お父さんと私の場所
◇◇ショートショート
未来のお父さんは鉄道マニアでした。中でも一番好きなのが坊っちゃん列車です。
城下町松山を走る列車に、子どもたちが羨望の眼差しで手を振ります。未来も小さい頃からこのレトロな列車に乗るのが好きでした。
「未来、坊っちゃん列車は、夏目漱石の小説にも出てくるんじゃけん」がお父さんの口癖でした。
「マッチ箱のような汽車だ、ごろごろと五分ばかり動いたと思ったら、もうおりなければならない言うて、書かれとんぞ」お父さんはいつも自慢気に話してくれました。
未来は列車のガタゴトと言う揺れが大好きでした。その揺れが非日常の空間に運んでくれるような気がしていたのです。
未来はその揺れの中でお父さんに言いました。
「私ね、進路のことで悩んどんよ、やっぱり東京の大学にしようかなと思とるんじゃけど・・・」
「お母さんが悲しむな―、地元におって欲しいんじゃないんかなー」
「ほじゃけど、やりたいことはやりいたいしなー、専門の学部で思いっきり勉強したいけん」
「お前は変わっとらい、誰に似たんかな―」
「そんなん、決まっとらい、お父さんよ、お父さんは何にでもこだわりよったろ」
「ほうじゃな―」
「お父さん、お母さんは行ってもええ言うてくれたんよ、自分がやりたいことをおやり言うて」
「そりゃあそう言わいや、お前の気持ちが一番じゃけんな」
「お父さん、私はいつか松山に帰ってくるけんね、今は夢に向かっていきたいんよ」
「お前の夢はなんぞ」
「私は、考古学の勉強がしたいんよ」
「なんでぞ」
「小学校の時にお父さんと一緒に埋蔵文化センターの考古館に行ったろ、あの時から遺跡や遺構に興味をもったんよ」
「そう言えばお前、遺跡の発掘体験とかよう行きよったなー」
「楽しかったんよー、自分が土器片を見つけた時は、本当にうれしかったんよ」
「お前は忍耐強いわい、誰に似たんかな・・・」
「お父さんよ、こだわったらとことん追求するタイプじゃろお父さんは」
「俺に似たんかなー」
「お父さん、私どうしたらええかな・・・」
「お前の人生じゃ、未来が思うようにやってみいや、父さんはいつでもお前の見方じゃけん、心配するな」
「うん、お父さん、私やっぱり東京の大学に行くわ」
「ほじゃけどいつかは、松山に帰ってこいよ」
そんな会話をしながら未来は列車の外を眺めていました。
「お父さん、今日は坊っちゃん列車に乗ってよかったわい」
「未来、お父さんは5年前に天国に行ったんぞ、この列車は未来と父さんを結ぶタイムトンネルみたいなもんよ、今日は特別に戻ってきたんじゃけん、また悩んだら相談しにこいや」
道後温泉で列車を降りた未来は、坊っちゃん列車に、小さく手を振りました。
「お父さん、ありがとう」
未来は東京に行こうと決めました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《またお父さんと話す機会があるんじゃろね》
「自分が行くことを決めて良かった、お父さんに報告したんよね、未来さんの人生はどんな風になるんじゃろか」
「自分の好きな道に進むんじゃけん、お父さんも喜ぶと思うよ」
「またいつかお父さんと話す時があるんじゃろねー」
母がストーリーに入り込んでくれていて嬉しくなりました。亡くなったお父さんと話せる場所があるのは嬉しいですね。
教え子と戯れる父夏の海
母は父と娘のショートショートストーリーから小学校の教員をしていた父の事を思い出して、コラボ作品を創作しました。
教え子たちに慕われていた父はよく子どもたちと海に出掛けていました。
自分も一緒になって楽しんでいた父の姿を思い出します。
そんな父はいい時代のいい先生だったと思います。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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また明日お会いしましょう。💗