ボードメンバーの育休取得経験は経営にどう活きるか〜withworkweek@国際女性デー カンファレンスレポート〜
はじめに
5日間のカンファレンスに際して
2022年3月7日~11日の5日間にわたってオンライン形式で開催されたDE&I推進カンファレンス「withworkweek@国際女性デー #キャリアとライフはトレードオフじゃない 」。10のテーマで行ったセッションにおける4日目の3月10日の夜に開催されたセッション内容をレポート形式でお届けします
・育休取得者のマネジメント
・「性別にかかわらず、キャリアもライフもトレードオフにしない働き方の実現」に向けて働く人にもっておいてほしい考え方
・育児・介護休業法改正が2022年4月1日より実行されることを見据えて etc.
「ボードメンバーの育休取得経験は経営にどう活きるか」の回では、これらを主なセッション内容として2名の登壇者をお招きしてお話しました。ぜひご覧ください。
それでは、セッション時のトークに沿ってレポートします。
登壇者の紹介
XTalent筒井:Day4の夜の回は「ボードメンバーの育休取得経験は経営にどう活きるか」をテーマにお届けしてまいります。今日は2人の登壇者をお招きしています。まず矢本さんから自己ご紹介をお願いできますでしょうか。
10X矢本さん:株式会社10X代表の矢本真丈と申します。弊社は2017年の6月に創業しているのですが、その2ヶ月前の4月に私に第二子が生まれまして、その時に勤めていた会社で育児休業をいただき、休暇中に家事・育児をする中でのペイン、特に食事を作ることや買い物の行動が全然進化していないので、そこにテクノロジーを入れていくとすごく良い顧客体験、あるいは良いものが作れるんじゃないか、社会にとって必要なインフラが作れるんじゃないかというのが起業した背景になっています。言うなれば、育休が起業の原点ということです。
遡ると、実は2014年に第1子が生まれた時にも起業していまして、子どもが生まれるたび育休を取って起業する人、みたいな形になっています。
事業は一言でいうと、ネットスーパーを小売の大きな会社さん、例えば現在の弊社のパートナーさんですと、イトーヨーカドーさん、ライフさんなど、都内や近畿に何百店舗を持たれている会社さんが、インターネット上で鮮度があるお野菜、お肉や牛乳を商売できるようにするためのプラットフォーム「Stailer」を提供する事業をしています。今日は楽しみにしていました。よろしくお願いいたします。
XTalent筒井:矢本さん、ありがとうございます!では岩崎さん、よろしくお願いします。
YOUTRUST岩崎さん:株式会社YOUTRUST代表の岩崎由夏と申します。簡単に自己紹介をさせていただければと思っております。私は、2012年にDeNAに入社しまして、新卒・中途の採用担当となり、業務の中で採用市場の課題というのをまざまざと見まして、「じゃあ、自分で何とか解決してみるか!」というところで、現在のYOUTRUSTという会社を設立しております。今も楽しく経営をやらせていただいております。
2017年にYOUTRUSTを設立して以降、プライベートでは流産したり、やっと妊娠したら子宮筋腫で入院して色んな人に迷惑をかけたり、紆余曲折ありながら現在はすくすくと育った2歳の長男を大事に育てております。
会社のご紹介ですが、サービスとしては2つ展開しています。「YOUTRUSTって知ってるよ」という方がいらっしゃれば、おそらく見ていらっしゃるのは、キャリアSNSの方ですね。どなたでも登録いただけて、キャリアのSNSとして使っていただいているかと思います。一方で、toBとしてはHR Tech SaaSを展開しています。
具体的には、toCは信頼でつながるキャリアSNSとして、社内外の仕事仲間、例えば前職の同僚や知人とつながっていただいて「あの人副業できるじゃん」「うち、手伝ってよ」みたいな連絡ができたり、知人同士で他己紹介をし合ったり、投稿でキャリアに関する最新情報を見ていただいたりすることができます。最近ルームという機能を入れたので、前職の同僚の方とかとオンラインでサクッと話ができたりもします。
一方、toBサービスの売り上げはどうあげているかというと、私たちはSNSなので、既存の転職媒体に登録されていない優秀層の方々にアプローチできるスカウトサービスとして現在は展開しています。今後も色々とSNSとして他事業も展開していく予定です。絶賛採用募集中です!
