こんなときだから明るく楽しく言えたらいいね
見て感じる印象がその人の生き方を想像できるくらいに近づくのってどんな時だろう?
同じ時間を同じ目的に向かって進む時間。
例えば、毎日顔を合わせる職場の仲間やチーム。
それぞれの専門性と思考をもって集まった新製品プロジェクトチームのカウンターパートナーという存在。
議論が進む中、優しくておおらかな受け応えにしなやかで芯の強さを感じ取っていたけど、その印象に自信は持てずにいた。
ある日のミーティング。
アイスブレイクで”勇気の味方って何?“って話になった時、
そう自分自身を言い換えて、引っ込み思案でコミュニケーションが下手な私を気にかけては、横に来ていつも嬉しそうに話しかけてくれる。
時にはこんな会話も。
不安な気持ちを聞いて欲しかっただけなのか、あなたのいつもの割り切り方は謎解きの様で楽しいし、いつも惑わされそうになる。
そんな不安も心配も解き放つように、眉も目尻も下げながら人懐っこい笑顔を見せ、飾らずおごらず、さらり、さらりとこう伝えてくれる。
じっくりゆっくり凍らせた透明な氷の様に不純物のない素直な感情が、いつもの小さなな“ぁ”で、その時々の様々な感情を隠すことなく知らせてくれる。
「そうだったんだ、よかったよ、ほんと」
「何かできることありそう?」
「それだったら一緒にやってみない?」
自分の垣根を取り払うのが苦手だけど、あなたとならそんな会話が始まるのがいつも不思議だった。
色んな人生を過ごしてきて、決して順風満帆じゃなかったことも笑って話してくれるあなたに、「明るく楽しく」と決めて生きてきた芯の強さを改めて感じられたのも嬉しかった。
「もっと知りたい」
「もっと知ってもらいたい」
お互いを気にかけることが少しずつ増えていくたび、いつの間にか「私たち」と呼び合う様になって、悔しかった気持ちも嬉しかった瞬間も一番に伝えられる存在が、優しくて心地よい時間をゆっくりと刻んでいく。
・・「相手の気持ちを置き去りにして自分の気持ちばかり話すのは自分勝手だなって思うけど、嫌われない様に演じて生きるのはちょっと苦手だな」・・
少し真面目な顔をしてそんなことを打ち明ける関係になった時、いつもの笑顔でこう話してくれた。
今まで「気にする」より「気にかける」ことのバランスが少しずつ揺れていた。
いつも課題を追いかけながらストレスと白黒思考に揺さぶられ、自分ひとりできりきり舞いになって、楽しく仕事する気持ちをいつのまにか失っていたのかもしれない。
人見知りであきらめの早い、そのくせ気にすることの多い複雑な自分を閉じ込めて、もっとシンプルに今までと違う自分で行こうって決めて過ごしてみたら、今まで出逢うことのなかったあなたと出会えたのは必然の様で、神様がそっと分け与えてくれた縁だったのかもしれない。
一緒に悩み、一緒に笑い、割り切れない気持ちも同じ思いも受け止め合う存在。
そして認め合い、支え合うことがひとつひとつ積み重なってきて、私たちだけが感じてきた潤いのある、かけがえのない安心感。
愛おしい気持ちと満ち足りた気持ち。
でも、私たち以外のことで離れてしまわなければいけない社会の仕組み。言葉では言い表わせないくらい素敵な日々も、もうすぐこのプロジェクト達成で終わりを迎える。
だから、こんな時だから
憂いなく、
しなやかに、
「ありがとう」って言えたらいいね。
両極の感情がグラデーションの様に少しずつ変わって、例えば普段以上の気持ちになったとしても、呪文の様に胸の奥のほうに閉まっておけるなら、ずっと気づいていないふりいてほしい。
それはあなたも普段以上にならない様に守ってたもの。
こう見えて、どっち付かずの気持ちを「さよなら」で誤魔化すのは得意なんだ。
(明るく楽しく)
こんな時、あなたの様に言えたらどんなに良かったんだろう。
「今までありがとう。もうすぐさよならだね」
「もぉ、先輩。違いますよっ」
そう言ってクスッと笑っていた。
「違うって、、、?」
いつもの謎解きもこれで最後。
巡りめぐって時を越えて、やっと答え合わせが出来た。
「そうだったね、、。今までありがとう、すごく楽しかったよ!」
「そう、そう!」
伝えられなかった願いを込めて結んだ風鈴の音の様に、「私も楽しかった」の透き通る様な明るい声が真っ直ぐに飛び込んできた。
ミーティングルームでいつも見ていた窓向こうの街も、新しい季節を迎えるデジタルサイネージの秋の彩りで、みんなを精一杯に明るく元気づけてくれてる様だ。
手を引くあなたの笑顔がこう伝えてくれた様に。
「新しい季節へようこそ!」