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迷いなきボドゲ開発を再生産するために

今年は初めてアドベントカレンダーを買ってみた。KALDIのお手頃なやつを。全マス確定でチョコレートで形がランダム。クリスマスに向けて一日一日を刻んでいくと、なぜだかワクワクを掻き立てられる。

本稿はBoard Game Design Advent Calendar 2024に参加している。今年最後の13日の金曜日。

"1日1つ、毎日開くこと"という制約に従ってクリスマスという報酬を目指す体験?

今年は一年を通して『姫さまの言うとおり!』というボードゲームを作った。ゲームマーケット2024秋に発売して、年末のコミケにも出店予定。

ボードゲームを作るのはこれで4つ目。少しは手順を、つまり型を作ることで体系化して理解したい。そんな思いを記事にする。


型とは、守破離の守である

”型破り”は型がなければ出鱈目でしかなくて。己の中に明確に型を定義できないと明後日の方向に飛ぶだけということ。

様々なものを読んだ結果「ゲームメーカーズの記事に帰結するなぁ」と思った。

結論があれば至る過程は無意味か?そんなことはない。結論に納得するために紙幅を割くことは意義がある。

上記連載2回目、『ゲームの着想7つ道具』では着想の仕方が言語化されている。その1番目にある言葉、作り始めはやはりこれである。

好きなゲームのルールやモチーフをアレンジする

ゲームで遊んでいるとき、「ここをこう変えたら、もっと面白くなりそう。もっと自分好みになりそう」と思えたらチャンスです!

アークライト 野澤 邦仁のボードゲームを作るには Vol.02「ゲームの着想7つ道具」

例として、『姫さまの言うとおり!』はいくつかの作品から着想を得ている。
初めの目的は”絵を見せたい!”。そこで意図したのは↓の2作。

どちらも素敵な美少女を巡ってプレイヤーが争うゲームで、大層楽しませてもらっている。

作りたかった体感は「プレイヤーが論理的でなく少女を選ぶこと」。ゲーム中にプレイヤーが少女を選択することにおいてこの2作が原型となっている。

ゲーム中は必ず美少女が目に入る。これが大事

ビジュアルの参考とは別に「こんな遊びを作りたい」憧れがあった。

『SCOUT』は短いスパンで回るゲームで累積するスコアで競うジリジリとした体感に、『ニムト』は全プレイヤーが一斉にカードを出すだけで破茶滅茶に盤面が動く体感に、憧れた。これを膨らませるという型に嵌めて開発を進めた。

意図するゲームがわかればやることは単純で。それらのゲームを実際に手元で遊ぶ。そしてレビューや評判を調べる。
ボドゲーマのサイトは普段からゲームを買うか否かの判断に大いに貢献してくれるが調査においても役にたつ。例えばニムトのページ。

まずは前述の通りレビューが参考になる。レビュアーは中々に辛辣で、その意図を考えることは自身のゲームが「どのユーザの期待に応えて」「どのユーザの期待に応えないか」を考えることと同じである。

また、「統計分析」のタブも良い。容易に類似作品にリーチできる。
まだ足りない。さらに深掘りが必要である。BoardGameGeek(いわゆるBGG)を覗く。

BGGは”Mechanism”が明示されているのが良い。同様のメカニズムを持つゲームで何が人気かを上位からずら〜〜っと一覧できる。調査対象のゲームが思いもよらないメカニズムで定義されていることがわかるのも視野を広げてくれる。ニムトってHand Management(手札管理)、Score-and-Reset Game(スコアを記録して再度遊ぶ)、Simultaneous Action Selection (同時アクション選択)の要素に分解されるんですね。

ちなみにBGGで扱われるメカニズムはゲームメカニクス大全と共通する要素が多い。画像が一緒だし。この本を読んでおくことはボードゲームを体系的に認識する上でスタートラインに立つことができる。

また…、ボードゲームカフェやヨドバシカメラのボードゲーム売り場など、今まで見たことのないボードゲームに偶発的に触れられる場所に行くのも良い刺激になる。結果的に『姫さまの言うとおり!』はここで出会ったゲームに近しい点数計算システムを持っている。

一斉に出したリソースで相場を操作する。リソースが株のように機能して最終的な得点になるこれは程よくコントロールが難しい。プレイヤーの集まりやその日の気分で変わる体感はこの挙動がもたらしたと言っていい。

この〆方だと、型に嵌っている話にならないですかね?
いえいえ、まずは型に嵌まらないと破ることもできないと言う話。

言われたら即座に答えたい"問い"

世の中にやり方を教えてくれる文章は数あれど、多くは「毎日走りなさい」「デザインの本を比較できるくらいに読みなさい」のように心を折りにくる。もう少し、すぐに実践できるアドバイスが聞きたい。

