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#02 同志少女よ、敵を撃て 【読書感想文】
“照準線の向こうに獲物をとらえたとき、心は限りなく「空」に近づく。”
本屋で出逢った時、この一文から始まる第一章に心がグッと掴まれた。4年前に発売されてから認識はしていたものの、戦争小説であり、旧ソ連が舞台というのもあり、中々手が出せれていなかった。ロシア文学は登場人物の名前が難しく中々読み進めれなかった経験があったからだ。しかし、この作品は無駄のない展開の連続で読みやすく、一気読みしてしまう魔力があった。2025年1冊目にこの本に出逢えて良かった。
独ソ戦の戦火が燻る1942年、モスクワ近郊の村に住む主人公若き女性セラフィマは、野生動物の食害から村を救う射撃手であった。外交官になる夢を持ち、未来に向けて生きていた。しかし、そんな日常は急襲したドイツ軍により突如として奪われる。愛する母や村人は惨殺され、生まれ育った街が血の海で染まっていく。自らも射殺される寸前、赤軍兵士イリーナに救われ、問われる。「戦いたいか、死にたいか」。復讐のため狙撃兵になることを決意したセラフィマは、同じ境遇で戦うことを決めた同志たちと独ソ戦最大の激戦スターリングラードの前線へ。死線の先に見つけた答えとは。
この作品で個人的に一番感動したのは、戦時中を生き、闘う登場人物達の心情描写の美しさだ。そして、戦争をここまで解像度高く描写しているところだ。
“どれほど普遍的と見える倫理も、結局は絶対者から与えられたものではなく、そのときにある種の『社会』を形成する人間が合意により作り上げたものだよ。だから絶対的にしてはならないことがあるわけじゃない。戦争はその現れだ。”
善悪、誰が正しいか、そんな単純な軸が通用しない世界で、登場人物ひとりひとりに正義があり、葛藤の中で成長していく。その過程がここまでも丁寧に繊細に描写されていた。作品を読んで後の参考文献の多さに驚愕したほど、逢坂冬馬さんの作品に対する熱意によりこの世界観が完成したのだろう。
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房、2021)