私、伝えたいことを先に言ってしまいがちな人間なんですけど(笑)、ライフイベントや妊娠・出産って、ぶっちゃけ色々あって計算できないので、自分のキャリアにブレーキを踏む必要はないということをお伝えできればなと思っています。
今メンバーのマネジメントをやらせていただいているのですが、産休・育休って権限移譲のチャンスなので、そういった話もできればなと思っています。
また、スタートアップって結構ブラックだと思われがちなのですが、実は子育て世代には良い環境なんだよ、ということをお話しさせてください。
女性活躍のキーは「男性がどう活躍するか」
XTalent筒井:ありがとうございます。ここからは今回の調査分析を担当いただいたEnbirthの河合さんから、調査に基づいたお話と各社のデータについてご紹介をいただけたらと思います。河合さん、よろしくお願いします。
Enbirth河合さん:皆さん、こんにちは。株式会社Enbirthの河合と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
今日のテーマは「ボードメンバーの育休取得経験は経営にどう活きるか」なのですが、実は私、この回をとても楽しみにしてきました。なぜそんなに楽しみだったかというと、今回の調査においてデータ分析をしていく中で、今回のテーマである「キャリアとライフをトレードオフにしない」「本質的な女性活躍を実現する」ということの答えが、これなんじゃないかなというところに行き着いたんですね。
男性も公平に、つまり、"普通に" 制度を使える風土づくりができたら、おそらくキャリアとライフがトレードオフにはならないんじゃないかと。どのように風土をつくっていくかという道のりに、ボードメンバーの育休というのはもう切っても切り離せないと思うんですね。
ですので、今日はそういった切り口でお二人のお話を聞けるのをすごく楽しみにしています。
育休取得後は、仕事により質を求める
なぜ分析の結果、この答えに行き着いたのか、なぜ男性の制度活用が重要なのか、ということに関してデータをいくつかご紹介します。
まず、こちらは育休を機に訪れる意識の変化を表しているグラフです。
育休をとると、本人の意識は上がるのか下がるのか。答えは「上がる」んですね。育休取得前も元々意識は高かったんですけれども、育休復帰後の方がさらに意識が上がっていて、もっと面白いことしたいよね、もっとスキル・経験を身に付けたいよね、せっかく子どもを預けて仕事をしているわけだから面白い仕事をしたいよね、子どもに誇れる・世の中の役に立つような仕事をしたいよねーーという意識が強く芽生えるんですね。つまり、育休を取った後の方が仕事に、より質を求めるようになる のです。
一方で、注目いただきたいのですが、昇進意欲だけがくんと下がっているんです。こんなに仕事の質を求めるようになるのに、昇進意欲だけ下がってしまう。なぜこんなに下がっているんでしょうーーいくつか理由はあります。
まず職場環境の面なのですが、こんな聞き方をしてみました。「自分の働き方がもし〇〇だったら、もっと評価されるのにと思うことがあれば教えてください」と。そうすると「日常的に残業ができたらもっと評価されるのに」と思っている人は37%もいるんですね。
いくらでも残業できる人はそんなことに気がつかないんだけれども、時間に制限ができて初めて「もっと残業できたら評価されるのに…」「もっと突発対応ができたら評価されるのに…」と思うようになるのです。そうすると、こういった未だに昭和の男性社会のような職場で「私は昇進できない」と諦めの気持ちが働いてしまうのです。
もしくは 、日常的な残業や突発対応ができるか否かで評価の対象になるーーそんな昭和な職場で昇進していくことに興味がなくなってしまうという方もいるんじゃないかなと推測できます。ここまでが職場環境の面です。
一方で、家庭環境はどうか。これも共働き家庭にとっては、切っても切り離せない家事・育児負担問題なのですが、昇進意欲が下がってしまった女性たちの家事育児の負担は70%にもなるんですね。そして、男性は30%しか負担していない。これだけ家事・育児の負担割合が大きかったら、昇進意欲もなくなるだろうというのが推測できます。
ここまで、育休から復帰した女性の意識変化について見てきたのですが、会社からアサインされる仕事の変化を表しているのがこちらのグラフです。
昇進機会減少の背景には、アンコンシャス・バイアスがある
オレンジ=育休前に仕事で満たされていたこと、緑=育休後の現在仕事で満たされていることです。先ほどとは真逆で、育休前は満たされていた一方で育休後は一気に満たされなくなっている のです。つまり、意欲満々で復帰しているのに与えられる仕事の質は軒並み下がっているということです。
特に昇進機会がガクンと、26%→2% と 24%低下しているんですね。育休を機になぜこんなに昇進機会が減っているのかというと、裏にはアンコンシャス・バイアスがあるんじゃないかなと思って、こちらのグラフを出しています。
