中国の歴史をざっくり掴むとこんな感じ?『中国の大盗賊・完全版』高島俊男
高校時代の世界史の資料集に2つの絵がありました。
両方とも明の太祖朱元璋の肖像画で、1つがふくよかな品のある顔のりっぱな絵。もう一つは猜疑心が強そうで、シミだらけの顔で、おでことあごが出ていて、白黒の絵。高校の先生は、りっぱな絵を本物と説明しながらも、「白黒の貧相な絵は性格をよくあらわしているのではないか。落書きの方が、写真より本人に似ている場合がよくあるから」……なんて解説してたのを覚えています。
卒業して10年以上もたって、高島先生の著作を読んだら、資料集が間違っていたことや、高校時代の先生が中国史に疎かったこと(確か、専門は地理だったはず)がわかりました。その他にも、高校時代に習った中国史の間違いが山ほどあったことを知り、以後、膨大な漢文への理解と歴史の知識に基づく高島先生の文章がやみつきになりましたた。
小さいミスも積もれば山となります。おかげで、中国社会への見方もかなり変わりました。
高島先生によれば、朱元璋の人相は「おでこが出て、あごが張り出し、鼻が大きく、山の漢字を横に倒したようだった。目が釣りあがっていて恐ろしい顔つきだった」と言い伝えられているそうです。朱元璋の顔にまつわる逸話は、朱元璋自身の回想による資料が、全て同じように記しているとか。
この本は、高島先生の『李白と杜甫』や『三国志 きらめく群像』に比べると、かなり気楽な読み物ですが、その軽快な文章の合間には膨大な中国社会の常識、古典の知識に裏付けられているので、それを拾い読みするだけでも楽しいです。例えば、こんな感じ。
・中国では子供を人質にしない。子供には両親しかいないが、親をさらえば、子供や孫がたくさんいるのでゆする相手も増えて合理的(さすが孝の国!)
・賊とは官でないこと。正義かどうかは関係ない。
・最初は賊でも、官に買って長期間存続することができれば官になれ、正史となる。
・私兵も官の側に認められれば官になるが、あくまで私兵である。
・賊1万が攻めて来たといえば、精鋭は1割。残りは女子供と荷物や食料運び。
・歴史書に見られるリアルな盗賊たちの逸話は、実は小説に基づいて後から付け加えられている可能性が高い。
知識と文献による裏付けがある物語はとても楽しい。高島先生の主観部分はとりあえず置くとしても、高校や中学の先生とかが、高島先生の知識の一部でも授業でおしゃべるしてくれていたら、私たちも随分楽しかったのにな……と思わないでもない。
だからこそ、こういう新書サイズで専門の先生が本を出してくださる意味もあるというもの。最近は『世界史B』とか、さらに内容を簡素化する方向だと聞くし。先生でも学生さんでも、手に取りやすい高島先生の本が図書館にあれば理想ですね。