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planetarian_t
琥珀あんばー
読み慣れた本を再読し 文字を追う行為は
祈りに近い回復の歌
ぼくは顔を上げ 日没に金星をさがす
労働に消耗したからだを引きずり
冒険をつづけるため 通行料を支払う
きのうときょうが地続きでないと感じるとき
めに見えないものと
想像できないほどの遥かな時間を投射する
ぼくは 新月になりたいと思う
見えなくても だれかの支えになりたいと思う
一身に 背中に太陽のひかりを受けて
豊かでありながら 密度の濃い夜を全うする
その姿はまわりからは見えず
ただ夜を成立させ 星が輝くのを支える
ぼくは 琥珀になりたいと思う
四千万年前の樹液が 砂に埋もれ化石になり
バルト海の琥珀ができたという
あるいは虎が死んで 精魂が地に入り石になったという
あにま あにむす 獣に戻る
新月の夜 丘の上 虎が星に向かって吠えている
ぼくの主導権を 少しずつからだにもどすのだ
操縦桿を 脳から引きはがすのだ
生まれながらのあんびばれんすを拒絶する
ぼくは ぼくの神話をつくる
出会う星に呼応して 凝固するほどの生を送る
いつか ぼくのたましいも琥珀になれるだろうか
嵐のあと 太陽のしずくが一滴海から打ち上げられたら
それは きっとぼくの生きた証だ
拾い上げて 透かしてくれ