「現在勤務先で子どもがいるが故に経験したことがあるものについて教えてください」と聞いたところ、女性では「責任の少ない仕事を与えられている」という人が20%存在しているんですね。「子どもがいるが故に出張にアサインされない」「必要以上に配慮される」と女性の約2割の方が感じている一方、男性は約9割が「特に何も感じていない」と回答しています。
「育児中の女性」というアンコンシャス・バイアスが働いて、どうしても負荷が少ない仕事を与えてしまう。そして、女性の昇進機会が減少している というのが現状です。
一旦ここまでをまとめてみますと、13%の人たちが育休を機に「昇進意欲がなくなった」と言っています。その際、背景にあるのは家庭環境と職場環境です。それぞれ見てみると、家庭環境では女性が70%も家事育児を負担しているーーそれだけ負担していたら昇進意欲は失うよね、という家庭環境がある。なぜこんなに負担しているのかーーこの裏には、男性、つまりパートナーの働き方が大きく影響しています。
職場環境では、長時間労働が前提、暗黙知の評価基準・アンコンシャス・バイアスの存在が根底にあります。やはり男性中心の均一的な職場だとこういったことが起こりやすいんですね。これがなぜ起きてしまうのか元を辿っていくと「男性が制度を使っていないから」ということに辿り着きます。
制度が女性のものになっていて男性が使っていない
↓
男性の働き方が変わらない
↓
男性中心の職場が変わっていかない
という流れになります。
では男性の制度活用はどのくらい進んでいるのかデータを見てみましょう。
これを制度浸透ピラミッドと私たちは呼んでいるんですが、制度が単にあるだけではなく、どれだけ本質的な運用がなされているのかを表しています。
制度がそこそこ整っていても 、女性だけのものになってしまっていて男性は使いづらい、制度を使うと肩身の狭い思いをする、制度を使うと評価や昇進に影響がある、というのが多くの日本企業の状況です。その項目だけ、スコアが低くなっているのがわかります。
特に「制度はあるが、男性が使いづらい」という項目はスコアが低いのですが、なぜ低くなってしまっているのでしょう。
「もしかして、制度を使うと評価や昇進に影響があるかもしれない、足かせになってしまいそうだーーだったら使いたくないよね」という捉え方を多くの人がしているということです。したがって、男性の制度活用がなかなか進まない。
ここで、今日登壇いただいている10Xさんを紹介させていただくのですが、すごく理想的な形です。
株式会社10Xの場合
先ほどとは全然形が違いますよね。制度があるだけではなく、本質的に浸透していることが見て取れます。特にすごいなと思ったのが、制度を使っている人たちが満点をつけている んです。
1,000人調査結果の累計だと、(緑の)ケア責任のある人=制度を使っている当事者の方がスコアが低くなる、という結果でした。制度を使っていない非当事者からすると「制度を使っても別に肩身が狭い思いなんてする必要はない、堂々と使いなよ」「制度を使っても評価や昇進に影響はないよ」という気持ちでいるのですが、制度を使っている当事者からすると「いやいや制度を使ったらすごく肩身が狭いです」「いやいや足かせになっていますよね」という状態です。これだけ見える景色が違うのです。
10Xさんは制度を使っている当事者の方が満足しているというのがすごいところで、本質的な浸透がなされているんだなというのがよく分かります。
株式会社YOUTRUSTの場合
ここでYOUTRUSTさんも紹介させていただきたいと思うのですが、すごく働きがいのある職場なのだなというのが見て取れます。
特に驚いたのは、意欲的な人がとても多いというところ。
何かというと「強みが発揮できる」「スキルや経験が身に着けられる」という項目が本人が求めている以上に満たされている状態というのは勿論なのですが、「自分の存在意義を感じられる」「世の中の役に立っていると思える」ということを殆ど全員のメンバーが求めているのです。それを満たす比率も、全体平均値より大きいのです。この意欲の高さはすごいです。
もう一つ、「仕事の負荷が少ないこと」「責任が小さいこと」を求めている人が誰一人いないということからも、意欲的に働いている人が多いことが伝わってきて、印象的でした。
そんな2社が、育休をどのように活用して魅力的な職場にしているのか?というお話を伺えるのが、とても楽しみです。私からは以上です。
経営者の育児経験は組織上どう活きるか
XTalent筒井:ではここからは、XTalent代表の上原をモデレーターとして、セッションパートに入ります。上原さん、よろしくお願いします。
XTalent上原:XTalent株式会社代表の上原達也です。
実際に企業の中でどのようなことがされているのか、最初は「育休取得者のマネジメント」というテーマで、定性的な話も伺えればと思っています。
お二人とも今の会社で育休取得を体験されているわけではないと思うのですが、経営陣が出産をした・育休を取って子育てをしているということが、従業員や組織に対してどのような影響を与えるのでしょうか。
大前提として、2社とも急成長中なので、既に育休を取っている人がたくさんいるというよりは、きっとこれから増えてくるという局面かと思いますが、現在の実績やカルチャーづくりについて、教えていただきたいです。
まずは矢本さん、10Xさんのご状況はいかがですか?
