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セクターを超えて紡ぐ新しい価値創造(後編) ―境界線が溶けゆく時代の学びと変容― 早稲田大学ビジネススクール牧教授×World in You山本代表 対談

技術経営やアントレプレナーシップがご専門の早稲田ビジネススクールの牧兼充准教授が、社会的企業やCSRの領域にも興味を深めてきていらっしゃることから、昨年World in Youのボードフェロープログラムにオブザーブ参加いただきました!

そもそもボードフェロープログラムって何?、牧先生にはどう映ったか?、ビジネスリーダーが非営利にも関わることの価値について、牧先生とWorld in You代表山本未生の対談形式でおとどけします。

対談の前編はこちら↓

対談の録画はこちらから↓


ビジネススクールとは異なる学びの特徴

牧: (私が今の立場でお聞きするのは何ですが、) ビジネススクールでは学べないけれど、このプログラムで学べることはありますか?

山本: 参加者と参加団体の間の関係性をつくることをとても重視しています。

事業上の良いアドバイスをするだけではなく、それ以上に人と人としてちゃんと出会う仕事上のことに加えて、パーソナルな面も差し支えない範囲で含めての関係性を重視しています。ですので、プログラム終了後も、相性があえば関係性が続きやすいと思います。

また、このプログラムは、ソーシャルな事業の経営を、ボード目線・経営目線で見ることに特化してコンテンツを組んでいるので、それもビジネススクールとは違う経験になると思います。

牧: 関係性をつくるというところも、まさに非営利組織の方がより必要とされていると思います。
他に、非営利はどんなところが難しいんでしょうか?

山本: 一番難しいのは、事業性収益性の観点からマーケットが成り立ちにくいところに、飛び込んでいっているところだと思います。それがゆえに、法人形態も、資金調達が株式という形ではできないNPOなどで法人設立する場合が多い。そのかわり、寄付金や助成金は集められるが、結局、寄付金助成金を得るためのファンドレイジング活動と、受益者にサービスを届けていく活動を、同時進行でやっていかねばならない大変さがあります。

牧: 営利組織で働く人がボードフェロープログラムに参加して、どんな学びを持ち帰れますか?

山本: 一番共通するのが、モチベーションです。ソーシャルの分野でやっている方は、リソースに非常に制約がある中で、非常にパッション持ってやっています。大企業にいると、「そもそも今の仕事は何のためにやってるんだっけ?」ということが、実感しにくくなりやすい。そういう中で、パッションを持ってやっている方に触れることにより、やる気に火がつくということは、皆さんおっしゃっています。

牧: パッションに感染するみたいな感じですよね。とてもよくイメージできます。

(右上:牧先生、左上:山本、中央下:World in You 三代)

外部の視点がもたらす、組織変革のきっかけ

牧: ボードフェロープログラムの後半で、模擬ボードメンバーとして一緒にディスカッションをするところが、とても特徴的だと思うんです。
ビジネススクールでも、そこまでのプログラムはなかなか作れなくて、まさにリアルな案件を扱っているということだと思います。そこで議論される課題にはどんなものがありますか?

山本: 参加団体の方には、リアルな経営課題を出してくださいとお伝えしています。経営体制、組織づくり、中長期の事業の方向性、企業連携、新規事業開発などがこれまで議題によく挙がっています。
この議題ーアジェンダを出すのが、すごく難しいところで、団体にも参加者にも、いい意味でのチャレンジになっています。

牧: 差し支えなければ、もう少しドロドロした実際のストーリーを伺えますか?

山本: 実際、良い意味でドロドロしていますね。

団体に、外部の人が経営目線で入ることの意味の一つは、今までの前提をいい意味で覆して、ストレートに言われるみたいなこと。もう一つは、今まで団体内でも考えたり、議論してたんだけど、改めて外の人から同じことを言われることで、背中を押してもらって推進力になるということだと思います。

前者の例を挙げると、ボードフェロープログラムの大きな特徴は、NPO側が代表だけでなく、複数名で参加する点ですが、そうすると、代表に寄りかからない組織作りをしたいという課題意識のある団体が参加することが多くあります。

