中山智裕

社会人大学院生。人文社会学の視座で、戦略・イノベーション領域におけるデザインを編む。京…

中山智裕

社会人大学院生。人文社会学の視座で、戦略・イノベーション領域におけるデザインを編む。京都大学経営管理大学院 博士後期課程/JAIST 修士(知識科学)/Kyoto Creative Assemblage 1期/多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム 1期

最近の記事

ひとりDialogue:「佐藤可士和の仕事を読み解く」を読み解く

第三期が開講中のKyoto Creative Assemblageでは、受講生以外も聴講/アーカイブ視聴が可能な「Dialogue」というトークイベントがたびたび開催される。そのシリーズとして毎年11-12月に実施されているのが、佐藤可士和さんが手がけたプロジェクトを山内裕先生が読み解くという形式でのDialogueである。このシリーズは毎回会場参加しか設けられていないが、過去2年に開催された内容はアーカイブがすでに公開されている。 2022年11月11日:「佐藤可士和の創造

    • 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』、空虚な記号、反復

      トッド・フィリップス監督が手がけ、ホアキン・フェニックスが第92回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した、2019年公開の映画『ジョーカー』。その続編であり完結編でもある『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』が、米国で2024年10月4日、日本では翌週の10月11日に公開された。ほぼ必ず「賛否両論」という言葉を添えて紹介/批評されるこの作品について、縦横無尽にポップカルチャーを/も論じるスラヴォイ・ジジェクのように考察することを試みたい。以下は『ジョーカー』『ジョーカー:フォリ・ア・ド

      • design thinkingとstrategic designについての私的覚書

        2024年3月20日に発行された立命館大学デザイン科学研究所(旧:デザイン科学研究センター)紀要『デザイン科学研究』vol.3に、査読論文「ストラテジックデザイン実践におけるビジョン創造の探索的研究─認定NPO 法人の新規事業プロジェクトのエスノグラフィ─」を掲載いただきました。(DOIでのリポジトリはこちら) noteの記事中で紹介しないまま半年が過ぎてしまいましたが、お読みいただいたりご意見などお寄せいただければ、うれしく思います。 単なる論文掲載の紹介だけだと芸がない

        • 『Fly Me to the Moon』と歴史をつくること

          グレッグ・バーランティ監督が手がけ、スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、ウディ・ハレルソンがキャストとして名を並べる映画『Fly Me to the Moon』。アポロ11号が月面着陸した55年後にあたる2024年7月に、日米で公開された。ロマンティック・コメディとして謎を残さないハリウッド的な映画であったため、この映画そのものの考察や批評ではなく、劇中の言葉を手繰って自身の研究的な興味関心の側へ話を拡げてみたい。 We're making history.

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        マガジン

        • Kyoto Creative Assemblageでの学び
          14本
        • 話題の映画、時々の学術的関心
          11本
        • JAISTでの社会人大学院生体験談
          4本

        記事

          『her』、「聴くこと」、「声のきめ」

          米国では2013年、日本では2014年6月に劇場公開された映画『her(邦題:her/世界でひとつの彼女)』。なぜ、この映画に惹かれ、今も話題にしてしまうのか。ロラン・バルトのエッセイから言葉を借りながら、気ままに考察したい。 『her』と声 OpenAIが2024年5月13日に発表した「GPT-4o」の会話インターフェイスで用いられた合成音声が『her』でAIアシスタント"サマンサ"を演じたスカーレット・ヨハンソンの声に似ていたことも含め、まるで『her』の世界だ、と多

          『her』、「聴くこと」、「声のきめ」

          『GIFT』と両義語法

          爆音映画祭 in ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場 Vol.14の特別企画として上演された『GIFT: A Live Score by Eiko Ishibashi X Film by Ryusuke Hamaguchi』を鑑賞した。そのライブパフォーマンスがどのような背景を持っているかは、同企画の説明文が端的に示してくれている。 以前に記事を書いた映画『悪は存在しない』とは異なり、『GIFT』を鑑賞できる機会は限られている(さらにはどのような鑑賞体験も「一回きり」

          『GIFT』と両義語法

          『悪は存在しない』と存在しない「自然」

          第80回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞し、日本では2024年4月26日に公開された、濱口竜介監督による映画『悪は存在しない』。この作品を観終わったあとの思索を深めるひとつの視座として、「自然」概念を取り上げたい。なお、本記事は最後まで公開情報の範囲で記載する(ネタバレ含む内容自体の考察については、数多ある他の記事や動画を参照されたい)。 『悪は存在しない』 2023年の61st New York Film Festival(NYFF)のセッションのなかで濱口監督は、

          『悪は存在しない』と存在しない「自然」

          二度目の自己紹介:続く「人文社会学とデザインの交差点」

          はじめまして、もしくは、いつもお読みいただきありがとうございます。中山智裕(なかやまともひろ)です。 私は2022年9月にnoteをはじめました。そのときには、多くの方と同じように、自己紹介記事を書いています。そのなかでnoteをはじめるきっかけとして書いた、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)博士前期課程での研究活動とKyoto Creative Assemblageの受講については、それぞれ記事を書き、マガジンとしてもまとめました。2023年3月にそれらを修了してか

