知らなかった日本のタイル文化。『和製マジョリカタイル―憧れの連鎖』INAXライブミュージアム
先日、台湾の彩色タイルの本を買って、ちょっとづつ楽しみながらパラパラめくって読んでいたら、ふと似たようなタイトルの本が目にとまりました。それが、本書『和製マジョリカタイル――憧れの連鎖』。愛知県常滑にあるINAXライブミュージアムというところが出版したもので、本というより博物館の展示の図録に近いです。
「和製マジョリカタイル」というのは、大正初めから昭和10年代に日本で生産された多彩色タイルのことで、イギリスのヴィクトリアンタイルを真似したもの。タイルメーカーのミントン社が、イタリアやスペインのマヨルカ焼きの流れをくむタイルという意味で「マジョリカタイル」と名付けてたくさん売出したので、日本でもその呼び方を使って呼んだのだそうです。
明治以後、日本にやってきた欧米人の住居のヴィクトリアンタイルの美しさや耐火性、耐水性なんかが好まれて、日本でも多彩色のタイルが生産がされるようになりました。国の後押しもあり、当時の窯業研究や技術開発には優秀な人材が集まって、和製マジョリカタイルは明治の終わり頃から、大量生産されるようになったそうです。
日本で使われるだけでなく、最盛期には東南アジアやインド、中南米、アフリカまで広く輸出されたそうですが、多彩色タイルの調査・研究はまだ最近始まったばかりなのだとか。先日読んだ、台湾の康さんの本も、この本の参考文献にあがっていました。
レトロでかわいいマジョリカタイル。京都には、このタイルが現役の銭湯もあるのだとか。カラフルなタイルは木の柱や畳とあわせて、エキゾチックな雰囲気。行ってみたいです。
ほかにも、京都のさらさ西陣カフェや、不老仙館(宮城県)、御料理新茶屋・山城屋(山形県)、淡河宿本陣跡・旧来住家住宅(兵庫県)、武雄温泉新館(佐賀県)、江戸城下町の館勝川家(岐阜)。旧石黒家かくのだて歴史塾(秋田県)、大川市立清力美術館・堺屋旧木下家住宅(福岡県)、仁川湯・龍城湯(愛知県)、大社湯(鳥取県)などなど。現役・引退を問わず、日本各地に残るマジョリカタイルが使われた建物が紹介されています。こういう部分は、ちょっと『るるぶ』っぽいです。
そして、台湾。阿里山鉄道の出発点、嘉義というと映画好き・野球好きは戦前の実話をモデルにした『KANO 1931 海の向こうの甲子園』を思い出しますが、ここには花磗博物館があって、半導体研究機関で働く徐嘉杉さんを中心とした有志たちの保存活動の結晶なのだとか。いまでは国の支援も受け、展示会やワークショップなどを開いて宣伝しつつ、保存活動を続けておられるそうです。
お茶や陶器、シルクとあわせて、近代日本の輸出産業の1つだった多彩色のタイル。東南アジアやインド、アフリカに輸出された日本製のタイルたちの歴史を読んでいると、常滑のINAXライブミュージアムや愛知県陶器資料館はもちろんのこと、海の向こうのタイルたちにも会いに行きたくなってきます。