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謎の多い魅力的な女優。『もう一人の彼女 李香蘭/山口淑子/ シャーリー・ヤマグチ』川崎賢子


女優の自伝をまともに信じてはいけない」とは、数多くの中国映画の字幕を担当し、書籍を翻訳した水野衛子さんの名言。

名言だけど、研究の世界では常識の範囲。歴史研究者は『自伝』が如何に疑問符だらけか知っているし、資料として使うときには確認を怠ったりしません。

でも、うっかり確認なしで鵜呑みにしたり、書いてしまったりする歴史家も、実は結構います。だいたい、人文の研究者は専門の分野と頼まれてやってる分野があるので、Aの分野では敵なしな人も、Bの分野ではちょっと……だったりします。

あと、資料発掘やインタビュー(聞き取り)はうまくても、研究論文が下手な人もいます。だから、読者にも実は知識が必要だったりします。有名な某先生は、この分野なら信頼できる……とかね。

水野さんの場合、数多くの映画を見て、多くの字幕を担当し、映画監督や俳優さんたちと個人的につきあいつつ、来日会見を通訳してきた人だから、重みもひとしお。人生の経験値が違うので、かなり信頼しています。

さて、戦前の中国大陸で中国人女優として活躍した日本人女優、李香蘭。戦後は山口淑子として、女優として外交官の妻として活躍した彼女。その自伝『李香蘭 私の半生』も当然ながら、100%真実とは言い難いです。

では、どこがどう事実と違うのか。本書は最初からそのあたりに切り込んでいくので、もうわくわくしっぱなし。ページをめくるのももどかしい。

歴史好きとして『李香蘭 私の半生』が中級編としたら、本書は近代東アジアだけでなく、太平洋をまたいだ国際関係史の上級編。本当に、おすすめです。


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