インド版ニュー・シネマ・パラダイス。『エンドロールのつづき』インド・フランス、2021年
パン・ナリン監督の自伝的映画。つまり、実話ベース。なんにも知らなかった9才の子供が、映画に魅せられて、仲間と一緒におばけ屋敷で手作り映画ごっこして、やがて映画をつくるために旅立つお話。
ニュー・シネマ・パラダイスっぽいストーリーかと思ったら、ちょっとスタンド・バイ・ミー的に友だちと冒険したり、すごく楽しい映画でした。
主人公サマイは映画が大好きで、学校をサボって映画を見に行ってしまうほど。映画館の人につまみ出されたら、映写技師がお弁当を交換する条件で映写室から見せてくれることになり、映画館に入り浸ります。
映写室でも見つかったサマイは、友だちとフィルム倉庫からフィルムを盗んで、見様見真似で田舎の廃屋で映画館を作ってしまいます。このあたりのバイタリティがものすごくインドっぽいです。
最初は映像だけで、サマイの「活弁士」というより紙芝居のようだった映画が、たくさんの友だちや母妹も巻き込んで音も付け加える段階になると、もう魔法みたいです。
サマイが惹かれるのは映写機の「光」。物語の「嘘」。サマイが見よう見まねで、いろんな光を試す段階の映像がものすごくきれいです。そして、サマイのお母さんがつくる美味しそうなごはん。インドの人からすれば、生活に比べて豪華とのこと。
サマイの父はバラモン階級で牛50頭持っていたのに兄弟にだまし取られたという設定なので、サマイの両親はいい家のおぼっちゃん、おじょうちゃんだったし、だからこそサマイが勉強をしたいと言ったとき、背中を押してくれるんですよね。「知識」を得ることの価値を知っている人たちだから。
そして、先生の言葉が結構きつい。今のインドには2つの階層しかない。英語ができる階層と、できない階層。でも、逆に言えば、カーストのように超えられない階層ではなくなっているんですね。勉強さえすれば、自分の力で超えられるから。
あと、別の人の感想をみたのですが、映写技師さんはイスラム教徒設定だとか。ご飯や映画を通じて、サマイと映写技師さんが宗教の垣根を超える物語でもあるらしいです。実際、映画の舞台になった地域では宗教対立が問題になっているそうなので。
なんにせよ、『ニュー・シネマ・パラダイス』みたいなわかりやすい物語かと思いきや、もっと複雑で映像美がすごくて、寓話に富んでいる映画でした。ラストで映写機がスプーンになるシーンは残酷に思えましたが、フィルムが女性の腕輪になってキラキラ光るシーンは秀逸。
しかも、その腕輪にかぶせて、「チャップリン」、「アーミル・カーン」、「黒澤」、「張芸謀」、なんて古今東西の有名映画監督や俳優の名前をあげていくシーンの色彩豊かなこと。文化の残酷さと豊かさが同居している素敵んラストシーンで、主人公が大きくなって、こんな映画をとったことが必然に思える良作です。
これも、ぜひ映画館の大きなスクリーンでみたほうがいい作品です。まだ上映中なので、おすすめ。