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# 1

 ある土曜日の朝、私が目を覚ますと、あたりは付箋だらけになっていた。

 寝ぼけ眼で、白い天井にあるピンク色の細長い長方形を見つけた。枕もとに置いてある眼鏡をかけると、それが仕事でよく使う付箋で、きれいな字で #天井 と書かれているのがわかった。先週末泊まりに来た彼のしわざかと思ったけれど違った。枕に #枕 と書かれた黄色い付箋が、かけ布団に #かけ布団 と書かれた緑色の付箋がそれぞれついていた。
 私は #ベッド に寝転んだままの体勢で身構えた。眠っている隙に誰かが侵入し、付箋を貼りつけている。その誰かはまだこの #部屋 にいるのかもしれない。そう思うとぞっとした。眠る前に見ていた #スマートフォン を探り当て、握りしめる。電源が入らない。
 意を決して起き上がり、 #部屋 のなかを確かめる。 #ウォークインクローゼット#ベッド の下、 #ベランダ#トイレ#お風呂 。誰もいない。そうしている間にも、 #エアコン に、 #扉 に、 #冷蔵庫 に、 #流し台 に、 #便座#湯船 にも付箋がついているのを見つけた。 #玄関#鍵 はかかっている。
#玄関#ドア を開けると、むっとする熱気が入りこんできた。次の瞬間、私は理解した。 #アパート#廊下#手すり の向こうに、夏色をした #空 と浮かぶ #入道雲 、それぞれに巨大な付箋が貼りつけられているのが見える。
 おかしな誰かがいるんじゃない、おかしいのは私だったんだ。そう思ったら妙に安心した。
#自転車 を漕ぐ近所の #男の子#自動販売機 の上の日陰で涼む #猫 。ふと見ると、二つ隣の部屋の #おばさん が不審げな眼差しをこちらに向けていた。私は自分が #寝間着 姿だったことを思い出し、慌てて #部屋 に戻った。
#洗面台 の上の #鏡 を覗きこむと、 #おでこ#私 と書かれた付箋が貼られていた。

 きっと疲れているんだろう。もしくは昨日飲みすぎたせいで、まだ酔っ払っているのかもしれない。酔っ払って付箋の幻が見えるのもおかしな話かもしれないけれど、なんでもストレスが原因で片づく現代だ。そういうこともあるかもしれない。
 そう思って #ベッド に横になった。 #まぶた を閉じる。けれど眠くないので、すぐに目を開ける。ごろんと仰向けに寝転がると、 #天井 以外にも付箋が大量に増えていた。 #私 はぎょっとしながら、反射的に書かれている言葉を確かめる。
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2へ続きます

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