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なぜロシアは戦争を始めたのか?『ウクライナ戦争』小泉悠


ロシアがウクライナに軍事侵攻して、もうじき1年たちます。21世紀になって、軍事の専門家たちの間では、「もう過去の戦争のような、国と国が戦戦う戦争は起きない」といされていたのに、なぜ起きてしまったのか? ロシアが始めたのはどういう戦争なのか、日本や世界にどんな影響があるのかをまとめた本です。

著者の小泉先生はロシアの軍事専門家で、この1年TVやネット、雑誌で見ない日はないような活躍をされているのに、よくもこの本をまとめる時間がとれたものだと感心しますが、執筆したのは本書一冊だけじゃないから超人的です。しかも、とても読みやすい本でわかりやすいしのがうれしいです。

ただ、これだけたくさんの情報を網羅して、理路整然とロシアのウクライナ侵略について語れる小泉先生にしても、プーチンが始めた戦争は理解しにくいところがあるのは悲しいです。というか、まともな理由で戦争が始まらないというのは、これまでの歴史の本で何度も読んできたのに、やっぱり21世紀になっても、戦争はまともな理由では始まらない事実を突きつけられるのが辛い。

専門家がどれだけまともに情報を収集しても、戦争を回避しようと努力しても、最終的に「GO」サインを出す人がまともな感性を持っていなければ(戦争をしたければ)ダメだという当たり前の事実。

小泉先生によれば、プーチンはロシアもウクライナもベラルーシも同じ民族で、ソ連崩壊でバラバラになったから、それを取り戻すと言っていたとのこと。そして、ウクライナがロシアよりもヨーロッパ諸国と関係を深めるのは西側諸国の陰謀なのだとか。なんだか、ヒットラーみたいな独裁者のいいかたですが、これが現実とは。

小泉先生が分析したロシアの戦争は、準備の段階からウクライナを見下してるとしか思えないほど楽観的。ゼレンスキー大統領がすぐ逃げ出すと考え、あっという間に決着がつくと考えていたとしか思えない戦争の始めかた。集める兵隊もロシア人よりは、周辺の少数民族みたいな貧しい人たち。最悪です。

そもそも、プーチンとその周辺の人たちは、一般の人は自分の考えで政治的意見を持ったり、抗議運動をするなんてあり得ないと見下しています。もし、そんな事態が起きたら、必ず首謀者と金で動く組織が背後に存在すると思っているとか。なんだか、中国でもよく聞きますね、このフレーズ。反政府の意見を取り締まるための方便ではなく、本心からそう思っているとしたら驚くしかないです。

戦争ってのは軍事的なことが重要で、どれだけの武器をどう準備して、どんな軍隊をどう動かして………なんて理性的ことをどれだけ専門家が真剣に論じても、計画しても、それを無視する独裁者がいると全部水の泡になるんだということがわかる本というのは本当に辛いです。

そして、どれだけひどい独裁者でも核兵器を持っている限り、まわりの国は下手な手出しはできない現実。核兵器を持っていないと、理不尽に侵略されてもまわりはなかなか助けてくれない現実。そりゃ、どの国だって核兵器を持ちたがりますよね。

内容がとてもおもしろい本だし、ロシアやウクライナの歴史もわかるし、ヨーロッパやアメリカの対応もよくわかるので、本当に読んでよかったと思うけど、どれだけ多くの人ががんばっても、機能する選挙や法律がなければ、たった一人の狂気で戦争が始まってたくさんの人がなくなって、他の国の人たちの生活もきつくなるという現実がしんどい。


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