Y.田中 崖
裏話、製作秘話、影響を受けた作品、ボケ、ツッコミ、まったく関係ない日常その他、あとがきばかりを集めたマガジンです。投げ銭制です。
同僚が解体されていた。
私は宇宙になってしまった、 / 彼女は宇宙になってしまった。
点滅する赤信号の下、標識には青い文字で「流町」と書かれている。
振り返ると大量の葉っぱが落ちている 私はそれらを束ねて一冊に綴じる
残暑お見舞い申し上げます はじめましての方もお久しぶりの方もこんばんは。九月も後半なのに暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。 久しぶりすぎて書き方を忘れました。というか大分UIが変わっていて私の知ってるnoteじゃない……みたいな気持ちです。(追記:書き終えて、相変わらず使いにくくて安心しました。) ともあれ、告知でございます。 「散策」を意味する「プロムナード」という文芸誌のvol.3に参加させていただきました。主催はloiolさん。 私は夏の夜の散
ご無沙汰しております。初めましての方はこんばんは。Y.田中 崖です。 久しぶりの更新にも関わらずアレですが、お知らせです。 このたび、人格OverDriveさんにて『部屋 - Rooms』を連載させていただくことになりました。1/21に開始し、絶賛連載中です。 内容は様々な部屋にまつわる/部屋を舞台とした連作千字短編です。連載といっても今のところ続き物ではありません。礼儀正しく玄関から入らなくても大丈夫。好きな部屋、気になる部屋から覗いてみてください。どの部屋もだい
1月くらいにPDF版を購入し一気読みした。なにこれすごい! って大興奮してぐわーって感想を書いてからふと気づいた。 これ、ネタバレしちゃダメなやつじゃん。 え、いつまで? 連載終わるまで? というわけで連載終わったこのタイミングでの投下となりました。くどいですがネタバレ含む感想です。本作はネタバレしないほうが絶対に楽しいので(少なくとも私は事前情報なしでむちゃくちゃ楽しかったので)、必ず作品を読んでからご覧ください。 続きはこちら↓ http://rainydes
「ちょっとこれ見てよ」 渡された通販の冊子。本が特集されているらしく、いくつもの表紙が並んでいる。 「ここ。『半飼いの少年』ってなに? こんな誤字する?」 「手書き原稿をスキャンして自動変換してるんじゃない? 校正するようなものでもないし」 言いながら私は半飼いの少年について考え始めている。 * 半飼いの少年の朝は早い。まだ暗いうちから目を覚まして着替えると、まっすぐ半小屋へ向かう。半たちはもう起きていて、少年を見つめてふーと鳴いたりぶるぶるっと体を震わせたりする。
(1はこちら) 基本的に相手の目を見て話さない。できないわけじゃない、たぶん、癖みたいなものだ。意識の底のほうで、話し相手なんて誰だっていいと考えている。そのせいで汲み取れなかった気持ちや、触れられなかった機微があったかもしれない。しかしそれは自分にとって、宇宙の果てで星が消えたことと同義だった。知り得ないものはどうしたって知り得ない。むかし誰かに言われた通り、俺は端から諦めている。知り得ないものを知り得たかもしれないと思って知ろうとすることに、価値を見出だせない。 *
おい、そこのあんた。やけにさっきからこっちをじろじろ見てるな。俺の顔に何かついてるか? それとも……もしかしてあんた、俺の顔が見えないのかい。 * 二つの腕に抱えられた湾の、岸にある小さな町だった。俺は町で唯一の安ホテルにチェックインした。201号室。 見知らぬ土地では最低でも二泊すると決めている。着いて一泊、翌日ぐるっと巡って二泊。はっきりとした目的もなく流れているが、少なくとも流れることが目的じゃない。 小窓越しに、フロントの無愛想なおっさんに鍵を預ける。外
研究所は黒猫に飲みこまれた。 爆発は光も音もなく発生した。 1秒後、発生源である被検体07のカプセルは砕け散り、17号研究室は大量の黒猫で満たされた。次から次へと無から猫が生じては圧死し、肉塊へと変わりながら膨張。 2秒後には17号室がすっぽりと猫爆に包みこまれ、爆風が発生し建物を破壊。この時点で研究員百人が死亡、被検体三百体が活動停止。 3秒後、研究所が崩壊しキノコ雲が立ち上った。それは目のない黒猫の形をしていた。 5秒後、肉塊の内部で爆縮による融合。 8秒
