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エッセイ

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エッセイという日々の気持ち。
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【エッセイ】夏の日に小説を書いていた

 10年ほど前の夏、腕にタオルを巻いて小説を書いていた。  まだパソコンを持っていなかった私の執筆道具は、ノートと鉛筆だった。扇風機を回したとしても、夏の涼を感じることはできないほどの暑さ。まだエアコンが無かった部屋では、扇風機と部屋に入り込む風で暑さをしのぐしかなかった。  保冷剤を握って過ごす日もあった。眠る前に握っていた保冷剤は、朝になるとぬるくなっていて、なんとか眠って夜を過ごせたことに安堵した記憶がある。  当然そんな部屋の中にいれば、じんわりと汗が滲んでくる。

【エッセイ】ふっと一息。

 地面ばかり見ちゃいられんと思うと同時に、顔を上げすぎても疲れると思うことがある。  段々気温が上がってきて、あっという間に夏が近づいてきている気配がする。一カ月もすれば六月の末、ということは夏も間近。  心地よい夜の眠りを妨げる蒸した夜がまだ来ていないことにほっとしつつ、きっとそんな日がすぐに来るのだろうと思うと毎夜々々を噛み締めて眠らなければならない。  少し暑い夜に窓を開けると、冷たい空気が入り込んできて、それが心地よい。エアコンをガンガンに効かせた寒いくらいの部屋

【エッセイ】春を意識する

 大人になると、青空を見る機会は減るのかもしれない。  太陽がちゃんと昇り切る前の朝。まだ淡い白の多く混じった色をした空。意識して顔を上げることもなく車に乗り込み、ハンドルを握る。雨が降っていたら今日は少し気分が上がらないな、なんてことは思っても、わざわざ灰色の空を見上げるようなことはしない。フロントガラスに落ちる水滴とその音で、憂鬱な一日は始まる。  運転免許を取ってから、私の移動手段は車が常になった。徒歩十分の距離にあるスーパーにも車を使う。だって荷物を持って歩くの疲

【エッセイ】愛車に変わった瞬間

 社会人祝いとして父から貰った車は、今年で5年目になる。  走行距離の少ない中古の車ではあったが、おそらく10年ほど落ちている。初めて持つ車はそれくらいで十分だろう。当時の私はそんなこと1ミリを考えていなかったが。  今日、その車に不調を感じて車屋さんを訪れた。先日、ブレーキを踏んだ時に急にブレーキが軽くなって、あまり効いていないように感じたからだ。踏んでも踏んでいる感覚があまりなくて、強く踏み込まないと不安になる。ブレーキが効いていないということは無いのだが、いつか効かな

【エッセイ】Fの箱部屋

 ひな人形が廊下の突き当たりに置かれていて、怖かった記憶があります。  置き場所がなく、私の部屋の近くでもある廊下の突き当たりにひな人形を飾ったのは父でした。別に女の子の成長を祝う日だから私の部屋の近くに置いたわけでは全くなく、ただ、ひな人形を飾ることが出来るのが偶然廊下の突き当たりだっただけにすぎません。  部屋に向かおうと階段を上がって目を向けた瞬間、五体の人形がこちらを見ているというのは、まだ一人で寝るのも怖かった私には刺激が強いものでした。  ひな祭りの意味を知

【エッセイ】仮に8/25がそうだとして。

 気づけば、もうすぐ8月が去ろうとしていることに、慌てて手を伸ばしましたが、結局今年も夏は終わってしまうのです。 ​  青い空に湧き上がる白い雲や、既に明るい午前4時半の空気、風が吹いたときに聞こえる風鈴の音に耳を澄ませ、いつまでも夏を感じていたいと思うのは、毎年毎年、夏が何気なく過ぎてしまうからでしょうか。  今年こそはと思いつつ、体調を崩したり、思うように気持ちが乗らなかったり……。夏を愛おしく思うわりに、実際に夏が来るとそれをうまく満喫できていない気がします。

【エッセイ】しずかに、ねむりにつくように。

  何気ない日常を送ることが、精一杯です。  朝。  目覚ましが鳴る前から空は明るく、自然と目を覚ます。  少し蒸された空気の中、浅めの二度寝に入る。  お弁当を詰め、身支度を整えれば、誰もいない部屋に言葉を落として。  昼。  デスクを整え、開店準備。  見慣れた顔から初めましてまで。  こんにちはと挨拶をして笑顔を向けられれば、それだけで少し心が弾みます。怒鳴られることだってあります、ごく稀ですよ。  夜。  この時期、夕ご飯なんてまともに作れません。  素麺