10X矢本さん:私自身、育休を取得した直後に会社を創業しているということ、そしてもう一つは、生まれた第2子が起業したのと同じ月に大病を患っているということが分かって、1年後に手術をすることになったんです。その間、家庭のケアもとても大事でした。
創業したら初めはシャカリキに長時間労働をするーーということをイメージされると思いますが、弊社の場合は初日から大体17時には仕事を終えて家に帰っていないといけない、というのが制約として存在していました。
その時はその時で緊張感やプレッシャーがたくさんあったのですが、結果的に「何よりも家庭第一」というのがそのまま会社の文化になっています。会社に入社される時に初めに人事からお伝えするオンボードのドキュメントにも書いてあるし、社長も17時ぐらいにはささっと上がるんで、と現実味を持って説明させていただける状態にはなっていると思っています。
あとは、会社としてはご家族やプライベートをしっかり大事にしながら長い目線で大事なものをつくっていこうよ と伝えています。その中の1つが育休で、「取らない」という選択肢を取るのは誰しもあっていいと思うのですが、僕の口から「大変なので取った方がいいと思うよ」と積極的に推奨することがあります。今までですと、弊社に入社後に(自身・もしくはパートナーが)出産を経験される方は100%、育休を取得いただいています。
また、候補者に内定のオファーを出した時に、「実はこれから出産の予定があります。10Xでお仕事したいのだけれど、入るとすぐ休むことになるのでご迷惑になると思って迷っています」という相談を受けたことがあります。その時は「すごくめでたいことだから是非取得してください」とお話しました。その方は「じゃあ、2ヶ月とります」と言われたので、「いやいやいや半年ぐらい取るっていうことを検討した方がいいんじゃない?」とお伝えして、結局その方は半年ぐらい取得されましたね。
私もそうなのですが、会社全体として「育休ってあった方がいいよね」「取るという権利はどんどん行使した方がいいよね」「短いより長い方がきっと家庭の支えになるよね」「それが自分の身に起きた時にもそうした方がいいよね」というような "スタンダード" がある程度できているのが現状です。
最後にもう一つ付け加えると、社員の方から「これから出産予定があり、育休取得を予定したい」という声があがるケースが増えてきているので、いい形でバトンが渡っていくといいなと思っています。
XTalent上原:経営者ならではの説得力と「半年取りなよ」という背中の押し方が素敵ですね!岩崎さん、YOUTRUSTさんのご状況としてはいかがですか?
YOUTRUST岩崎さん:弊社はまだ小さい会社なのですが、対象になったのが私とCOOとプロダクトのボスをやってくれている女性の3人でした。
私は産育休以外でも、子宮筋腫で2週間ぐらい突然入院したことがあるのですが、その経験は原体験になっていますね。COOの男性も1か月弱、プロダクトのボスをやってくれている女性も3か月の育休を取っていましたね。彼女の場合は「自分は3か月で復帰します」と宣言して、パートナーの方が1年間、現在(2022年3月当時)も育休を取られています。
彼女は、入社前からお腹が大きい状態で「実は妊娠しているんです」といって、転職するかどうかを迷われていたんです。その時に慌てて自分たちの就業規則を見直しました。
これについては、先日上原さんとも喋っていたのですが、日本の就業規則のテンプレートに「入社1年間は産休・育休を取ってはいけない」という項目が、なぜか入っているんです。殆どの会社はそのテンプレを使うので、実質1年間は「妊娠するなよ」ということになっているのですが、「そんなのありえないから!」と思いまして、その項目を自分たちの就業規則から削除したんですよね。
そして、彼女には「YOUTRUSTにはそのルールはないから、入社しなよ!」とお伝えし、ジョインしてもらったというのはありましたね。
XTalent上原:素晴らしい人材を採用する上で、いかに多様性を受け入れる姿勢がポジティブに働くか、というのを表す事例ですね。
矢本さんは、この点についていかがですか?
