高次学習 Higher Order Learning
日本ではあまり聞かれないが、上記のようなBloomの分類 Bloom's Taxonomy と呼ばれる学習に関するレベル分けがある(これは改訂版)。この分類では学習を6段階に分け、最も下のレベル、あるいは基礎的とされるレベルが知識を想起 remember できるレベルとする。そして段階があがると、その知識についてどれだけ説明できるか、実際に異なる状況で応用したり、他の知識と結合できるか、そして最終的には知識を再編成して新しい知識創造 create ができるかどうかがそれぞれ問われて応答できるようになるとされている。
これ以外にも学習の分類はあるが、例えば上記のBloom's Taxonomy で描かれたような諸段階の高所に位置づけられる学習を高次学習 Higher Order Learning と呼ぶ。高次学習を達成できているとは、知識を他の知識と首尾一貫してつなげて理解しているだけではなく、自分自身の必要に応じて再編成して取り扱える状態である。言い換えれば、保持している知識の構造全体を自分自身で様々な「角度」から再編集できるようになれば、高次学習が達成できている状態であり、熟達していると言えるだろう。
"GRINDE MAP" by Justin Sung
では、熟練に至るための高次学習をおこなうために我々はどんな学習をおこなうべきだろうか? 例えば、大学受験の世界では数多くの「勉強法」の本が出版されている。しかし、その中心は、私が受験生だった数十年前から今に至るまで暗記中心、復習中心の学習法である。少し細かく言えば、何と言ってもまず過去問を解くところから始めなさいとか、忘却曲線を考慮して復習を計画的におこないなさいといったアドバイスが昔も今もなされてきた。
しかし、我々の長期記憶 Long Term Memory, LTM から何度も何度も記憶を取り出す訓練をするのは、ひたすら忘却曲線と戦うことになる。遅かれ早かれ、それはいずれ与えられる課題の量に圧倒されてしまうだろう。確かに記憶を思い出すことは学習にとって必要であり、それは上記のブルームの分類の底辺に想起が置かれていることからもわかる。しかし、そもそも長期記憶に情報を整理整頓して構造化しないまま、あるいは立体的に幾つもの角度から眺めないまま放り込んで(=記憶して)いては、それを何度取り出して憶え直そうとすぐに忘れてしまうことになるだろう。だから、復習だけでなく、吸収した知識を関係づけ、俯瞰し、再編成する作業を通じた習得が必要になる。つまり、最初から忘却予防の手を入れておく必要が出てくるのだ。
そこで、こうした習得に対する有力な提案がJustin Sung氏が提案する GRINDE MAP である。これはいわゆるマインドマップの一種であるが、成果物としてのマインドマップであるとか、他の人と共有できるかたちでのマインドマップというよりも、習得 learning のためのマインドマップである。いや、習得のためにマインドマッピングをおこなうシステムであると言った方がいいだろう。GRINDEは頭文字を取った造語で、それぞれSung氏が提唱するマップの特徴を表している。
Grouped, アイデアをグループ化する
Reflected, マインドマップを「心の鏡」とする。だから、あやふやな部分もあやふやなまま出力する
Inter-connected, アイデア同士またはグループ同士を関係づける
Non-verbal, 言語で表しにくいアイコンやイメージを使う
Directed, 方向性を持たせることによって、因果関係や推論関係を表現する
Emphasized, どのアイデアやグループや流れが最も重要なのかを評価し表現する
このような特徴を持ったマインドマップが特に GRINDE MAP と呼ばれる。2番のReflectedからわかるように、GRINDE MAPはコンテンツに向き合う学習者個人の現在の状態を反映し、頭の中で生じている学習プロセスを可視化することによって、認知負荷 cognitive load を下げるものである。だから、GRINDE MAPは書き直し前提であるし、重要なことはGRINDE MAPを作成することではなくて、GRINDE MAPを作成しようとすることによって、高次学習のプロセスを学習者個人の脳の中に生じさせることにあると言える。その点ではGRINDE MAP作成は一定の認知負荷を生じさせるものであり、当然面倒ではあるのだが、反対に単に教科書の目次・章立て・配列をただなぞるだけのツリーを描いていてはそこには単なる繰り返しと反復による暗記しか生じない。だから、GRINDE MAPを描くことによって生じる独自の面倒さを通じて、やればやるほど忘れにくく楽になる学習を実現することができれば、高次学習者への道が開けてきたと言えるだろう。
私自身もJustin Sung氏の動画に触れてこれからGRINDE MAPによる学習を進めていきたい所存である。
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下の記事はSung氏の動画に紐づけて認知負荷とブルームの分類について説明したものである。
下の記事は実際に学術的な文庫を一冊取り上げて、どのようにしてGRINDE MAPが書けるものか、私自身が実施して、わずかだがそのプロセスを提示したものである。
(2,205字、2024年7月23日)
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