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巨木から生まれた魔法の薬
◇◇ショートショート◇◇
その地方で神木と言われている大きな杉を見に行った帰りに、結衣はふと足を止めた小さな土産物店で不思議な小瓶を見つけました。海外の蚤の市にありそうなクリスタルなガラスの小瓶です。
アンティークなボトルには、琥珀色の液体が入っていました。
ボトルの口には、赤い紙で封がしてあります。
フェルトの大きなつばの帽子を被った風変わりな店主が言いました。
「いいのに目がいったねー、これは樹木のエキスを閉じ込めた秘薬なんだよ、数滴しか入っていないけれど、実はね・・・」
と店主が結衣の耳元で囁きました。
「この一滴で、30年巻き戻す事が出来るんだよ」
「えー、30年巻き戻せるんですか・・・」
結衣も小声になりました。
「そー、あなたが時間を巻き戻したい時にね、一滴たらしてみたらいい、30年だからね・・・」
「えー、面白そー、これいくらですか・・・」
「あなたはラッキーだね、今日は特別にプレゼントしてあげるよ」
結衣はそのボトルがあまりにも素敵だったので、思わず好意に甘える事にしました。
小椋結衣は35歳、独身です。
彼女は一人暮らしで、作家を目指しながら小説を書き、図書館で図書館司書の仕事をしています。
彼女が夢中になって読んでいるのは「巨木の不思議」
樹齢を重ねた樹木の神秘的なパワーについて書いた本です。
結衣が小さい頃に亡くなったお父さんは巨木好きで、あちこちの巨木を探索していました。お母さんから父親の巨木探訪のエピソードを聞かされていた結衣は、巨木に懐かしさを感じ魅せられていたのです。
彼女はお気に入りの「巨木の不思議」の本を開いて樹齢1000年を超える大樹の写真を見ていました。
その時、結衣の耳元で声が聞こえたのです。
「こんにちは、その本は面白いですか」
「はい、私大好きです」
「それは僕が書いた本ですよ、あなたが見てくれていて、とても嬉しいです」
「えー、私の方こそ嬉しいですよ」
それからです、結衣がその本を手に取ると、隣にその男性が現れるようになりました。
彼は70代でグレイヘアが素敵な、髭を蓄えた紳士です。
結衣はさりげなく巨木の知識を教えてくれる男性が、なんて素敵なんだろうと思っていました。
二人が図書館で顔を付き合わせて話している様子は周囲からは親子のように見えていました。
結衣は彼と話しているうちに、その人のことがとても気になり始めました。
そしてある日、決心したのです。
彼をあの一滴で、若返らせようと。
結衣は図書館の前のベンチで巨木の本を広げて楽しそうに話してくれている彼に向かって、小さな小瓶から大切な一滴を振りかけました。
すると、その時何処からともなく吹いてきた微かな風で、その一滴が結衣にかかってしまいました。
すると、結衣はたちまち、幼い少女に変わりました。
「あー、私こんなに小さくなっちゃった、おじさんを若返らせようと思ったのに、どーしよう」
すると、おじさんはニコニコしながら、小さなボトルを手に取って、自分に振りかけたのです。
すると、おじさんは30代の若々しい男性になっていました。
結衣はその姿を見て驚きました。
30年前に亡くなった結衣のお父さんの顔にそっくりでした。
「お父さん、そうだよね、ずっと会いたかったんだ、嬉しい」
「結衣、ありがとう、結衣が図書館で巨木の本を見つけてくれたから、お父さんはお前にまた会うことが出来たんだよ」
そう言うと、お父さんは優しい笑顔で、巨木の本の中にスーッと消えていき、結衣は元の姿に戻りました。
その日から結衣は、図書館で巨木の本を何度も探しましたが、見つけることはできませんでした。
小さなクリスタルのボトルは、琥珀色の液体を残したまま彼女の部屋に飾られています。
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【毎日がバトル:山田家の女たち】
《あんたの年齢ならいろんなことが出来るよ》
※92歳のばあばと娘の会話です。
「私はそのボトルの液が欲しいわい、あったら若返ってやりたいことがいっぱいあるんよ」
「何するん」
「いろんなとこに行って、景色を見て描いたり美味しいもんも食べて、お父さんにも会うんよ、まだまだ楽しい事がいっぱいあってええのにねー」
「ほうじゃねー」
「あんたの年齢なら、いろんなことが出来るんよ」
母から物語の感想が聞けると思っていたら、母はショートショートの中にしっかり入り込んでいたようです。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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また明日お会いしましょう。💗