スタートアップから常識を変えていきたい
10X矢本さん:育休だけじゃなくて、例えば介護休暇やシックリーブ(傷病休暇)を含めて、なぜか1年または半年継続勤務しないと有給も付与されないというルールがありますよね。我々も初めのころは「一般的な企業のスタンダードってそうなってるんだな」と思って倣おうとしていたのですが、考えた結果、入社初日に有給を10日付与するなど、手を加えたんですよね。
まさに、育休取得も事例ができ始めて、世の中がどう動いていて我々はどうしたいのかを考える、ということがありました。その時に「おかしくない?」というYOUTRUSTさんと同じような議論があって、今より使い易い形にして『10X Benefits』としました。
「働きたいのに働けない」「自分が何かの機会を我慢しなきゃいけない」そういったことを我々はダウンサイドリスクって呼んでいます。会社で気持ちよく貢献したいのに何らかの事情でできなくなるというリスクを、会社としてはどんどんカットしていく。個人が選びたい選択肢を増やすことにフォーカスしよう と。その視点でみると、入社して数ヶ月経たないと取得できないというのは片っ端から取っ払う必要があると感じていますね。
採用の面でも、そういったことを発信していくことで、10Xがライフイベントや個人の事情に対して受け入れができる体制だということをお伝えしており、それを知っていただいている方も少しずつ増えてきています。
最終的には我々が大きくなることで、「10Xがやっているから」と他の会社さんにも真似していただいて、日本のスタンダードが変わっていくといいなと思っています。「そういう体制を築けていないと選んでもらえない」「選択肢を提示できることが当たり前」というように、スタートアップから常識を変えていきたいです。
YOUTRUST岩崎さん:スタートアップの方がやりやすいですもんね。まだ人数が少ないですし。
XTalent上原:日本の採用市場、労働市場の中では、「2人目を考えたら転職活動は難しいのかな」「子どもがいても転職活動できるのかな」と不安に感じている人たちが多くて、そういう方々にこのような事例をお話することで「そんな会社もあるんですね!」と、希望を感じていただけることは日々実感しています。
いまの自分にとって最良の機会を逃さないで
XTalent上原:次の設問にもあるのですが、今回のテーマでもある「キャリアとライフはトレードオフじゃない働き方の実現」に向けて、働く人に対してこんな考え方を持っておいていただきたい 、知っておいていただきたい、というメッセージをいただけますか?
YOUTRUST岩崎さん:もしかしたら視聴いただいている方は女性が多いのかなと思うと、自分の原体験もそうなのですが、女性ってすごく自分の年齢から出産や結婚を割り戻して、勝手に計画したりブレーキを踏んだりするなと思っていて。それは頭が良いというか、賢い反面、無意味だったりもするなって自分の経験から思っています。
それこそ妊娠しても流産することはあるし、流産直後にまた妊娠したり、途中で入院したり…ぶっちゃけ計画しきれないなと体感している中で、タイミングが読めない以上、全部どりしに行った方がいいんじゃないかな?って今の私は思っています。
例えば、マネジメントのポジションが狙えそうだとか、キャリアとしてもチャンスが来たっぽい!という時はもう、後から何とかなるから取りに行った方がいいのかなって。
それこそ『LEAN IN』著者でFacebookのCOOのシェリル・サンドバーグ氏もそういった内容をよく発信していると思うのですが、私は仰る通りだと思っていて、全部取りしに行きましょう!って思います。
XTalent上原:明らかに人手不足で転職市場としても、労働者優位になってきていると思うので、そこはちゃんと認識して全部取りを目指していくというのは大事ですよね。
YOUTRUST岩崎さん:ありますよね。今は売り手市場なので、市場力学的には従業員優位。従業員にいかに選んでもらえるか、企業側が努力をしないといけないので、それは理解した上でハックしてもいいかなって思います。矢本さん、どうですかね?
10X矢本さん:そう思いますよ。本当に「強気で」という言い方はあれですけれども、やはり「選ぶのは自分である」というスタンスを捨てる必要はないと思いますね。
一昔前だと、社会的に若干何かをビハインドすると自分自身も捉えていたかもしれないし、周りから見てもそう見られているという状態になりやすかったと思うのですけれど、今は決してそんなことはないなと思っています。
我々はネットスーパーを立ち上げる事業をやっているのですが、ネットスーパーを使い始めるきっかけって、それこそご出産だったりするんですよね。我々のユーザーさんが子育て中の方なので、同じ境遇の方が社内にいることは正直事業にもダイレクトに効果があるなと思っています。お客様にどういうことをしたら価値が出るのか?というのを、ご自身の言葉で語れるという意味では、積極的に採用したい候補者像でもあります。そういうことを踏まえると、現在の社会とか、先ほどの売り手・買い手の市場関係とか色んなものが変わり続けているので、ご自身に一番いい機会をずっと選び続けることを何よりも自信を持ってやっていただくといいのかな、と思いますね。
XTalent上原:とても勇気づけられるメッセージをありがとうございます。
「経営者の働き方」における常識の変化
XTalent上原:子育て世代や介護中の方にとっては、リモートワークなどの働き方の変化ってすごく大きな流れだよね、ということを前に岩崎さんとも話していたのですが、確か以前の10Xさんでは同じ場所にいるということを大事にされていたなと記憶しています。現在、矢本さんは大阪に移住されて、これはすごく大きな変化だったのではないでしょうか?
