2022年に読んでグッときた本12冊
大晦日の朝にふと思い立ち、ツラツラと書いてみる。まちづくりの仕事に携わる会社員が、育休も相まって移行期間っぽかった2022年一年で読んだ本の中から、まちづくり・ビジネス・思想・社会学の4ジャンルから3冊ずつ。
◆まちづくり系
1.ネイバーフッドデザイン
まちづくりの仕事に携わる身として思わず唸った一冊。
まちにおけるコミュニティの在り方をどうデザインするかと言う言語化しづらい領域を構造化しているのがスゴイ。しかも複数の地域で取り組んだ経験がベースになっていて地に足がついてる。全国で取り組んでいる人は多かれど、複数地域の経験と言語化体系化できる能力を併せ持つのは稀有だなーと思う。
“開く”ではなく“閉じない”──、そう言い表せそうな姿勢がステキな一冊。
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) May 30, 2022
①未来とゴールを据え、②機会,主体性,場所,見識をデザインし、③持続的な仕組みに整える。フワッしがちなこの領域に輪郭を与える言葉を、実践から紡ぎ出していてスゴイ。#ネイバーフッドデザインhttps://t.co/cVrXuLCeNZ
2.政治学者、PTA会長になる
まちづくりにかかわる重要な存在でもある商店街や町会について知ろうと簡単に一冊ずつ読んでたのだけど、その流れでPTAもと思って手を出した一冊。商店街より町会よりも、さらに「普通」な人々のやり取りがそこにはあり、また学校の構造的なむずかしさを知る。
読了。PTAの実態を垣間見る以上に、「価値観の異なる人が見てる景色を、いかに想像して、歩み寄り、前に進めるか」という鍛錬の記録だった。まちづくりの本質そのもの。心を揺さぶられた。
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) July 17, 2022
政治学者、PTA会長になる https://t.co/IxsRSSXeFS
3.スマート・イナフ・シティ
読書家の上司がオススメした1冊。ちょうど「まちづくり×テクノロジー」が役割を果たすべき領域について考えていた時期だったので、なにか喝を入れてもらった気分。考えるべきセンターピンはそこじゃねぇ!と。
めちゃ良本。スマートシティは都市課題を技術的な問題だと矮小化して、社会的や政治的論点を隠してしまうと。自動運転や市民参加アプリや予測警備、はたまたコルビュジエまで喝破する。逆に言えば都市はそれほどに複雑で、魔法の杖は存在しないと。#スマート・イナフ・シティhttps://t.co/v57LCPkx5q
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) October 11, 2022
◆ビジネス系
4.エンジニアリング組織論への招待
友人のオススメで手を伸ばした一冊。平たく言うとアジャイル開発なんぞという本でmixiの新卒一期生アーキテクトから執行役員まで進んだ著者だけど、エンジニアリング一辺倒ではなく幅広い知の体系から組織論としてまとめ上げられてる。ビジネスサイドの人間こそ読むべきと感じた。
超良本。エンジニアリング=不確実性の削減と定義。個人→1対1→チーム→組織の順に不確実性との向き合い方を記している。結果としてアジャイルがなんたるかが分かるが、技術論というよりマネジメント論に近い。著者の知の広さがスゴイ。
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) October 23, 2022
エンジニアリング組織論への招待 https://t.co/0PEToYK5Ir
5.発想法
三鷹の本屋UNITEで古本としてリーズナブルな値段で置いてあり、前々からKJ法の名前だけは聞いてたのでどんなものかと思って手を出したら面白くてあっという間に読んだ。
複雑なこの世界のものごとを理論から演繹的に分析するのではなく、その複雑なまま受け止めて統合していく姿勢が好き。著者は野外科学と名づけているけど、文化人類学のフィールドワークや参与観察が現在改めて注目されているのを考えると50年以上前から先取ってたんだなーと。
さすが50年以上読み継がれている納得の内容。KJ法をもとより、野外科学と称したありのままの自然を観察するスタイルから派生した流れがすごい。それらをまとめて「外のものを虚心に受け入れて徹底した受け身の精神」「無の哲学」というスタンスにとても共感。 #発想法https://t.co/p8ua54QF8d
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) December 31, 2022
6.THINK AGAIN
話題になってた本(?)ということで手を出した。とても実用的だけど即物的すぎず、「謙虚たれ」という中心メッセージとともに、色々な場面で想起されるようなtipsを提供してくれる。
一言で言うと「謙虚たれ」だけど、それをちゃんと要素分解していてとても実用的。
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) July 4, 2022
自分に懐疑的であるために意見とアイデンティティは切り離す。「なぜ」を議論すると対立するから「どのように」を議論する。謙虚さを示して聞く気にさせ、相手に決めさせる、等。#THINKAGAIN https://t.co/MFo1I8MJsG
◆思想系
7.思いがけず利他
複数人から勧められて読んだ。利他というぼんやり捉えていた言葉に力強い輪郭を与えてくれた一冊。
利他的になるためには器のような存在になることが必要、利他は与えたときに発生するのではなく受け取られたとき、だから受け取られる未来を想って今を精一杯生きよう──、そんなメッセージを受け取り、人生観を強く揺さぶられた。
