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中国の盗掘アドベンチャー『盗墓筆記1』南派三叔(光吉さくら、ワンチャイ訳)
以前、中国の友達におもしろいドラマだと紹介された『盗墓筆記』。でも、予備知識のない私には、ドラマだけだと情報量が足りなくて、1話か2話を見ただけで、それっきりになっていました。今回、原作が出版されたということで、改めて原作にチャレンジです。
主人公の呉邪(ウー・シェ)は、墓泥棒の家系に生まれ、祖父の代から「長沙の土夫子」と呼ばれる家業を継いでいます。まだ若くて、墓泥棒の経験は浅いけれど、売買については多少専門家っぽい模様。この設定、むちゃくちゃ中国らしくて、わくわくします。
祖父が十三歳のとき、華中一帯が干害に遭った。その時代は干害がおきようものならすぐ飢饉になり、お金があっても食べ物にありつけなかった。当時の長沙郊外には何もなく、古い墓しかなかった。山に住む者が山で生計をたてるのと同じように、墓の近くに住んでいたものも墓で生計をたてるべく総出で盗掘をしていた。
盗掘にまつわる話は、以前読んだ『曹操墓の真相』を思い出します。政府の研究機関よりも、盗掘する人たちがいい設備や技術、ネットワークを持っていて、先回りして掘って盗んで、中国のお金持ちや外国人に売ってしまう話。
ただし、ドラマ化にあたって、このリアルな設定は検閲通らなそう。呉邪をドイツ留学帰りにして、文物が国家で保存するのが大事だと考える青年に改編されています。歴史好きは、こういう改編部分に、かえっておもしろみを感じて、興味を惹かれます。ドラマはイケメンが活躍するアクションものっぽいですが、私は原作の方が好きかな?
呉邪の祖父の時代には、墓荒らしも文化的な生活ができるようになると、規則とか派閥ができあがり、南派と北派のうち、呉邪の祖父は南派。使う道具も違ったり、墓の探し方も違う。たとえば、南派は洛陽シャベルを使うけれど、北派は使わず、風水で墓の場所を探す。規則がゆるいとか、きついとかの違いはあるけれど、お互いをバカにし合うところは同じ。
そんな、ベテラン(?)盗掘人だったおじいさんが残したノートは、一家に伝わる宝物。このノートや、呉邪の祖父の思い出、そしておじさんの三叔をめぐって盗掘アドベンチャーは始まります。この第1巻は、まだ序文というか、物語の始まり部分。
ある日の不思議な客をきっかけに、盗掘のベテランのおじ「三叔」にくっついて、呉邪は山東省に盗掘に出かけます。同行するのは、墓掘りの経験者たち。長距離バスに乗り、マイクロバス、バイクを乗り継いで、あやしげな洞窟に舟で入っていきます。出てくるのは、中国独特(?)の化け物たち。どうやら、中国には普通の妖怪だけでなく、古いお墓独特の化け物がたくさんいるようです。
そして、そういう化け物には銃とかナイフで対抗できるのが中国式。日本的感覚からすると、普通の武器は効かなそうなので、なんとなく不思議な感じがします。もちろん、普通の武器では太刀打ちできなくて、専用の対策グッズもあります。まだ1巻しか読んでいませんが、これって中国的なインディージョーンズ+ゴースト・バスターズみたいな感じなんでしょうか。
古い墓は、時代によって通路や墓室の形が違うみたいな話とか、墓泥棒をやっつける仕掛けをどう逃れるかとか、海に沈めるお墓の話とか、とにかく日本や西洋的な古墳イメージとは全く違う、中国の墓泥棒アドベンチャー。ただし、墓泥棒たちが同行者を出し抜いて、利益を独り占めしようとするあたりは、古今東西同じ模様。
そして、呉邪の三叔がまた親戚といえど全然信用できないらしいのがおもしろいです。誰が味方で、誰が敵なのか。信頼できる話と、信頼できない登場人物たちが入り乱れていて、たぶんここから、すごく大きな物語に進んでいくんだろうなあというところで、1巻終了。
原作はネット小説ということなので、多分『天官賜福』みたいに1巻だけでは、好みかどうかわからない状態。『天官賜福』は2巻が出たところで読んで正解でした。この『盗墓筆記』も2巻まで翻訳されているので、2巻までは絶対読みます。どうか、期待以上でありますように!