木下和宏」の職場に、差し入れのお茶やお菓子を持っていくことだ。そのためには多少無茶なこともしてきたように思う。でも、二人の驚く姿を見てからは、その快感が忘れられなくなってしまった。


それもこれも、張り込みという「いつゴールが訪れるか分からない」状況で感じるストレスや疲労を和らげたいという二人への愛があるからだ。


今回の宮城出張では二人の驚く顔を見ることが出来なかったが、ここ福島にて再度チャンスが回ってきたことに、私は感謝と興奮を抑えることが出来なかった。そして、このチャンスを掴むにはこの人の存在が邪魔であり、自分の存在を消して車両に乗り込むというミッションを達成することが、今の私の最優先すべき目的となった。



車両の二人と仙台県警の「加藤小次郎くん」に気づかれぬよう急いで1両後ろの車両から乗り込み、彼らの乗る車両へと静かに進んで行った。


私が二人の乗る車両に入った瞬間、乗客口のドアは締まり、静かに走り出した。


「どうせなら加藤小次郎くんも驚かせよう」

小悪魔のようなアイディアが脳裏に浮かび、私はわざと彼に見えるように二人の背後に立って手を振った。


案の定、加藤小次郎くんは私に気付き、先程までの感動的な笑顔から一転して慌てた表情へと切り替わっていった。
私は心の中で小さなガッツポーズをくり出し、メインである二人が私の方を振り向くタイミングを作った。


「あら、聖ちゃんも和さんもこの新幹線だったの?仙台で会えなくて残念だったけど、やっと二人に会えて嬉しいわ。差し入れはちゃんと受け取ったの?」


本当は二人の後ろに立つために急いで行動したせいで息が切れていたが、平然を装いサラッと声をかけた。



「ああ、母さん。これは参ったな」
息子の聖也は「またか…」という呆れ顔でこちらを向いた。



「玲子さん、奇遇と言うか、本当によく会いますね。差し入れはさっきいただきましたよ」

和さんもいつも通り冷静に、私の登場を受け入れてくれている。



「そう、それは良かったわ。福島で用事があって立ち寄ったけど、おかげで二人と同じ新幹線に乗れたし、帰り道はこれで役者が揃って楽しい旅になったわね」

私は体の芯から湧き上がる喜びが、足の指の先まで広がるのを感じながら、それを悟られぬように今から始まる至福の時間へと身を投じていった。


和さんに対しては恋愛感情とは違う感情がある。幼い頃に父親と離婚した聖也を、ことあるごとに外の世界に連れ出し、そして今は刑事としても育ててくれている。そのことへの感謝は尽きないし、和さんと「つかさ」「梨奈ちゃん」に出来る事があれば力になりたいと考えている。

そして、私と聖也と和さんの、この3人の関係性がいつまでも続けばいいと願っていた。



二人との会話にも花が咲き、次は大宮というところまで来たとき、車両の前の方にサングラスにハンチング帽のあの人の姿を見つけてしまった。


「もっと前の別な車両に乗ればいいのに、なんで同じ車両に乗るのかしら」

心の中であの人に対する不満が溢れ出る。

しかも、羽を伸ばしたかのようにビールを片手に車両販売の女性に笑顔で話しかけている。


「あ〜、あなたのそういう鼻の下を伸ばしたチャラいところが昔から腹が立っていたのよね。なんでそれを今も私に感じさせるのかしら」

積年の恨みのような感情が沸々と湧き上がる。私の望んでいる関係性と、楽しい時間を汚すあの人の振る舞いに怒りを感じながらも、冷静にいつものようにしようとしたそのとき、息子の聖也があの人の存在に気付いた様子を見せた。



「聖ちゃん、どこに行くの?もうすぐ東京駅だから、座ってなきゃだめよ」

なんとか聖也を止めようとするが、私の静止を振り解き、あの人の側で言葉を発した。



「おい、何で居るんだ、何しているんだこんなところで!?」






つづく

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