幕末の高杉晋作から大江健三郎まで。『中国見聞一五〇年』藤井省三
戦前・戦後の大物政治家や女優、作家、そして、まだ現役で活躍中の人々まで、19人の中国経験を語った本。もともと『NHKラジオ中国語講座』のテキストに連載された内容を、加筆再構成した文章とのこと。読み物風の短編が19編、そして著者のフィクション風文章が1編という構成になっています。
登場するのは、幕末の高杉晋作、明治維新後は後藤新平や夏目漱石。クリスチャンで桜美林大学創設者の清水安三、後に首相になる吉田茂、劇団四季の舞台でも有名な李香蘭、大物俳優の森繁久彌、中国との国交を結んだ田中角栄、作家の司馬遼太郎にノーベル文学賞を受賞した大江健三郎まで。
今でも知られている有名な日本人に加えて、血脇守之助(歯科医)、川喜多長政(映画人)、中薗英助(作家)、山本市朗(エンジニア)、韓瑞穂(留学生)、大宅壮一(ジャーナリスト)、茅野裕城子(作家)など、この本で初めて知る人たちが、中国とどう関わったかコンパクトにまとめられています。
1人につき、大体8頁。専門的な内容に加えて、小説風な創作会話劇があるので、読む人の好みが分かれそうですが、巻末の参考文献だけでも価値がありそうです。どの人でもいいので、興味をもったらそこから芋づる式にリストをたどっていけばいいので、近代の日中関係史を知りたい人には新設な入門書になると思います。
一番有名なのは、多分、高杉晋作が幕末に上海に行って、西洋人の商船と豪邸、教会が立ち並ぶようすに驚き、倒幕を決意したエピソードだと思います。全く知らなかったのは、イギリス留学前に上海や香港に立ち寄った時期の研究がないという話。これは山のようにある夏目漱石研究のエア・ポケットなのだとか。
私は、「満州」関連の話に疎かったので、森繁久彌が戦前徴兵を逃れて、「満州」の悪名高い甘粕正彦と働いていたってエピソードにびっくり。俳優の宝田明が、「満州」生まれってのも知りませんでした。別の本で、赤川次郎のお父さんが甘粕の下で働いていたのは読んだことがあります。
高校時代に読んだ『有吉佐和子の中国レポート』が出てきたのは懐かしい。ただ、私が感動した内容に藤井先生は手厳しく批評を加えています。せっかくなので、またこの本も読み返してみたいと思います。きっと、以前とは全然違う感想を持つでしょうね。
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