【エッセイ】例えば、凍える夜空の下を歩いたり。

 突然、生きていくのが辛いなんて思うことがあります。この世界は私が生きていくには難しくて、都合が悪くて、向いていないなんて。  失敗をしたとき、人を傷つけてしまったとき、悪意に触れたとき。  言いたいことも口に出せず、かと言って言葉にすればそれで誰かが傷つき。何も言えないまま私の心の底で黒く固まって、心を埋めてしまいます。それを排除しようとすれば、かさぶたを剥がす時と同じように血が滲んで、じくじくと痛みます。その繰り返し、黒いそれは私から出て行きません。  ずっと、抱え

【エッセイ】彼が私を呼んでいるのかしら

自分が死んでしまう夢を何度か見たことがあります。 けれど、いつも死ぬ直前で目を覚ましてしまうものだから、 本当に死んでしまったことはありません。 そんな夢を見た後の胸の高鳴りは特別で、 恋をした時とも、驚いた時とも、怖かった時とも、 どんな時とも似ても似つかないものに支配されました。 大きく鼓動すればいいのに、 痛みを伴えばいいのに、 そうすれば感じたそれを何かに例えることができたのに。 私は、感じたものを誰かに伝えることができず、 ずっと、そうずっと。 違和感のよう

【エッセイ】お墓には来てくださいね

風邪をこじらせて肺炎になるように、 私もそれをこじらせてしまったのです。 軽症だったそれは、今や重症。 入院したところで治るものではない。 治癒かお悔やみ、貴方に待つのはその2つのみ。 ご愁傷さまです。 そんなことを告げられた日には、症状はより悪化したように思います。 朝は心地よく目覚め、昼は活発に動き、夜は快眠。 健康的な生活を送っている頃は中等症。 むしろ患っている方がいいと言われるような状態。 それがずっと続けばよかったのですが、それは私の体を蝕んでいきました。

【エッセイ】20%だけ残っている記憶

 忘れたわけではありません。きっと元からそんなもの無かったんだと思います。きっとそうです。  誰しも覚えていない記憶があります。昨日の晩御飯も思い出せないことがあるのですから。  あの時きみが言った言葉だとか、別れ際にした彼の表情だとか、旅先で出会った団子屋の彼女だとか。  幼いころの記憶なんて、もう欠片も思い出せません。  それはまるで夢のように、徐々に徐々に薄れていくものなのですから。記憶なんてそういうもの。  だから、私がそれを忘れてしまったとしても、何の問題もな

【エッセイ】あっ、つぶしちゃった。

「続いてのニュースです。先日専門家によって公表された世界滅亡について、新たな情報が入ってきました」────。  世界滅亡のニュースって、 「世界が滅亡します」  なのか、 「世界が滅亡しました」  なのか、どちらが報道されるのかなあ、なんてことを考えています。  世界が滅亡したのにどうして滅亡のニュースが流れるのかな、と考えたときに、もしかしたら別の世界線が滅亡しましたっていうニュースなら納得できるなあ、なんて思いました。  いわゆる並行世界。存在するのかしないのか分か

【エッセイ】好きな歌があります

 誰しもがきっと心のうちに抱いている想いを、その歌は唄っていました。  悲しくはありません、ただ、少しだけ、ほんの少しだけ。  今日もどこかで心臓が脈を打ち始め、どこかのだれかの心臓が止まっています。いつか私にもそんな日が来るのかと思うよりも先に、隣に座るだれかが止まってしまうことが怖くて、涙を流す日が多くあります。  だれかのお葬式に行ったことがあります。  棺で眠るその人は真っ白で、ただのそれになっているだけでした。人が花を詰め、肌に触れて涙を流しているのを見ている中

【エッセイ】もう月が綺麗ですよ

 1月の月は「地球から最も遠い月」と言われていますが、  それに向かって「綺麗だね」と言えば、私の思いは最大限届かずに済むのでしょうか。  満月の夜は月を眺めているのですが、今夜はどんよりと、しかしほんのり明るい雲が空を覆っているため、それを見ることはできません。雪が降る前の空気は肌を刺すようで、長く居れば温まった体も芯から冷えてしまいます。じわじわと温もりを奪われる感覚は、ただ単に寒さで凍えているよりも、心地よいと感じてしまいます。  冬の夜空は高いことを記憶しています