ただ、現状はやはり代表に寄りかかって、代表がすごく頑張っている団体がある。

模擬ボードミーティングで、代表が「めちゃめちゃ頑張って24時間働いてるんです」と言った時に、参加者が「いやいや、それはいいけど、そうじゃなくて、団体代表も休むことは大事だし、そうしないと組織の皆に多様な働き方の背中を見せられないよね?」という話をする。

普段組織内の人からは、言いにくいことかもしれないが、外の人が言ってくれることで、はっと気付いて、代表自身のライフスタイルやワークスタイルが変わり、組織に他のリーダーも育っていくという変化も生まれています。
(参考:NPO法人サンカクシャ(第3期、2023年参加):代表への一極集中から組織化への挑戦

牧: 代表に対して、中の人だったら言えなかったような役割分担の見直しやリーダーシップのあり方について、指摘したりできるということですね。面白いですね。

越境による気づき ―参加者たちの変容ストーリー

牧: 参加者の多様性に関して、営利で働く人と、非営利で働く人、こういうプログラムで非営利に興味を持つ人では、キャラクター、バックグラウンドや属性の違いを感じますか?営利と非営利は二つに分けるものなのか、それとも、そもそも思ったより近いものなのか

山本: 参加者の選考では、非営利での経験の有無についても、バランスの取れた多様性を大切にしています。

非営利経験が全くない人が参加すると、大きな気づきを得られて変化がありますが、一方で、そういった方々ばかりだと、現場の実情を知らない議論になりがちです。そこで、非営利と営利の両方を経験してきた方にも参加していただくことで、多様な視座が組み合わさり、お互いの学びにもなり、団体にとってもバランスのいい議論になります。

牧: ビジネススクールでこのプログラムを紹介しようと思った時に、ビジネススクールの学生には、「非営利は自分には関係ない」と思ってる人たちが、それなりにいると思います。そういう人たちに、「そうじゃないんだよ」ということをどう伝えるといいのでしょうか?

山本: 私の中では、大学時代から、(非営利と営利が)すごくナチュラルにつながってるんですよね。だから、全くそう感じない人に、改めてうまい説明をできるかというと、あまり自信がないなあ、と。

難しいですよね、実際。「面白いよ」としか言えないんですが。長期目線で考えると、営利のビジネス範囲と、非営利との境界が曖昧になってくるので、これこそがビジネスチャンスで、絶対に必要なんです。でも、全く関係ないと思っている人が、自分の今の業務には本当に関係ないかもしれないし。長期目線で考えたら絶対必要なのですが、その人の今の状態に対しては説得が難しいなと。

牧: こういうプログラムでは、参加した人のナラティブが蓄積されていくことが大事だと思うのですが、過去の参加者で、比較的営利寄りだった人が、参加したことで、非営利との交わりを感じてこう変わったという物語はありますか?

山本: いくつもあります。例えば、J.P.モルガンからの参加者が、企業畑でずっとやってこられたのですが、女性やジェンダーへの関心を持っておられました。このプログラムに参加後、その関心をもとに、社内で女性のキャリアをサポートするイニシアチブを起こしたんです。仕事でのネットワーク、ボードフェロープログラムの同期生も巻き込みながら、プロジェクトを進めておられます。そういう動きのきっかけになったことは、すごく嬉しいです。

他にも、企業の中でで営業一筋だった方が、サステナビリティの部署に最近異動され、このプログラムに参加したことで、「非営利ってこうなっているんだ、企業と非営利での課題には共通するところもあるし、自分の経験や知見が活かせるんだ」ということを実感されて、今サステナビリティの部署でご活躍されている方もいらっしゃいます。 

牧: ありがとうございます。ロジックで語るよりも、物語をたくさん伝えると、自然とその良さに感染していくというのが、一番いいかもしれないですね。

<企業からの参加者のインタビュー>
●サントリーホールディングスCSR推進部 一木典子さん、村田佳幸さんとのインタビュー

●JPモルガングループ 加藤格さん、西原理江さん、嶋田利佳さん、加藤大さん(CSR担当)とのインタビュー

営利と非営利の境界線が溶けゆく時代に

牧: 抽象的な質問なのですが、営利と非営利って何が違うのでしょう?本質的には近いと思うんです。決定的な違いを一個だけ挙げるとすると何でしょう?

