【読書感想】独学の教室
イントロダクション
なぜ我々は学びたいのか?世界が目まぐるしくアップデートし、デジタルで知識がすぐに得られる時代。学ぶ意味はあるのか。何を、どう学べばいいのか。本書はユニークなバックグラウンドを持つ14人の独学者の考え方や方法を紹介。特に記憶に残った鎌田敬介氏と志村真幸氏について記す。
鎌田敬介 Armoris 取締役CTO 「サイバーセキュリティマネジメント入門」著者
サイバー攻撃の手口は日進月歩で進化しており、常に最新の情報を負う必要がある。そのためにはコミュニケーションを含めた自己研鑽が欠かせない。
鎌田氏の独学法は、その分野の基本となる書籍を20冊ほど買って一通り読み、自分が「これは良い内容だ」と思えた書籍を2~3冊選んで熟読するというもの。考えがある程度まとまったら、その分野に知見がある人たちと議論して、過不足や、別の視点がないかを探り、クオリティを上げていく。
「自己完結型のブラッシュアップには限界がある」。一人で学ぶと正しいかどうか検証できないため、限界がある。しかし、リアルで会える人は限られているため、インターネットを使う。場合によってはコミュニティに入る。ここで重要なのはコミュニティを引っ張るリーダーの存在で、なってくれる人がいなければ自分がなるしかない。
指導する立場である鎌田氏によれば「仕事で必要だから」と強制されて学んでも効果は出ない。そもそも勉強に慣れてない人もいる。好きなことをみつけ、それを学ぶことで「学びのプロセスに慣れていくことが大事」だと話す。
すると「好きなものが見つからない」という悩みが寄せられる。これに対しては「いろいろ触れないと分からない」というのが答えだ。3つ試して、3つとも詰まらなかったでは不十分。
とにかく数をこなし、実際に体験するべきだ。例えば、いくら本を読んでもサッカーや野球の楽しさは全く伝わらないだろう。説明を聞いて理解できる内容は2割、積極的に参加すると7割、人に教えると9割になる。
志村真幸 南方熊楠研究家
若山出身の南方熊楠は、博物学、民俗学、植物学、特に菌類の研究に多大な貢献をした知の巨人。
大学に属さない、在野の研究者だったため、熊楠は好きな学問に一生をささげた。多岐にわたる分野を学ぶときに熊楠がとった共通の方法論が「記憶する」ことだ。
熊楠には「抜書(ぬきがき)」と呼ばれる 膨大なノート類がある。書物や雑誌記事を筆写したもので、ほとんど一言一句欠かさず写し取っているのが特徴だ。1892年から暮らしたロンドンでは大英博物館の閲読室に通い詰め、朝から晩までひたすら筆者に励んでた記録があるという。ほぼ皆勤を何年も続けるほどだった。
熊楠にとって学問することは、常に記憶することであった。
今、熊楠研究で最もホットなのが「腹稿(ふくこう)」だ。
長年、熊楠最大の謎と言われていたが、近年解読が進む中で、信じられないような事実が浮かび上がってきた。それは熊楠が抜き書きの第何冊の何ページにどんな情報を書写していたか、きちんと記憶していたことだ。読み返しながら作ったとは思えない例が何個もあるという。
自らの手で書き写すことの効能を強く教えられる。現在では図書館でもコピーするか、スマホで撮る方が早いだろう。しかし、それでは書物の内容を真にわがものとしたことにはならないのかもしれない。
本書の所感
多種多様な人たちでありながら全体に緩く気軽なスタンスでの取り組みを薦める論者が多い。佐藤優氏や澤井康佑氏などは本人たちの勧めるかなり実践的な手法を紹介しているが、全体としては少数派である。
実際のところ、本書の内容はかなりしっちゃかめっちゃかなので、なぜこれを収録した?と感じたパートもある。志村氏のパートは個人的にとても面白かったのだが、熊楠の研究紹介が続き、独学のエッセンスと言えば「書いて覚えよう」でしかない。
内容がバラバラなので、どういう風に事前に期待しても、玉石混交感は否めないだろう。裏をかえせば1つは面白く感じる、参考になる部分はあると思う。それがどこかは読み手次第だ。