10X矢本さん:これも「子ども優位主義」みたいな意思決定ですね。コロナ禍で家の中に閉じこもっている時間が長くなり、私たち親も子どももストレスが溜まったり、東京でなかなか開放的な場所もなくて自宅の下の階から怒られたり、色々あった結果「もうこんなとこで生きていけねーや!」と思って、大阪のわりと地方の方に今住んでいます。
我々、本社は東京にあるので「社長が東京にいない状況ってどうなの?」という批判があるかなとも思ったのですが、結局自分にとって大事なもの・社会にとって大事なものを考えた時に、自分がその選択肢を選ぶことを臆してしまうと道が開けないな、と思ったんですよね。
起業家だし、最後の責任は自分で取る!と思って選びました。
結果的には、みんなから応援してもらえたりもして良かったと思います。
やっぱり選ぶのは自分で、自信を持ってやっていただくといいのかなと思います。
XTalent上原:実際、その働き方としてはどういうスタイルなんですか?
例えば東京に行かれるタイミングとか。
10X矢本さん:週4日はほとんど自宅の仕事部屋で、東京には大体週1回行きます。大阪ー東京間は飛行機だと1時間も乗らないぐらいの距離なので、往復しても日帰りできちゃいます。その1日は色んな商談とかを詰めてやるみたいなスタイルですね。
会社全体としては常に10〜15%ぐらいしか出社していないというオフィスの稼働率で、1か月に1回もオフィスに来ない社員もいるので、私はむしろめちゃくちゃいるなって思われてますね(笑)
XTalent上原:それは大きな働き方の変化ですよね。岩崎さん、YOUTRUSTさんではどういったスタイルをされているんですか?
YOUTRUST岩崎さん:我々もリモートワークになってから、両立しやすくなったなというのは自分自身も思いますし、メンバーも言っていますね。
自分が集中できないので極力切り離したい、という気持ちは個人的になくはないのですが、後ろで子どもがご飯を食べながらでも会議には出られます。我が家は保育園が18時15分までに迎えに来てね、という状態なので、18時ぴったりまでうわーって仕事して、その瞬間、バチッて切り替えて晩御飯の準備や風呂に入れて、バタバタ〜みたいなのをやっています。
結構経営陣にお子さんのいる人が多いんですよ。メンバーのうちの半分ぐらいは既婚で、その内、さらに半分ぐらいはお子さんがいるのですけれど、18時以降のSlackはすごく静かですね。
日中はGatherで集まってわいわいするのですが、夜Gatherを見たらGatherに居酒屋ゾーンがあって、そこに一部残っていたりする感じですかね。
XTalent上原:実際、我々がwithworkというサービスでワーキングペアレンツの転職支援をしていて、コロナ前後ですごく変わったなと感じることがあります。以前は制約があって時短勤務を選ぶ方が殆どだったんですよね。でも、今は逆に殆どの方がフルタイム勤務を希望されます。保育園のお迎えの時間は18時とか17時半で、そんなに延長ぎりぎり使いたいって訳ではないのだけれど、リモートワークやフレックスで子どもが寝た後や朝早い時間に働いていいのであれば、フルタイムをむしろ選びたいという声が非常に多いです。働く人にとっても選択肢が広がっているし、企業にとってもアプローチできる人たちが広がっているーーすごく大きな変化だなって思いますね。
YOUTRUST岩崎さん:時短というワード、あんまり聞かなくなりましたよね。しかも時短って1〜2時間早く帰るだけで給与が6割ぐらいになったりするじゃないですか?あれ、ちょっと辛い制度だなと思っていたので、いい世界になってきたのかもしれないですね。
10X矢本さん:減らし過ぎって思いますよね。私のパートナーも第2子を出産してからは、全然スタートアップじゃない日本の一般的な企業でお仕事をさせていただいていて、やはり時短を選んでいたんですよね。
17時とか18時には保育園を迎えに行ってあげたいので、そうすると16時台には会社を出ないといけなくて時短にしているのですが、コロナ禍でフルリモートになって「あれ?働けるやん」となって、17時までのフルタイムに戻したんですよ。
これはそもそもリモートで仕事ができることに企業側が気付いて、そういう環境になった。そしたら、元々は何かを犠牲にしなきゃいけなかった状態が普通に両立しやすくなった。実は働き方が変わることというのがキャリアとライフのトレードオフを減らしていく方向に働いているな、というのは一番身の回りで実感していますね。