4.再会 不意にからだが何かに捕まった。追っ手かと思いきやそうではない。右手でできた尾鰭を、死んだ彼の右手が握り締めていた。掌が温かい、と感じる、それは本当に温度? 「危なかったな。ついさっき同期が終わった」 影のように黒い顔で、唯一見える唇の両端が持ち上がる。笑っているらしい。 振り返ると、波のなかに雑音混じりの小さな画面が揺らいでいた。画面から青い線が一本ぎざぎざと折れ曲がりながら飛び出して、私の手でできた尾鰭、そのひとさし指に繋がっている。画面内には独房のような部
「乙姫はどうして浦島太郎に玉手箱を渡したのかしら」 少女が言う。肩にかかるくらいの髪、滑らかな曲線を描く体、細く伸びた手指、先の丸い靴。それらすべてが白く、皮膚と衣服の境界がわからない。赤く光る瞳をこちらに向けて、彼女は微笑む。 「ねえ、幽霊さん」 窓の外をごつごつした建築群が右から左に流れていく。列車は、街を縫う透明な管のなかを滑るように進んでいく。 彼女によると、いま乗っている列車は住宅街から学園への連絡線で、私はこの車輌に毎日出現する幽霊らしい。両側の長い座席に並
3.破壊 彼の部屋は、私の住む部屋よりさらに家賃の安い、半壊集合住宅の一室だった。なかは驚くほど物がなかった。身辺整理したからね、と彼はおどけて言った。 「これを」 手渡されたのは小型の切断機だった。かちかちかちと収納されていた薄い刃を出し、構えて、いろいろな角度から眺める。頸部や腹部に何度も刺せば致命傷を与えられるかもしれないが、だいぶ痛そうだ。そういう趣味なのだろうか? 「これで殺すの?」と確認すると、「いや、まだだから、早まらないで」と珍しく慌てだした。 「まず僕が
2.依頼/変身 「ここだけの話だけど」と彼は切り出した。「指、拡張したんだ」 その言葉は種となって私の土に埋めこまれた。 「拡張?」 彼が頷き、蒸留油を舐める。透明な油飲みのなかで冷却岩がからんと音を立てた。 区画の外れにある安い油屋の店内。煮え油と端子の焼ける匂い、客たちのがちゃがちゃ喋る声が充満し、時折笑い声が大音量で発せられる。「電気泥棒ぅ?」と一際大きな声が響いて思わず視線をやると、三つほど向こうの卓に明らかに改造された三機体が座っていた。慌てて目をそらす。この
1.逃走 同僚が解体されていた。 流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経網はおにぎりの管布みたいだ。私たちは管布おにぎりの集合体。さしずめ金属繊維は合飯で、皮殻はのりかな。そんなことを考えながら、跳ね上がった負荷が落ち着くのを待つ。 全身に疎らについた感覚機を剥がしていく。脊髄は一世代前。視神経は中の下。免疫機構は安物だが移植先はあるかもしれない。私たちの稼ぎなら性能はこんなものだろう
同僚が解体されていた。 流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経網はおにぎりの管布みたいだ。私たちは管布おにぎりの集合体。さしずめ金属繊維は合飯で、皮殻はのりかな。そんなことを考えながら、跳ね上がった負荷が落ち着くのを待つ。 全身に疎らについた感覚機を剥がしていく。脊髄は一世代前。視神経は中の下。免疫機構は安物だが移植先はあるかもしれない。私たちの稼ぎなら性能はこんなものだろう。ただ一点
小説を書かねばならぬ、と私は独りごちた。 「別に小説じゃなくてもいいんじゃない?」と彼女は言った。 * 机を見繕いに行った。 兎にも角にもまずは机である。机あれ、と神は宣い机を作りたもうた。机がなければメモをとることはおろか、本を置いて読むことも、肘をつくこともできはしない。いわんや小説を書くことをや。何をするにしろ、まずは机である。 家具屋には山のような机が並んでいた。大きい机、小さい机、だだっ広い机、こぢんまりとした机、格好いい机、かわいらしい机、柔らかい机、
* こちらは『伯父の葬式』のあとがきです。購入いただいた方のみ閲覧可能となっております。二つ以上ご購入いただく場合はマガジンの購入がおすすめです。
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