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天ノ川

鴨長明「方丈記」蜂飼耳訳 光文社古典新訳文庫


今日は方丈記について書こう。そう思っていました。

ところが。

ブックオフを散策していたところ、気まぐれで手に取った本がちょうど読み終わり、
そちらの方をメインで紹介することにしました。

ジュゼッペ・トルナトーレ「ある天文学者の恋文」中村浩子訳 小学館文庫


天文学者エドと大学生エイミーの年の差恋愛物語。
というのが冒頭の印象でしたが、
展開が非常に速く、
ミステリアスで、
つねに理解の先回りをする物語に、
最後まで一息に持っていかれてしましました。

作者のジュゼッペ・トルナトーレはイタリアの映画監督。
調べてみたら、
「ニュー・シネマ・パラダイス」、
「教授と呼ばれた男」、
など映画を全然知らない僕でも、
名前を知っている作品がありました。

この小説も、監督が撮った原作の映画があります。
小説を読んで、映画の方も見てみたいと興味がわきました。
というのも、物語ではiPhoneやPCやDVDといった、
メディアを通じたエイミーとエドのやり取りがよく出てきます。
これが、映画向けの仕掛けだなー、と思ったからです。
映画原作なので当然ですが。きっと実際に読んだ人なら分かってくれるはず。


小説を読んでいて一番びっくりしたのが、
この描写でした。

場所も物も、ずっと同じではいられない。たえず変化し、人とともに気を変えて変わり続ける。
(169ページ)

そう、僕ははじめ、方丈記の話をしようと思っていたのでした。
冒頭はこうです。

ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、
かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世中にある人と栖(すみか)と、又かくのごとし。
(81ページ)

方丈記は災害文学ともいわれます。
鴨長明が見た時代の火災や台風、
そして地震についての記述があります。

又同じころかとよ、おびただしく大地震ふること侍りき。
そのさま、世の常ならず。
(中略)
はねなければ、そらをもとぶべからず。龍ならばや雲にも乗らむ。
おそれのなかにおそるべかりけるは、只地震なりけりとこそ覚え侍りしか。
(90~91ページ)


広大な草原は、星が輝き、息づく宇宙とは対照的だ。
地上には、心臓があり、体液が流れるように、不完全な厳しい世界がある。
天上には、数学から導き出された純粋なかたちや軌道があらわれる。
(155ページ)

こちらは、ある天文学者の恋文。

この幸せが、ずっと続けばいいのにと願うこと。
変わらないものはないと、悟ること。
悟ったつもりでも、あきらめきれないこと。

天文学者エドも、
生命の儚さを思いながら、
地上の川を眺めたことがあった。

そして鴨長明も、
やりきれない気持ちを抱え、
思わず天を仰いだことがある。

そこにきらめく何かがあるということ。

それこそが人生だと、
空を見上げ、僕は祈ります。

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