XTalent上原:本当にそうですよね。少し前だと、時短勤務を長く使えるようにすることが企業が女性活躍推進をする上では大事なことであるという風潮があったと思うのですが、その結果、そうは言っても給料が低いとかなかなか昇進できないという壁が残ったままになっているんですよね。この前、伝統的な大企業のダイバーシティ推進室の方と話している時に「もう時短とかじゃなくてフレックス・リモートワークにすればみんなフルタイムいけるんじゃないの?って思うんですよね」という話をされていたのですが、これに気付くかどうかの差はすごく大きいだろうなって思いますね。
YOUTRUST岩崎さん:ぶっちゃけ、いけますよね。
XTalent上原:とはいえ育児もあれば介護もあるというダブルケアの人など、時短勤務を必要とする人たちは絶対いると思うのですよね。そして「時短勤務で給与減る問題」を、実は企業が意志を込めて解決しようとしたら何とでもなるんですよね。これはあまり議論されていない問題だなと感じています。
組織における "普通" の変え方
ここで、事前に参加者の方からいただいていた質問をご紹介します。
- 視聴者の方からの質問 #1 -
YOUTRUST岩崎さん:アンコンシャス・バイアスという切り口だけじゃないのですが、ジェンダーやダイバーシティのフェアネスみたいなことは私が普段からかなり口うるさく言っています。例えば最近、経営陣の中の男女比率みたいな話があって、私は女性なのですが、やっぱり放っておくと男性が多くなるんですよね。それを私が今まで口酸っぱく言っていたのですが、最近COOがそろそろちゃんと見た方がいいんじゃないか?と提案してくれて。
代表とか経営者が口酸っぱく言っていると、結構みんなの "普通" は変わってくるんだなと思っていて、そこは「言ってて良かった」と思いますね。
10X矢本さん:アンコンシャス・バイアスって、自分じゃない人が持っている何かに気付けないってことだと思うんですよね。簡単に言うと、自分と属性が違う人が抱えているものに対して気付けない、そういうものだと思っています。なので、単純に自分と違う人が近くにたくさん居たら気づけることだと思っています。
岩崎さんと同じになってしまうのですが、「私たちって一様だよね」という状態が危険である、もっと多様になっていかなきゃいけない、歪んだバランスを是正しましょう、ということに対してアクションや仕組み、あるいは見えるKPIに落とし込まれていることがとても重要だと思っています。
それは経営の話でもあるのですが、結局、採用の現場で動くのってその職種の方ですよね。だから、改善に対して頭が向くかはすごく大事だと思っています。
もちろん最初は、私たちがちゃんとメッセージすることが重要だと思うのですが、ご自身で「何が歪んでいてどうなっていたらいいのか」目を張る・意識する ということが大事かなと思います。
例えば弊社だと、男女比率 7:3で男性が多い。少なくとも「5:5が自然だよね」ということを言い続けることは大事ですよね。
でも、具体的に「これをやったら超効きます」「これをやったらめっちゃうまくいきます」という特効薬・近道はあんまりないなって思っています。
XTalent上原:自分はフェアだって思っている状態が一番危険だなって思います。特に男性で「俺は男女平等だよ」と言っている人が何か危険をはらんでいるというのは、あるあるだなと思います。
「自分はどこかバイアスを持ってるんだ」と不安に思っているくらいの方が、おそらく正しいんでしょうね。
育休取得に関するメッセージ性への疑問
XTalent上原:ではここで育児・介護休業法改正が2022年4月1日より実行されるなど、時代が明らかに変化していく中でどうしていきますか?という話ができたらと思います。
今回の制度改正もそうなのですが、いま男性育休を様々なメディアでプッシュしまくっていますよね。それは割合が低いからどんどんそういったポジティブアクションはやっていいなとは思うのですが、ただ、そもそも「子育て世帯の方が育児をしながら、労働の現役世帯としても気持ちよくお仕事を頑張れるようにしようよ」という主旨の、もうちょっといいメッセージが出てきてもいいんじゃないかな と個人的には思います。
XTalent上原:なるほど、そうですよね。
そして、いま質問が来ていまして紹介させてください。
- 視聴者の方からの質問 #2 -
これに関して、岩崎さんはいかがですか?