そこで「が、」と書きたくなったらマルを打て、と教えられた

筑摩書房『今すぐ書け、の文章法』p.126より

このくらい端的なアドバイスが明日からでも使えるアドバイス。作る中で何度も思い出して進む道を補正した3つの問い。

「プレイヤーにどうなって欲しいの?」

本質を問う一言。今回のプロセスはここから発想をスタートしなかった。そのため"最も大事"で”最も難しい”問い。

この問への答えは開発、インスト、宣伝、全てに影響する。
ここで捻り出した答えが何らかの「面白い」でなければ広く買われる理由に欠けることは、想像に難くない。

ちなみに『姫様の言うとおり!』では「プレイヤーに姫さまを好きになって欲しい」と思いを込めた。これがゲームに明確に影響した点は3つあって。

  • 盤上には必ず姫カードがある

  • プレイヤーは自分の意志で姫さまを選ぶ

  • 直接姫さまを害するインタラクションが無い

このゲームをプレイした

「一言で表すと?」

映画脚本における"ログライン"と呼ばれるものとほぼ同義。

「どんな映画なの?」の質問に、もしも、一行ですばやく、簡潔に、独創的に応えられたら、相手は必ず興味を持つ。

フィルムアート社『SAVE THE CATの法則』p.24

この一行は、ハリウッドでログラインと呼ばれている。

フィルムアート社『SAVE THE CATの法則』p.26

これが言えないゲームはそもそもルール説明が難しいし、説明書が難しい。作者が整理できてないモノをプレイヤーが端的に理解できるはずもないのだ。

『姫さまの言うとおり!』では正直最後までできてなかった気がしている。
ブースカットでは↓のように表現はしたものの、ゲームマーケット当日は通りが良かったので「トランプのBJみたいなゲームです」という宣伝口上を使っていた。

「もっといい言葉があったのではないか」と思い悩む日々

簡潔で独創的な紹介ができるだろうか?
それができるゲームはわかりやすく独創的なゲームになるはずだ。

「盛り上がるタイミングは?」

いわゆる"ピークポイント"。面白いゲームはこれを複数持っていて緩急つけてこれを何度も提供する。
ゲーム体験で描く感情曲線。

ゲーム体験とはゲームを遊ぶ時の話ではない。

正確には遊ぶ時だけの話ではない、だが。
デジタルゲームでは得られる情報をレイヤーに分けて捉えると扱いやすい。

4つのレイヤー
この理論では、ゲームから得られる情報を4つのレイヤーに分類します。
(1) 入力と独立した情報は単に「情報のレイヤー」
ex. 背景、キャラクター設定や世界設定、音楽、環境音
(2) 入力へのフィードバックは「反応のレイヤー」
ex. ビジュアルエフェクト/サウンドエフェクト/振動
(3) 能力へのフィードバックは「遊戯のレイヤー」
ex. 戦闘、アクション、謎解き、パズル
(4) 努力へのフィードバックは「進行のレイヤー」
ex. 物語の進行、キャラクターの成長、ソーシャル的な繋がり

ゲームデザインを改善/批評するための時間構造モデル「ワンダールクス」

例示を見ると、この分類はデジタルゲームに限った話では無いことがわかる。

『姫さまの言うとおり!』では「情報のレイヤー」と「反応のレイヤー」に重点を置いた。姫さまのビジュアルで魅せること、そして一斉に出したカードで盤面が大いに動くこと、だ。

ゲームマーケット会場ではとにかくビジュアルで押しまくった

ここに、「遊戯のレイヤー」のピークを増やすべく1プレイごとに結果を累積してゲーム全体での勝利を設けること。あるいは「進行のレイヤー」を建て増すためにバックグラウンドのストーリーをプレイを通して知れることを付加すること。これらを行えば異なるタイミングでの感情の動きを作り込むことが想像できる。まぁ、やってないんですが。

ピークを増やせばいいかというと、良いとも限らないんですけどね。「軽いゲームがやりたい」とか、言われることも少なくないし。要素を足すことでバランスが崩れることも多々ある。

そもそも…

ボードゲーム開発は、楽しい!!

なによりプロトタイプが仕上がるのが早いから!プロトタイプが素早く作れると、PDCAサイクルが回しやすい。
ゲームマーケットだけみても、多くのサークル様が半年で一本の新作ゲームを販売している。脅威的な速さ。サイクルを素早く回して改善のループを続けられるからそんなことが叶うわけ。

また、"テストプレイ"という行為が、"ボードゲームで遊ぶ"行為と差がないのも開発の楽しさに大いに貢献する。テストプレイするにも、複数のプレイヤーと一緒にプレイする必要があるからだ。

もっとも、このことは「プレイ会の反応を鵜呑みにするな」という覚書に繋がる。「最高の仲間と遊べば何だって楽しい」ので。ボードゲームに対するリテラシーが高く、他のゲームと比較して語れるゲームクリエイターと遊ぶなんて楽しくないわけがない。

「人と会わないと遊べない」この構造を持っていることが好ましいし、人と会って遊ぶことを活かせてますか?という問いにも繋がる。


色々書きましたが、自分はまだ全然できてないです。できるようになるために、記事にまとめたので。もっともっと誇れるゲームを作りたいですね。

これを読み返して少しでも…、テストプレイ会に向かいながら「これからボロカスにこき下ろされて死ぬんだ…」と怯えることが減れば良いなと。

テストプレイ会に行ってこき下ろされたこととかないんですが。

おまけ。


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