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ようこそ、心理学部へ──同志社大学心理学部より【読書感想】

心理学を専門で学んだ人間は限られている一方で、我々は物心ついた時から”心”と向き合ってきたはずだ。そういう意味では心について、ある程度”常識”として理解している。

では、学問として心を研究するとはどういうことなのか。同志社大学の教員が初学者に向けた”講義”の一部を紹介する。

生理心理学ー脳内報酬の苛烈さ

ある行動の結果、何かが起こることによってその行動が維持されることを「オペラント条件付け」と呼ぶ。オペラント条件付けは「スキナー箱の実験」が有名。

まず、ネズミを、ケージに入れました。
このケージでは、定期的にブザーが鳴るようになっており、ブザーが鳴っているときにレバーを押すと餌が出るようになっています。
そして、時間が経つうちに、たまたまネズミは「ブザーが鳴ったときにレバーを押して餌が出てくる」という経験をします。
その後、ネズミは、ブザーが鳴るとレバーを押すようになりました。

このように「エサが出てくること(結果)」を求めて「レバーを押すこと(行動)」が強化されるので、条件付け(学習)がなされた、と示されます



このオペラント条件付けは誰もが直感的に理解している原則だろう。生理心理学の立場では強化子は「脳内報酬系が活動すること」と説明する。脳内報酬系とは、快楽や満足感といった報酬を得た際に活性化する神経回路のことであり、脳の特定の部位を電気刺激し、人工的に快感を得る「脳内自己刺激」によってラットは突き動かされる

この行動は非常に衝撃的です。僕はこの行動についてはもちろん教科書で読んで知っていましたが、実際に穴筒木の回数が電気刺激の回数に応じて綺麗に比例していくことを目にした時、生き物の行動が脳のごく一部の活動によってここまで完全にコントロールされているのかと、とても複雑な気持ちになりました。脳内自己刺激は刺激が強いと取り憑かれたように死ぬまで続けるような、強烈なものだそうです。

依存症とドーパミン

個人的にこういうオペラント条件付け、脳内報酬物質の関係で身近な問題だと思われるのは依存症だ。依存症は専門家の間で「脳の病気」とも呼ばれている。

依存症の脳では、ドーパミンが異常に活性化され、脳が快楽を常に求める回路が形成されることで、同じ行動を繰り返す原因となる。

より詳しく述べると、最近の研究では依存症の原因がドーパミンD2受容体の減少によることがわかってきた。ドーパミンD2は前頭葉にある物質で、この機能が低下すると何かを抑制しようという機能が衰えることが分かってきた。これは肥満だろうと、薬物だろうと依存症に共通する働きだという。スマホ依存症も同じことだ。くれぐれも依存症を甘く見てはいけない。脳が変わっているのだから。

「やる気」は存在しない? 人にやさしい学問「行動分析学」

これまたスキナーが発明した学問で、極端なことを言うと心理学なのに「心を考えない学問だ。

例えば勉強ができないのは「やる気」が出ないからだと考えるのは自然だ。しかし行動分析学は意識や思考といったものも「行動」と規定して研究する。行動が起きるのはなぜか?起きないのはなぜか?というのを深堀りすることで、原因と改善策を考えていく。

では行動の定義とは何かというと「死人にできること以外のすべて」だとしている。

「例えば朝起きれない」というのは死人にもできるため、行動分析学では「朝目を覚ましてベッドから体を起こして活動する準備をすること」を行動として、その標的行動を増やす「強化子」と減らす「弱化子」を調査する。

実は行動分析学は自閉症や知的障碍者の問題行動を減らすためにも使われている。「人を叩く」「大声を出す」などの問題行動はなぜ産まれるのか?抑制できないか?といった研究をデュランドらが19世紀からしている。行動分析学は体罰に反対意見をデータから出すなどしている。

このように人にやさしい学問でもある。日常で増やしたい行動や減らしたい行動についてセルフモニタリングすることも可能なので、ぜひやろう。






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