YOUTRUST岩崎さん:私は分割というよりも、うっすら続けてうっすら休めてもいいんじゃない?とずっと思っています。私たちのサービスを使って下さっている方にも、「産休・育休中に副業したい」「ぶっちゃけちょっと働ける」「本業についてちゃんとインフォメーションをアップデートしておきたいと思っているのだけれども、しっかり休まなければ産育休の補助が出ないという制限があって、休まないといけない」という方が結構おられます。
そのあり余ったエネルギーって、超もったいないなと思うんです。今回の改正で、もしかしたらそういった項目が入っていたような記憶もあるのですが、月に何時間かは働ける範囲で稼働し、状況をアップデートしつつもしっかり休む分は休む、という選択肢があってもいいのでは?とよく思います。
10X矢本さん:もし3人目が産まれたらどうする?と問われたら、私は間違いなく育休をとります。でも従業員ではないので、就業規則の中ではなく、単純に「取締役が今いません」という形になりますが、恐らく週に1回の経営会議だけ出席すると思います。
でも、今の産休・育休制度で、従業員がそういったことをするのはNGじゃないですか?制度的にはその部分が柔軟性に欠いているというか、すなわち「こういう休み方をしなさい」という選択肢の固定化をされていると思っていて、あまり良くはないですよね。
「こういう選択をしたい」というのを話し合って選べるようにするのが健全だと思っているので、この点についても、今後やりやすくなっていくといいなとは思います。
XTalent上原:矢本さん、コメントありがとうございます。
今回の取り組みは、DE&Iという言葉で定義しているので、やっぱりEquityの観点もすごく大事だと思っています。特定の人にだけしっかり制度をつくるのではなく、多様な人が様々な選択肢を取れるように、制度上もそれを担保し、カルチャーとしても浸透させていく。
つい「制度を手厚くしよう」という方向に向かいがちですが、企業側も従業員側もそういった意識はもっと持っていて良いのかもしれないですね。
育休復帰時のオンボーディング
ここでまた質問を頂戴しています。
- 視聴者の方からの質問 #3 -
結構よくある話が、浦島太郎になっちゃう問題。
特にベンチャー企業は変化が激しいので、1年経って戻ると部署も人もガラッと変わります。復帰後すぐは苦労するということが起きがちだと思うのですが、何か考えられていることはありますか?
YOUTRUST岩崎さん:考えているというか、実質そうなってしまっていますね。私たちの場合、すべての権限を残して育休に入ってもらいますが、人によっては見たかったらSlackを見ても良いし、それ以外のコミュニケーションツールも全部見れる状態にはしています。
私を含め、これまでに育休を取得したメンバーがちらちらSlackに浮上しているのは、お互いに分かっているという状況ですね。
それは、会社として強いているものではないので、人によってはその期間、Slack等の通知は消すといいと思っています。こちらから仕事は振らないですし、メンションも付けないのですが、キャッチアップしたかったら見てもいいよという感じですね。
10X矢本さん:弊社も実態としては同じ形ですね。理由は、その期間中もいわゆる人事からの「変わったことはないですか?」というような連絡はある程度必要だと思っているので、その場所としてSlackは残しています。
他方で、我々は積極的に浦島太郎になってもらっています。育休を半年取ると、キャッチアップし続けるには変化が早すぎて、断片的な情報だけだと無理なんですよね。なので、残っているけど基本的にはもう見ない・見ないでくださいというメッセージを伝えています。それでも、見ていたりするのですが、1か月ぐらいで諦めてみんな見るのを止めていく、という(笑)
ですので、僕らとしては "再入社" という考え方で、もう一度オンボードし直す、ということを育休から戻ってきたタイミングで行っています。新入社員向けには手厚いオンボードのパッケージがあるのですが、それをもう一回やり直してもらう。そして、CEO面談もして、部門面談もして、この会社は今どういう状態かというのをお話しする。そうやって、オンボードのプロセスを一通りやってもらい、1か月ぐらいしっかり温めてまた乗っかっていってもらうということをしています。
XTalent上原:育休後のオンボーディングという観点、いいですね。
10X矢本さん:「積極的 浦島太郎プラン」とお呼びください(笑)
XTalent上原:長い!(笑)ありがとうございます。
まだまだお話しできる要素がいっぱいありそうなのですが、良い時間となってきましたのでこの回は締めていきたいなと思います。
XTalent筒井:皆さん夜のお時間いただき、どうもありがとうございました。
登壇者の皆様:ありがとうございました!
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