メディアが煽った戦争。『帝国日本のプロパガンダ』貴志俊彦
『ゴールデンカムイ』に石川啄木が出てきた話のとき、ちょうど国内外の新聞に写真が載せられるようになって、部数を伸ばしていたという話がありました。かわら版や錦絵なんかは、先日の『もしも猫展』でも見ましたが、庶民の大好きな情報源。幕末から明治の前半まで結構売れて、その後、リトグラフやコロタイプ印刷なんかの技術が発展したそうです。
おかげで、日清戦争(1894-95)の時期には、錦絵がリバイバル。技術の向上で大量生産が可能になり、戦争場面を描いて大人気になったそうです。日露戦争(1904-05)の時期になると写真が登場し、銅板写真製版などの技術が使われ、第一次世界大戦(1914-18)には、新聞や雑誌、絵葉書、幻灯機に利用されるようになったとか。
新しく登場したニューメディアは、活動写真(映画)もあります。これも『ゴールデンカムイ』に出てきました。20世紀の始めには、映画館があちこちにつくられてブームになり、全国に普及していったそうです。1930年代の活動写真は、音声と融合したトーキー・フィルムとして、庶民の最大の娯楽になったとか。
そして、日中戦争の時期にはニュース映画や軍事映画が一般庶民に大好評。政府や軍部が推進する国家プロパガンダに利用され、人々は徴兵制や軍需動員を当たり前のこととして受け入れていったそうです。
貴志先生の本のおもしろいところは、日本の戦争メディアだけじゃなくて、ちゃんと別の国との比較がなされているところ。例えば、日清戦争の時期に中国で描かれた戦争の年画は、日本の戦争錦絵が間違いばかりなのと同じく、清が勝ったように描かれていたとか。
日露戦争では、ロシアでも戦争を描いた版画が好評だったとか。日本とロシアが戦争するのを見ていたイギリスやフランスのメディアがどう戦争を伝えたかとか、すごくわかりやすく目配りしてあって読みやすいです。
それから、台湾で原住民が蜂起した霧社事件が、日本の政治にどんな影響を与えたのか、そこから「満州事変」にどうつながっていったのか。このあたりもわくわくしながら読みました。とにかく、新聞社や雑誌社が戦争で売上を伸ばしていく様子がえげつないほどです。
そして、対英米戦争になると国力の差が圧倒的なので、だんだんジリ貧になっていき、新聞や書店は強制的に縮小されたり、紙も配給で制限されて、メディアは戦争で商売することができなくなっていきました。
戦後は、アメリカのプロパガンダについてもちゃんと言及されています。日本だけではなく、ちゃんと米軍占領下の沖縄についても紹介されているところがすごい。ほかにも、細かい部分のおもしろいエピソードと、大きなメディアの変化の流れが上手く組み合わせてまとめてあるのがよかったです。