ポップな懐かしさ。『台湾 和製マジョリカタイルの記憶』康鍩錫
台湾の裏通りや下町を歩いていると、レトロな建物や壁、看板があって、歩きながらみているだけで楽しいです。今回、手に取った彩色タイルの本は、去年12月に大阪の国立民族博物館のヒンドゥー展でみたときから興味があったタイルについての本。
古代ローマの遺跡からも出土するタイル。中国に古くからある磚(せん:東洋式の黒い煉瓦。日本でも飛鳥・奈良時代に使われ、浮き彫りの模様もあり)。タイルの歴史は実用的なブロック煉瓦と、装飾としてのタイルが交錯しています。タイルの語源「tegula」は屋根を覆う陶製のタイルで、今でいう瓦に近かったとのこと。
英語の「tile」は粘土に釉薬を塗って錬成するもので、壁や床を覆う建築材。中国語では「彩瓷面磚」というそうです。タイトルにあるマジョリカタイル(Majolican tile)は、中国の色彩豊かな青花瓷(染付時期)をまねてつくられたものを輸入する地中海のマヨルカ島の商人たちに由来するとのこと。日本語のカタカナの響きが、なんとなく異国情緒あります。
でも、本書の筆者康さんは、日本人が台湾に持ち込んだ「マジョリカタイル」の呼び名は不適当で、本来の「彩色タイル」がシンプル、かつ実際的だといいます。だから、「マジョリカ」という華やかな響きは(多分、営業的に)タイトルにだけ使われています。原著は『台湾老花磚的建築記憶』。
本書が説明する彩色タイルの進化は、以下の通り。
世界各地で発展した彩色タイルが、日本にやってくるのは明治時代。近代建築が取り入れられるのと同時に、建材もヨーロッパから輸入され、彩色タイルも一緒にやってきたそうです。康さんが撮影した、世界各地のタイルの写真、これだけでもステキです。
日本で大規模に彩色タイルが生産されたのは1920年代から30年代。大正時代から昭和に変わっていく時代。日本風のタイルは和製ヴィクトリアンタイルと呼ばれて、海外にも輸出されました。
1931年、日本が中国東北部を占領した後は、「満洲国」でも彩色タイルを大量生産する大規模な工場をつくったとのこと。日本製とデザインが同じでも、日本の建築で使うものとはサイズが若干違ったそうで、メジャー付きの写真で大きさの違いが紹介されているところは、単なるタイル画集と一線を画しています。
日本でたくさん作られた彩色タイルが、実は日本であまりインテリアに使われなかったという話もおもしろいです。確かに、見た目にインパクトあってかわいいけれど、自分の部屋にあって落ち着くかと言われれば、ちょっとむずかしいかも。やっぱり木のあっさりしたインテリアが好きな人が多い気がします。
逆に、台湾では彩色タイルと木を組み合わせたデザインが家の壁や家具に使われていて、すごく魅力的です。
康さんは歴史文化の研究者で、台湾各地に残るタイルをたずねて、フィールドワークした成果がこの写真集。写真が専門ではないと謙遜されますが、彩色タイルがとても魅力的に記録されています。
彩色タイルの応用例。椅子やテーブル、ベッドなどなど木とタイルの組み合わせがステキです。暖かい、日差しのはっきりした、湿気のある台湾ならではのデザイン。すごく欲しいけど、私の部屋には向かないものばかり。
本書は詳しい説明もありますが、まずはたくさんの彩色タイルのカラー写真を眺めるだけで満足できます。お値段も写真集としては、かなりお手頃。穏やかな天気の午後、おいしい紅茶とか中国茶を飲みながら、お菓子を食べつつチラ見しているだけで最高に楽しい、おうち時間です。
康さんが彩色タイルを求めて、まわった台湾のあちこちを、自分も楽しんでいるような、旅行記を眺めているような感じ。ああ、また台湾行きたいなあ。
日本のマジョリカタイルについては、INAXライブミュージアムのこちらもおすすめ。新刊では入手しにくそうですが、公立図書館で取り寄せしてもらえます。
こちらも楽しい。フォント好きな人におすすめ。
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