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今だから読みたい1冊。『世界史としての「大東亜戦争」』細谷雄一編著

「大東亜戦争」というのは、戦前、日本が英米に宣戦布告して以降の戦争のことで、正式には1941年(昭和16)12月10日、真珠湾(パールハーバー)後に大本営の会議で決まったのだとか。今、この呼び方をしないのは、日本が負けて連合国が日本を占領したときに禁止して、「太平洋戦争」と変えたから。

そして、1952年に日本が独立して、「大東亜戦争」という呼び方がまたできるようになったけれど、戦前っぽさ全開の日本中心的な攻撃的な名前なので、あまり使われずに来たようです。

外交専門の羽多野先生によれば、「大東亜戦争」は複合戦争で、真珠湾攻撃に始まる日米戦争、東南アジアを舞台にした日英戦争、1937年に始まった日中戦争、そして、終戦直後の「日ソ戦争」が複雑にからみあったものだとか。

だから、パールハーバーから始まったように見えるアメリカとの戦争「大東亜戦争」は、もっと長い時間と広い視野でみる必要があるというのが本書をまとめた細谷先生たちの目的。1931年に始まる「満州事変」から日本の敗戦までを「15年戦争」と呼ぶ言い方もありますが、もっと広くグローバルな視点を使いたいとのこと。

序章も含めて15の章では、日本、中国、イギリス、アメリカ、ドイツ、ソ連、フランスなど、たくさんの国のそれぞれの事情と日本との関係がまとめられていて、短いので読みやすいです。日本とどこかの国の政治関係だけじゃなく、インテリジェンス(情報収集や暗号解読)、民主主義、ファシズムについて複数の国の比較なんかもまとめてあります。

統一性をとっているわけではないので、15の章全部を一気に読んでも、ちょっと頭の中の整理が追いつきませんが、気になるテーマを1つづつくらい読むのがちょうどいい感じです。

ただ、どの章でも何度か出てくるのが日本政府、日本軍(陸軍、海軍)の縦割り過ぎる点と、情報を入手しても上手く活用できないとか、肝心な部分を先送りする点。なんだか最近もよく聞くような話で、戦前から何も変わっていないのかと思うと辛いです。そして、加藤聖文先生のこの1文が重いです。

大日本帝国がひきおこした「大東亜戦争」は、欧米諸国による植民地支配に苦しむアジアの解放を大義としたが、そこには大きな矛盾を抱えていた。すなわち、大日本帝国そのものが植民地帝国だったことである。

あと、今の御時世を反映して、どの文章にも必ず、それぞれの専門家の立場からウクライナ戦争とかロシア(ソ連)についての言及があるので、歴史的な読み物としてだけでなく、歴史から今を読める本にもなっている点に好感がもてます。これだけでも、読む価値ありかも。



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