#思いがけず利他 と #THINKAGAIN をたまたま続けて読んで、領域は全然違うんだけど、「自分の限界に自覚的であること」の重要性をそれぞれ全然違う角度から切り込んでいて、かなり胸の奥深くに刻まれた。謙虚に、謙虚に。https://t.co/CN7rBUiiks
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) July 4, 2022
8.暇と退屈の倫理学
文庫化されたのを西荻窪のBREW BOOKSで見かけて思わず手を取った。退屈を3つの段階に構造化して、その原因を示すとともにどう在るべきかを論じた一冊。たどり着く境地としてアーツアンドクラフツ運動や民藝に言及するのも面白かった。
十数年前から「限りある人生で何を為すか…!」というある種の強迫観念を抱いていた自分に対して、落ち着けと声をかけてもらったような読後感。
定住生活に移行して能力を持て余したことに起因する、本能的な退屈の呪縛。仕事・ミッションなどに打ち込むことで呪縛を振り払っても、それは思考停止に近い。むしろ退屈を受け入れつつ、生活そのものを味わい尽くす=人間であることを楽しむことが大事。#暇と退屈の倫理学 https://t.co/8l3g9oDLYA
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) April 26, 2022
9.なめらかな社会とその敵
8年前に一度読んでいたけど友人に貸したままになっていて、これまた三鷹UNITEで文庫化されていたのが目に留まり再度お迎え。
300年先を見据えた新たな社会構造を提案している本で、その中でも「分人民主主義」の考え方は好きだった。完璧な個人ではなく矛盾する複数の分人を抱える個人を前提とした民主主義。あと本論の趣旨とはずれるけど、以下のくだりがめっちゃグッと来た。
オートポイエーシスは、生命が結局のところ自己維持するネットワークに過ぎないと言っており、無限退行の問題を、生命は自分自身を維持するシステム以上でも以下でもないと言う自己言及性によって、目的と手段が一致してそれ以上さかのぼれないところを明らかにする。これによって自分が生きていることの意味が、生きていることの外部にあるのではないかと言う蒙昧な探求の旅から抜け出ることができるようになる。こうして生きていること自体が無根拠であり無意味であることを知り、かといってニヒリズムに陥らず、生きていることそのものに意味があり謳歌しても良いのだということを教えてくれる。
文庫版にて再読。単行本で読んだのが8〜9年前。そこから多少なりの見識を身につけてようやく書いてる内容が を少し理解できるように。
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) December 20, 2022
しかし増補されて章でも指摘があるが、この8〜9年で世界はなめらかどころか分断が進んだと実感。難しいなぁ…https://t.co/dZuMONfkpH
◆社会学系
10.チョンキンマンションのボスは知っている
年初から聞き始めたコクヨ野外学習センターというポッドキャストの影響で文化人類学に興味を持ち、ゲスト出演されていた小川先生の話題の本に手を出す。
香港を拠点にするタンザニア商人たちが、あくまで商売前提にして無理しないついでの範囲でお互い助け合う振る舞いを研究した一冊。個人的にはそこに現代社会へのアンチテーゼを見た思い。シェアリング経済との比較も面白い。
開かれた互酬性。
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) January 31, 2022
誰も信じないから他者の事情に踏み込まず、商売が前提だからこそ信じる。貸し借りは問わず、「負い目」を感じさせぬようついでの範囲で助け合う──、一見ドライだが流動性の高い社会だからこそ機能する温かさがある。スゴイ。#チョンキンマンションhttps://t.co/uZhTuYyqwT
11.信頼の構造
チョンキンマンションを読んで不確実性を前提にするスタンスに触れてふと思い出し、久々に引っ張り出して読み直した本。
不確実性の高い世の中で、1信頼に値する公正な人間性を身につける、2他社の人間性を信じる、3他者の信頼性を見極める社会的知性を身につけるという3点セットの提言は24年経った今も色褪せない。
"安心"と"信頼"の区別。
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) April 5, 2022
規範や秩序で不確実性を抑え込み縄張りをつくる前者に対し、個々人が判断できる知性を下敷きに不確実性を受け入れながら壁をつくらない後者。24年前の本で久々に読み直したけど、現代においてより一層重要となる指摘だなー。#信頼の構造 https://t.co/fhrtxv7X2B
12.エネルギーをめぐる旅
前述の読書家の上司が2021年に読んだ100冊以上の中でNo.1と言ってたので年始に思わず買った一冊だったけど大興奮。
興奮っぷりとその内容は下記ツイートのツリーに譲るとして、一番グッときたのは人類の文明自体をエントロピー増大の法則になぞらえて「散逸構造」と捉えたところ。上で紹介した「エンジニアリング組織論への招待」や「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著)など、今年は色々な角度からエントロピー増大の法則に触れた。
良本すぎた…
— Yosuke Isobe (@DJ_saza) February 12, 2022
エントロピー増大の法則の下、文明社会を「散逸構造」だとして、その構造的限界を指摘。そして資本主義社会が絡みつき、克服が難しい。
著者の知の幅が広すぎる。 #COTENRADIO の番外編とかでゲスト対談してほしい。#エネルギーをめぐる旅https://t.co/xC2s8b3NyV
以上、12冊の紹介。振り返るとやっぱり少し偏ってるから、2023年はもう少し未知の領域も手を出してみよう。