山本: 営利・非営利の法的な違いは、生み出した利益をどう使うかが全然違います。出した利益を株主にも返していくとなると、見ている方向は違ってくる。非営利は利益を分配してはならず、再投資を求められている点が、決定的な違いだと思います。

ただ、営利の箱であっても、ソーシャルな目的を持ったスタートアップも最近増えてますし、境界がいい意味で重なってきていると思います。

牧: 最近私はB Corpやベネフィットコーポレーションの普及に関わっています。ディープテックは、非営利のようなマネジメントで資金調達できるようにしないと、結局成長していかない。つまり、研究開発に時間がかかり、中長期的な視点で社会に還元していくもの、と考えると、いわゆる株式会社のロジックがあまりはまらなくなっている。そういう意味でも、この分野に興味があります。

フラットな関係性で実現する質の高い経営議論

牧: 非営利に関する活動を体験するプログラムは増えていると思いますが、ボードフェロプログラムの特徴、差別化点はどこにありますか?

山本: 「ここまで企業サイドとソーシャルサイドがガッツリ一緒にやるというのは、結構少ない」、「なるべくフラットな関係で、一緒に経営議論をするみたいなのは少ないね」と参加者の方に言われます。

参加者間の多様性を意識しており、例えば、サステナの部署だけに絞る、経営層だけに絞る、若手だけに絞る、ということをせず、ある程度多様にすることで議論の質が高まり、新鮮になることを意識しています。
また、NPOにとっては、代表を含む3人が一緒に参加する点が他とは違います。

これらの違いが、どこにつながるかというと、結局ガバナンスの話や経営の話ができるというところだと思います。

牧: 今後、このプログラムの発展に向けて、周りからどんなサポートがあると嬉しいですか? また、どんな人に参加してほしいですか?

山本: こういった取り組みに共感していただけたら、他のところで、一部の要素でも使っていただいたり、一緒に使うことで、価値を広げていけたらと思います。

というのも、6ヶ月の中で参加できる人数は、30名弱なんです。それでは非常に限られているので、いかに他のところに役立てていただくか、というアイディアを大募集中です。

イノベーションとソーシャルの新たな可能性

牧: 去年参加させていただいた感想を最後に述べると、とてもよくできたプログラムだなと思います。

まず学びの部分で言うと、オンデマンドで学ぶコンテンツがとてもよく構成されていて、この領域で知っておいた方がよい基礎知識がとてもうまくまとまっている

後半の模擬ボードミーティングも、よくここまで突っ込んで議論しているな、と思うことがたくさんあり、そういう場からの学びはとても多いだろうと強く感じました。

さらに、模擬ボードミーティングでかなり激論をしていても、このコミュニティが持っている文化なのか、みんな温かいコメントをしていて、その雰囲気をしっかり作っているというのも、このプログラムの魅力で、多分それがアラムナイ(卒業生)になった時に、良いコミュニティになっていくだろうと感じました。

私もビジネススクールでも、こういうプログラムをもっと宣伝していきたいと思いました。

やはり、「自分は非営利は関係ない」と思っている人こそ、参加してほしいなと思うので、そこへターゲットをどう広げていけるかだと思います。

私が非営利に関わっていると、「どうして非営利に興味あるんですか?」とよく聞かれます。

それは私のイメージがテクノロジーやイノベーションで、そことつながりづらいからだと思います。でも、ディープテックのような話を追いかけるほど、つながっていくんです。

私は、「非営利は、ディープテックをしっかり育てるための手法です。だから学んでいるんです」と話しています。

そういうパターンが(他の領域でも)もっとたくさんあるように思います。ここで体験して学ぶと、より大きなインパクトが生まれていく、そんな広げ方もできるといいと思います。

山本: まさにそうだと思います。私も、イノベーションやテクノロジーとソーシャルの接点は、まだまだオポチュニティ(機会)が沢山あると思っています。

今日はどうもありがとうございました。

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後記: 長い記事をお読みいただきありがとうございました。

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ボードフェロープログラム第4期

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