          二度目の自己紹介:続く「人文社会学とデザインの交差点」

          『オッペンハイマー』と崇高な対象

          クリストファー・ノーラン監督が手がけ、第96回アカデミー賞で作品賞や監督賞を含む7部門を受賞した『オッペンハイマー』。3月29日から日本での公開が始まったこの作品について、ラカン派精神分析の視角から縦横無尽に映画を/も論じるスラヴォイ・ジジェクのように考察することを試みたい。以下は『オッペンハイマー』鑑賞後に読まれることを想定し、作品自体の説明は深くせず、(伝記映画ではあるが、具体的なシーンを参照するという意味で)ネタバレ含め記載する。 『オッペンハイマー』制作前の問い

          『オッペンハイマー』と崇高な対象

          「Kyoto Creative Assemblage」のスタイル:2年目の私的更新

          2024年3月9日、Kyoto Creative Assemblageの第二期修了式がおこなわれ、一期生にも声かけいただき参加してきました。京都大学、京都工芸繊維大学、京都市立芸術大学の各大学の担当講義・演習の振り返りに加えて、二期生のみなさんを交えたパネルセッションの時間もあり、一期生にとっても気づきの多い時間でした。それに触発されて、私が修了した一年前に書いたプログラム全体像の考察に対して、自ら更新するためにこの記事を書きます。 プログラム全体像 私は第二期Part1

          「Kyoto Creative Assemblage」のスタイル:2年目の私的更新

          『哀れなるものたち』と倫理的行為

          ヨルゴス・ランティモス監督が手がけ、エマ・ストーンが主演した『哀れなるものたち』。第96回アカデミー賞11部門ノミネートを果たしたことで注目を集めるこの作品のラストシーンについて、ラカン派精神分析の視角から縦横無尽にポップカルチャーを/も論じるスラヴォイ・ジジェクのように考察することを試みたい。以下は『哀れなるものたち』鑑賞後に読まれることを想定し、作品自体の説明は深くせず、(ラストシーンを扱う以上、当然ながら)ネタバレ含め記載する。 ラストシーンの選択肢 注目の作品だけ

          『哀れなるものたち』と倫理的行為

          『PERFECT DAYS』と〈対象a〉

          ヴィム・ヴェンダース監督が手がけ、2023年のカンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞を獲得した『PERFECT DAYS』。日本では2023年12月22日に公開され、個人的には2024年の映画館初めになったこの作品について、ラカン派精神分析の視角から縦横無尽にポップカルチャーを/も論じるスラヴォイ・ジジェクのように考察することを試みたい。以下は『PERFECT DAYS』鑑賞後に読まれることを想定し、作品自体の説明は深くせず、ネタバレ含め記載する。 〈対象a〉 objet

          『PERFECT DAYS』と〈対象a〉

          「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ後編

          Kyoto Creative Assemblageの前半にあたるPart1「エステティック・ストラテジー」について、自身の学びの整理として本記事を書きました。ぜひ前編を一読いただいた後に、本記事をご覧ください。この後編についても、山内裕先生の趣旨・主張を正しく汲み取れていない可能性がありますので、あくまで一人のフォロワーが受け止めた内容とご理解ください。 エステティック・ストラテジーとは、既存の意味のシステムを解体し、人々が本当の自分を感じられるような世界観を呈示するための

          「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ後編

          「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ前編

          一期生として昨年度修了したKyoto Creative Assemblageが、二期として今年度も実施されています。そして、前半にあたるPart1「エステティック・ストラテジー」にメンターとして参加していますが、その内容が一期から大幅にアップデートされているため、もはや受講生と同じ感覚で学んでいる状況です。そこで、受講していた昨年度と同じく、今年度も自身の学びの整理として本記事を書きました。一期の講義内容は参照せず、二期の講義内容および一期以降に公開された記事・論文・ポッドキ

          「エステティック・ストラテジー」とは何か:2年目の私的まとめ前編

          『TÁR』と欲望

          2023年のアカデミー賞では作品賞含む6部門にノミネートされ、日本では2023年5月12日に公開された『TÁR』(邦題は『TAR/ター』)。公開初日に映画館で字幕版を鑑賞し、その後に2回観るほど、惹き込まれる映画だった。本記事では、この作品にふさわしい光の当て方だと個人的に感じている、「欲望」について紹介したい。なお、本記事は最後まで公開情報の範囲で記載する(ネタバレ含む内容自体の考察については、数多ある他の記事や動画を参照されたい)。 欲望 desire 今回も、京都大

          『TÁR』と欲望

          design thinkingとwicked problemを誰が結びつけたのか

          論文を読んでいると、「〜という概念は、(研究者)が初めて提唱した」という趣旨の文章にしばしば出会う。この観点で、(理論寄りの)デザイン研究をしている方であれば一度は出会ったことがあるのは、「design (thinking) 研究に wicked problem を持ち込んだのは、Richard Buchanan である」ではないだろうか。たとえば、Interaction Design Foundationの記事でも以下の文章が確認できる。 Johansson-Sköldb

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